【失敗しない!中国ものづくり|第8回】20%は通じていない!?日本語通...

2019/4/11 ロジ

【失敗しない!中国ものづくり|第8回】20%は通じていない!?日本語通訳との会話

これまでの連載記事

先回のコラムまでは「中国人の国民性と仕事の仕方」についてお伝えしましたが、今回からは「確実な会話と情報の出し方」についてお伝えします。今回はその中の「会話」についての内容です。

中国人の日本語レベルを把握する3つの言葉

私が日本語の堪能な中国人に対して、日本語レベルを確認するために必ずといっていいほど質問することがあります。それは「しょっちゅう」と「やっかい」、「輪ゴム」の意味を知っていますか、というものです。

私の経験によると、普通の会話では全く問題なく日本語で話せる中国人であっても、これら3つの言葉の意味を全部知っている中国人は100人中に5人程度しかいません。これらの言葉は、私たち日本人にとってはとても簡単な日本語です。では、なぜ中国人はこれらの言葉を知らないのでしょうか。答えは後半にお伝えするとして、その前に次の3つのエピソードをお伝えしたいと思います。

図1 日本語の堪能な中国人でも分からない、簡単な日本の言葉

図1 日本語の堪能な中国人でも分からない、簡単な日本の言葉

「送ってきた部品が反ってます」の会話が全く通じない

私が中国に駐在していたときのことです。ある樹脂部品の作製を成形メーカーに依頼し、その最初のサンプルが送られてきました。大きさは300x100mm程度で厚みが10mm程度の部品でした。その部品は見れば明らかにわかる程度に全体的に大きく反っていました。

成形部品の最初のサンプルではよくあることです。私は電話でその成形メーカーの日本語通訳に、この反りの修正を依頼することにしました。日本語通訳の黄さんは50歳くらいの男性で、昔日本にも住んだことがある人でした。

「黄さん、送ってきた部品が反っています。修正できますか?」と私は質問をしました。すると「『反っています』はどういう意味ですか?」と黄さんは聞き返してきました。「曲がっているという意味です」と私は返事をしました。「この部品は曲がってないです」と黄さんが言ってきたので、私は「全体的に大きく曲がっています」と言いました。「大きく曲がってないです」と黄さんはさらに言い返してきました。

きっと黄さんの「曲がっている」は、部品のある箇所がある角度で折れているイメージであると、そのとき私は思いました。結局私の言いたかった「反っている」の意味は最後まで通じなかったので、黄さんに車で私の会社に来てもらい部品を見て打ち合わせをすることになりました。打ち合わせではもちろんのこと部品を見ながら話しをしたので、簡単に「反っている」の意味を理解してもらえました。

図2 「反っている」がなかなか中国人に通じない

図2 「反っている」がなかなか中国人に通じない

「反り」の意味が通じない理由とは

私が日本に帰国して、あるヘアアクセサリーの会社の人と一緒に仕事をしていたときのことです。その会社は、中国製のヘアアクセサリーを色変えなど少しだけアレンジして輸入していました。中国企業とのやり取りのため、1人の中国人の若い女性が日本語通訳としていました。その女性は日本のこの会社で働き始め、既に5年が経っていました。

あるときその女性を含めた5〜6人で打ち合わせをしていたとき、私は前述のエピソードの話をしました。そうしたところ日本で5年以上働くその女性も「私も『反っている』の意味が分からない」と言い出したのでした。同席していた日本人社員は皆びっくりしました。「今までの会話でも、全部は理解してもらえていなかったのかな」と心配そうな顔をし、「今後は気をつけて会話をします」ということになりました。

しばらくしたのち、私は中国駐在時の日本語の堪能な中国人5人に「反り」の意味についてメールで質問してみることにしました。結果は4人がその意味を知りませんでした。理由を尋ねると、中国では「反」の漢字の意味には形状的な「反る」の意味はないため、覚えにくい日本語であるということでした。

なかなか意味を伝えられない電話での会話

私が中国に駐在中に、ある樹脂製品の金型打ち合わせを行いました。中国人の日本語通訳を介して金型担当や成形担当と、図面や3Dデータを見ながら3時間ほどの打ち合わせを行いました。その通訳の女性は日本語が堪能であったため、何の問題もなく打ち合わせは終わりました。

打ち合わせ終了後の帰りの車の中で、私はあることを言い間違えたことに気付いたのでした。忘れないうちにと思い、先ほどの通訳の女性に電話をしました。

「さっきの部品に開いている3つの穴の一番左の穴の下のリブは削除しないでください」と伝えたところ、「小田さんの言っていることが全然分からないので、メールで送ってください」と言われました。正式な依頼は図面で指示をするのは当たり前なのですが、先ほどまで3時間にもわたって何の問題もなく通訳をしてくれた女性から「全然分からない」と言われたことに、私は少々驚いてしまったのでした。

今考えると、あのとき電話で理解してもらえなかった理由は次の3つがあると思います。一つは図面など目に見える物を前にして話していなかったことです。もう一つは「〜の中の〜の下の〜」と会話の文章が長かったことです。最後の一つは相手の顔を見て話していなかったので、どの言葉が理解できてどの言葉が理解できないかを分からないまま、私が一方的に話しをしていたことでした。

中国人の理解しにくい日本語

中国人と言わず、外国人にはなかなか理解してもらえない言葉をあげてみたいと思います。

1.難易度の高い日本語。
例:「嵌合」や「一対」など。「やっかい」はここに入ります。
「やっかい」は日本語検定の1級(最上級)の検定問題に出題されていた言葉です。

2.日本語と中国語で漢字が違うもの。
例:「反り」や「輪ゴム」など。「輪ゴム」は中国語では「橡皮筋」と書きます。

3.擬態語や擬音語
例:「テカテカ」や「キシキシ」など。

4.ちょっとした口語
例:「オンスケ」や「ちゃんと」、「すり合わせ」など。
「しょっちゅう」はここに入ります。口語調で中国人と会話をすると思わず使ってしまいがちなので要注意です。

5.慣用句
例:「お手上げ」や「ハードルが高い」など。
これらの言葉も口語調の会話では使いがちなので要注意です。

6.曖昧語
例:「もろもろの資料を近日中に送ってください」など。
こうした会話は、「何を」、「いつまでに」がとても曖昧になっている表現です。これはたとえ意味を理解してもらえるとしても使わない方が良いです。第2回目のコラムでお伝えしましたが、このような曖昧な会話では中国人に勝手に内容を判断されてしまい、予想外の資料が予想外の時期に送ってきてしまうことになります。


図3 曖昧な日本語で話す日本人

図3 曖昧な日本語で話す日本人

日本人の日本語は5万語、中国人の日本語は1万語

一般的に日本人は、日常会話において5万語の日本語を使って会話していると言われています。一方、日本語検定が1級の中国人などの外国人は1万語を使って会話していると言われています。この数字を見ただけで、母国語で話す日本語と勉強して話す日本語のレベルには大きな差があります。

会話はその前後の文脈からだいたいの意味は判断でき、また物や資料を見ての会話も多くあります。よって会話の内容の1/5しか理解してもらえないというわけではありませんが、私たちが中国人の日本語通訳と会話をするときは、なるべく簡単な言葉を使い、1万語の日本語を使って会話するように努める必要があることが分かります。でも、それはどうすれば良いのでしょうか。

日本語の上手な外国人に、より会話を理解してもらう方法

それにはとても簡単な方法があります。それは小学生の子供と話すように会話をすれば良いのです。一般的に小学生6年生の使う言葉の数は1万〜1万5千語といわれています。

これはちょうど日本語検定1級の外国人と同じです。小学生の子供と会話の通じない親子はいません。それは子供には簡単な言葉で会話をする習慣があるからです。

図4 子供に対して分かりやすく話すお母さん

図4 子供に対して分かりやすく話すお母さん

英語圏の外国人と仕事をしていて、最初はその人の英語が理解できなかった私たちが、数日するとだんだんと理解できるようになった経験のある人は多いと思います。自分の英語のレベルが上がったことも理由の一つかもしれませんが、たいていの場合は一緒に仕事をしている外国人が分かりやすい英語で話すように心掛け始めたからです。これと全く同じことと思います。

私はこのことを心掛けて中国人と会話をしているおかげで、「小田さんの日本語は分かりやすい」と言われたことがこれまでに数回あります。やはりお互いの理解も深まります。是非みなさんもトライしてみてください。

───────────────────────────────────

~リモート会議だけで中国企業とスマートに仕事を進めるテクニック~

研修の開催ご案内

ローカル部品メーカーの日本語通訳が日々行っている

日本人ではなかなか知り得ないテクニックをお伝えします。

日程と時間:ご希望の日程と時間をご連絡ください。

詳細情報URL:https://roji.global/korona-kennshu2/

───────────────────────────────────


ソニー(株)に29年間在籍し、メカ設計者としてモニターやプロジェクター、プリンターの合計15モデルの商品化を行う。ソニー退職直前には駐在を含み7年間わたって中国でのモノづくりに携わり、約30社の中国メーカーで現地部品の立ち上げと、それに伴う製造現場の品質指導を行う。このときに、中国で発生する不良品やトラブルの60%は日本人の設計者に原因があることが分かり、その対応方法を広く伝えるべくソニーを退社し、2017年に「中国不良ゼロ設計相談所」ロジを設立する。 専門領域:CAD設計、商品化技術ノウハウ、冷却技術、防塵技術、部品メーカー品質指導ノウハウ、中国メーカーとのコミュニケーションノウハウ