【失敗しない!中国ものづくり|第15回】日本人の作成する曖昧な表記の図面
これまでの連載記事
- 第1回:『中国での不良品やトラブルの原因は60%日本人にあり』
- 第2回:『中国人の「問題ない」に潜む3つの意味』
- 第3回:『勝手に変更される金型』
- 第4回:『「機能するから問題ない」の品質感覚』
- 第5回:『「専門学校を出ています」「検査するから問題ない」と言い切る中国人』
- 第6回:『市場で突然割れ始めた液晶モニターのリアカバー』
- 第7回:『市場で突然発生したスポット溶接剥離』
- 第8回:『20%は通じていない!?日本語通訳との会話』
- 第9回:『中国メーカーに確実に伝える情報の出し方』
- 第10回:『春節だけで15%の作業者の入れ替わる製造ライン』
- 第11回:『製造ラインで確認を忘れがちな2つのコト』
- 第12回:『QC工程表に無いところで発見される不良原因』
- 第13回:『中国に出回る模倣部品とその対策』
- 第14回:『「どこで」「どのように」作られているかを知る重要性』
- 第15回:『日本人の作成する曖昧な表記の図面』
中国の部品メーカーに部品作製を依頼し納品されたときに、「普通こうはやらないだろう〜」や「ちゃんと書いてはあるのに」、「これは一般的に不良レベルだ」と思わず嘆いてしまったことはないでしょうか。中国では日本の部品メーカーと比較して、自分の思惑とは違う部品ができてしまうことがよくあります。私たちはそれらのほとんどを中国メーカーに原因があるとしてとらえがちですが、実はそうではない場合が非常に多いということにお気付きでしょうか。この原因には次の2つがあると考えています。
1)私たちが実は曖昧な図面を描いている
2)不明確な箇所の問い合わせがすぐできない
2)に関しては分かりやすいと思います。図面には非常にたくさんの要素が盛り込まれています。設計者が完璧に描いたと思っていても、いざ部品を作製すると漏れている要素がけっこう多くあるものです。また特殊な形状や仕様に対しては、図面への表現が難しい場合もあります。
そのような場合に、日本でしたら依頼した部品メーカーの担当者からすぐ電話やメールが送ってきます。そしてすぐ回答をして解決します。しかし中国では部品を作製する担当者はすぐ電話で日本の設計者に連絡を取り回答を得ることはできません。日本語通訳にまず説明してメールで設計者に問い合わせをしてもらい、その回答を待つことになります。日本語通訳と図面に関してのやりとりを電話ですることは誤認識を招く場合があるので、基本はしません。すると一つの質問で2日以上費やしても不思議はありません。中国の部品メーカーの担当者は待っていられないので、「自分の判断」もしくは「内容を無視」してしまうのです。それは仕方のないことです。
実は曖昧な図面を描いている
図1を見てください。私が実際に日本の設計者から受け取った図面です。この図面で、中国メーカーで見積もりと部品作製をして欲しいと依頼されました。
図1 接合方法の指示のない図面
2つの部品があることは分かりますが、それらがどのように接合されているか分かりません。私は電話を担当者にかけ「これらの2つの部品はどのように締結しますか?」と質問しました。返ってきた答えは次のようなものでした。「普通はスポット溶接と思いますよ。だからそれでお願いします」私は「スポット溶接ですね。分かりましたが図面に記載してもらえますか?」そしてしばらくして図2のような図面が送ってきました。
図2 溶接の記載はしたが、溶接位置の記載がない図面
私は送ってきた図面を見て再度電話をかけました。「溶接の寸法指示はないのですか?」そして返ってきた答えは次のようなものでした。「普通は一直線にきれいに並べて溶接すると思いますよ」私は「いえ、ちゃんと指示しないと均等に一直線に並んで溶接はされません。図面に寸法を記載した方が良いと思います」(図3)最終的には溶接箇所の中心線と寸法を記載してもらい、見積と部品作製ができたのでした。
図3 溶接位置の記載なしでは均等にきれいに並んで溶接されない
この実例は私が経験した中でも極端なものではありますが、このように曖昧に記載をしている図面は非常に多く有ります。次にその他の曖昧な記載の実例をあげていきたいと思います。
図4 外側の螺旋形状は規格化されていないインサートナット
これを使用する場合に、図面上に「○○相当品を使用のこと」と記載してしまうと一般的にその意味は「螺旋部の形状は何でもいいです」ということになります。つまりそれは、大切なスペックである抜去力は何でもいいです、と言っているようなものなのです。基本的にはありえないことです。
日本で試作から量産までの全てを行う場合は、試作で検証してから量産を行います。よってインサートナットがどのような抜去力であっても、試作後の検証で問題ないことが確認されてそれと同じ部品が量産で使用されれば問題は起こりません。しかし日本で試作を行い中国で量産を行う場合は、違うメーカーの部品を使用することが多く有ります。よって「○○相当品」ではなく「△△社製 型番□□」の指定が必要となります。
メーカー一任
上述した2つの例はどちらも「メーカー一任」にしているということになります。他にはどのようなものがあるでしょうか。
板金部品において「ダボ高さ一任」という記載も見たことがあります。このように記載されていると当然図5の右のようなストレート部のないダボができても不思議ではありません。たまにこのようなダボを見かけることがあります。全くダボの役目を果たしていません。一般的にストレート部の寸法は板厚の半分くらいです。部品メーカーの実力にもよりますが、最低必要な高さの寸法を記載しておくべきと考えます。
図5 設計者が期待する高さのダボ(左)と高さを一任されてできたダボ(右)
部品の締結において「外れ無きこと」や「ガタツキのないこと」などの記載もよく見かけます。このような記載ですと、いくつの力(抜去力など)で外れてはいけないかが分かりません。しっかりと「抜去力は○○N以上のこと」と記載し、その測定方法を別途記載するべきです。
反りの規定
「反りは0.5mm以下のこと」と記載されている図面を見かけるこがあります。しかしこれだけでは反りの測定方法は分かりません。簡単に図示すると図6のように、3通りの測定の方法があります。よって反りの規定をする場合には、どのように測定するかを図示する必要があります。隙間ゲージを使うならその旨も記載します。簡単なイラストで指示できるものでしたら図面上に記載しても良いですが、検査標準書に記載しても良いと思います。
図6 いろいろある反りの測定方法
測定方法がまちまちになる図面の寸法記入
図面に記載される寸法は、量産で検査工程や出荷検査、納入検査などでも使用されます。よって測定方法が分かる寸法の記載方法でなければなりません。何通りもの測定方法がある記載方法では測定結果が微小に違ってくる可能性があります。下の図7の右を見てください。
図7 測定方法が分かる図面(左)と分からない図面(右)
右ように描かれた図面における設計者の意図は、幅120mmの部品の中心線を基準にして、それを中心線とする幅18mmの角穴を開けてくださいとなります。しかし幅120mmの中心には何もないため、まずは中心線を測定で作成する必要があります。その中心線の作成の方法は、この部品の右から60mmをとる方法と左から60mmをとる方法の2通りが有ります。この中心線を作成する段階で、これらの2通りの測定方法の違いから微小な差が生じてくる可能性があるのです。そうなるとその中心線を基準として測定する他の部位の寸法は、測定者の測定方法によって毎回微小に違いが出てきてしまうことになります。
基本的に「誰」が測定しても「同じ測定方法」になる必要があります。よって寸法の記載方法は図7の左のように、測定方法が分かるような記載方法である必要があります。
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