【失敗しない!中国ものづくり|第5回】「専門学校を出ています」「検査す...

2019/1/10 ロジ

【失敗しない!中国ものづくり|第5回】「専門学校を出ています」「検査するから問題ない」と言い切る中国人

これまでの連載記事
第1回:『中国での不良品やトラブルの原因は60%日本人にあり
第2回:『中国人の「問題ない」に潜む3つの意味
第3回:『勝手に変更される金型
第4回:『「機能するから問題ない」の品質感覚

 

先回のコラムでは、中国人が「機能するから問題ない」という言葉をよく口にする理由と、そのときの日本人の適切な対応方法についてお伝えしました。

中国の部品メーカーの製造ラインで私たちがある質問をしたり、ある改善依頼をしたりする場合、作業者やラインリーダーから「私は専門学校を出ているので問題ないです。」とか「検査するから問題ないです。」と言われる場合がよくあります。この言葉が発せられると、私たちの質問に対する答えがなかなか得られなくなったり、また改善がなかなか進まなくなったりしてしまいます。今回はその対処方法についてお伝えしたいと思います。

「私は専門学校を出ているので問題ないです」

私がダイキャストの部品メーカーを訪問して、作製途中の新規部品の寸法の検査工程を確認しているときのことでした。この部品の図面は、部品の前面にある円弧の中心を基準点とし、さまざまな箇所の寸法が記載されていました。円弧の中心の点は仮想点であり、3次元測定器のプローブを円弧の内側の3点に接触させて自動計算して設定します。

図1 測定した部品(この写真にはランプなどが組み付いています。)

図1 測定した部品(この写真にはランプなどが組み付いています。)

 

円弧が完璧な真円となっているとは限りません。測定する部品ごとにプローブが接触する3点の位置が大きくずれてしまうと、仮想の基準点の位置が微小にずれてしまい、さまざまの箇所の寸法も微小に違ってくる場合があります。それを懸念した私は、プローブを接触させる3点の位置をどのように決めているかを知りたかったので、測定担当者に日本語通訳を通して「この基準はどのようにして取りますか?」と質問をしました。この質問の仕方が、その後にお互いのやりとりを長くしてしまう原因となってしまったのでした。返ってきた答えは「私は専門学校を卒業しており、特別な教育を受けています。だから測定方法には問題はありません。」という非常に定型的なものでした。

図2 測定に問題はないと言い切る、測定担当者

図2 測定に問題はないと言い切る、測定担当者

 

私はISOなどの監査を受けているような測定担当者の受け答えに驚き、このあとどのような質問を続ければ、私の欲しい回答が得られるか悩みました。私は質問の仕方をあれこれと変え、通訳を通して5〜6回ものやりとりを繰り返しました。何度も言い換えた最後の質問は次のようなものでした。

「あなたは今この部品を測定しています。明日は別の人が測定をしているかもしれません。あなたの基準点の取り方と、明日の人の基準点の取り方が違うと、同じ寸法であっても測定結果が違ってしまいます。だから私は今のあなたの基準点の取り方を教えて欲しいのです。」

この最後の質問の仕方によって、最終的には測定方法を知ることができ、それが検査標準書に記載されルール化されていることも分かりました。欲しい回答は得られ、ほっとしたと同時に、この工程だけで15分以上の時間を費やしてしまったことに、私の最初の質問の仕方に何か問題があったのではないかと考えました。

中国人は、ときとしてこのような定型的な回答をしてくる場合があります。今回の状況では、私と通訳、そしてこの部品メーカーのリーダー級の人2名がその場にいました。よって何かの監査と思い込み、監査の練習とおりの受け答えをしたのでしたら仕方のないことでした。
それより私の質問の仕方に問題は無かったのでしょうか。「この基準はどのようにして取りますか?」は非常に曖昧な質問で、何通りもの回答があります。「3次元測定器で取る。」や「円弧を利用して取る。」などです。最初から「基準の取り方によって測定寸法が変わる可能性があるので、基準の取り方が決まっていればそれを教えてください。」と聞けば良かったのでした。中国で仕事を進めていく際には、このように質問の意図を説明することはとても大切です。「あうんの呼吸」がある日本のように、相手にこちらの意図を分かってもらうことを期待してはいけなかったのです。

「検査するから問題ないです」

私は中国の部品メーカーの製造ラインを見て回り、治具や作業方法などのさまざまな改善の依頼をしてきました。このように改善依頼をしたときに中国人はよく「検査するから問題ない。」と受け答えをしてきます。このときの「問題ない。」という意味は、「指摘された改善は必要ない。」という意味です。改善を嫌がる理由は、治具や作業方法の改善をすると、治具の修理や作業標準書の修正が必要になり、仕事が増えるからです。

図3 検査するから問題ない、と言い切る製造ラインの担当者

図3 検査するから問題ない、と言い切る製造ラインの担当者

 

このようなやりとりが始まり、「検査するから問題ない。」の言葉に私たちが納得してしまうと、改善依頼がなかなか受け入れられない場合があります。よって、決して「検査するから問題ない。」の言葉に納得して折れてはいけません。それは検査しても品質は上がらないからです。検査をいくら厳しくしても不良率が上がるだけで、最悪の場合はコストアップにもなりかねません。ここで大切なことは、検査を厳しくしても品質が上がるのではないということを、私たちがまず理解する必要があります。
私はこのように「検査するから問題ない。」と言われ、改善がなかなか受け入れられない場合に必ず言うことがあります。それは次のような内容です。

「検査は、私の会社とあなたの会社の間の、部品の品質を一定に保つための約束です。これは品質を向上させるためのものではありません。品質を向上させるには、治具や作業方法の改善をして品質の良い部品を作ることが必要です。」

この言い回しの内容は決して中国特有のものではなく、品質に対する一般的な考え方です。しかしそれをよく知らないと、この「検査するから問題ない。」の言葉に納得してしまい、改善依頼を諦めてしまう人もいます。「問題ない(没問題:メイ ウェン ティ)」を頻繁に使い面倒なその場をしのごうとする中国人に対しては、しっかりとした説明をする必要があります。そして今回の事例の場合は、「検査」は品質の向上のためにあるのではないということを知っておかなければならなかったのです。

中国では丁寧な説明が必要

これら2つの事例で私が一番言いたいことは、中国人に対してある行動を起こしてもらう場合には「丁寧な説明」が必要ということです。1つ目の事例に関しては、いかようにも回答ができそうな曖昧な質問の仕方をするのではなく、自分の知りたいことを整理した上で分かりやすく丁寧に質問をすることが大切です。2つ目の事例に関しては、やみくもに要求するのではなく、この要求には理由がありそれを丁寧に説明した上で要求することが大切です。

図4 質問する理由や、依頼する理由を丁寧に説明する日本人

図4 質問する理由や、依頼する理由を丁寧に説明する日本人

 

質問したことに対してまともな回答が返ってこない、または依頼したことをなかなかやってもらえない、と中国の部品メーカーを非難する日本人はとても多いです。しかしその前に、私たちが見直すこともたくさんあるのです。

 

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ソニー(株)に29年間在籍し、メカ設計者としてモニターやプロジェクター、プリンターの合計15モデルの商品化を行う。ソニー退職直前には駐在を含み7年間わたって中国でのモノづくりに携わり、約30社の中国メーカーで現地部品の立ち上げと、それに伴う製造現場の品質指導を行う。このときに、中国で発生する不良品やトラブルの60%は日本人の設計者に原因があることが分かり、その対応方法を広く伝えるべくソニーを退社し、2017年に「中国不良ゼロ設計相談所」ロジを設立する。 専門領域:CAD設計、商品化技術ノウハウ、冷却技術、防塵技術、部品メーカー品質指導ノウハウ、中国メーカーとのコミュニケーションノウハウ