【失敗しない!中国ものづくり|第13回】中国に出回る模倣部品とその対策

2019/9/10 ロジ

【失敗しない!中国ものづくり|第13回】中国に出回る模倣部品とその対策

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今回のコラムでは中国に出回る副資材の模倣品とその取り扱いの注意点について、一つのエピソードを交えてお伝えしたいと思います。ここでいう副資材とは、インサートナットや線材ホルダーなどのことを指しています。

中国にはたくさんの日本製品の模倣品があります。そしてそれらは堂々と中国メーカーのカタログに掲載され販売されているものがあります。型名が類似しているものもあります。決して粗悪品というわけではありませんが、注意して扱わないとトラブルに発展する可能性があるのです。

量産開始前の承認部品に模倣品

私がプロジェクター部門において、日本の設計者と中国の部品メーカーの橋渡し的な業務をしていたときのことです。このプロジェクターの製品(図1)は試作までを日本で行い、量産は中国で行っていました。つまり試作セットの部品は日本で作製して、量産セットの部品は中国で作製するということです。

図1
図1 中国で量産したプロジェクター

この製品の樹脂製の底カバーにはインサートナット(図2)というものが埋め込まれています。プロジェクターは天井に設置する場合もあり、そのときは天井に取り付けられた金具にプロジェクターを逆さまにして取り付けます。この取り付けのビス固定用にインサートナットが必要となるわけです。天井からプロジェクターが落下しないように、このインサートナットの底カバーへの取り付け強度は図面に指示され、もちろん強度試験も行われます。

量産前の最後の試作の段階では、底カバーは中国の成形メーカーから入手し、インサートナットは適切な製品を日本のメーカーから選択し入手します。それを底カバーに溶着して取り付け強度の確認を行っていました。

図2
図2 底カバーに溶着するインサートナット(類似形状品)

量産が開始される前には、承認部品を入手して最終確認を行います。承認部品は底カバーの成形メーカーが作製することになります。インサートナットはこの成形メーカーが設計者から指定された部品を入手して、指定された条件で溶着します。

私は底カバーの承認部品を入手しました。寸法や体裁、他部品との嵌合具合などを確認します。そしてこのインサートナットの強度を確認する段階になりました。そうしたところ、図面に記載された強度から劣ることが分かったのでした。もしかしたらそもそもこのインサートナットでは図面に記載されている強度には達しないかもしれないと思い、日本から送ってもらった試作品と比較することにしました。ところが日本の試作品は図面に記載されている強度を十分に持っていたのでした。全く同じ底カバーとインサートナットでなぜ強度がこんなにも違うのか不思議でなりませんでした。

底カバーに空いている穴径や溶着条件(温度や挿入スピードの設定)でも強度は変わる場合があります。承認部品と日本の試作品の、インサートナットを溶着する前の底カバーの穴径を比較しました。変更は加えていないので全く同じでした。インサートナットのカタログには推奨の穴形状が記載されています。それに則って作られていました。

溶着前の底カバーと量産用のインサートナットを入手して、溶着条件をいろいろ変えて溶着してみました。ところがどのように溶着条件を変えてみても強度が強くなることはありませんでした。

こうなるとそもそもインサートナットが違うのではないかの疑いが出始めました。しかしこのインサートナットは、メーカー名と型番を指定して購入しているのでした。違う部品であるとは考えにくいのです。

日本の試作品のインサートナットを底カバーからほじくり出して、量産用のインサートナットと形状を比較してみることにしました。底カバーに溶着され埋め込まれているままでは、インサートナットの円形の端面しか表面には見えてこないので形状の比較はできません。

なんとかほじくり出し形状を比較してみました。見たところ全く同じ形状です。高さが7〜8mmの小さな部品なので微細部分の形状比較は困難であったため、顕微鏡で確認することにしました。そうしたところなんと樹脂に引っかかる螺旋形状が微妙に違うということが分かったのでした。顕微鏡で見ても、説明を受けないと判別できないレベルでした。

日本の試作品から取り出したインサートナットは一個一個の螺旋が山形状になっていて、樹脂にめり込むように設計されています。一方中国で入手した量産用のインサートナットは螺旋一個一個の頂点が平らな形状になっているのでした。これでは樹脂へのめり込む量は少なくなってしまいます。
 螺旋の頂点が平らな形状のインサートナットは、螺旋の切ってある金属の棒材を数mmの長さにカットして、旋盤加工するだけです。とても安価に製造できます。一方螺旋が山形状になっているインサートナットは簡単には作れません。私はこの部品の日本のメーカーに電話したところ、この螺旋の山形状がこのメーカーの特別な技術であるという説明を受けました。
 

同じメーカー名と型番で違う製品とは

この部品はメーカー名と型番を指定して日本と中国で入手していました。日本では直接このメーカーから入手し、中国ではこのメーカー指定の中国商社を経由して入手しているのでした。私は早速この中国商社に電話することにしました。営業担当は日本語堪能な中国人でしたがやや込み入った問題であり、この営業担当の日本語レベルでは理解できなかったため、直接会って話すことになりました。

この中国商社はこの日本製のインサートナットの中国での販売権を持っています。販売権を得ると、このインサートナットの簡易図面を入手することができるとのことでした。恐らくこの商社が受入検査などで使用するためと思われます。しかしこの図面は、前述した螺旋の山形状の詳細寸法は入っていない簡易図面でした。螺旋の山形状はノウハウの塊なので公開できないと考えられます。そしてこの中国商社は、なんとこの簡易図面を使って中国のメーカーで模倣品を作っているのでした。そして驚くことに、それを日本のメーカー名と型番で販売をしていたのでした。

私はこの営業担当にどうやってお客に対して日本製と模倣品の区別をしているのかと質問したところ、「日本製の○○会社、A001」と「中国製の○○会社、A001」として区別しているとのことでした。つまり「○○会社、A001」は全く同じということです。底カバーの図面には「『○○会社、A001相当品』を使用のこと」と記載されているので「中国製の○○会社、A001」を販売したとのことでした。

模倣品の対策

後から考えると「中国製の〜」「日本製の〜」はこの営業担当の逃げ口上だったのかもしれません。日本製の価格で中国製を販売していたかもしれません。しかし設計側に実は大きなミスがあったのでした。底カバーの図面に「『○○会社、A001相当品』を使用のこと」と記載していたのでした。インサートナットを購入する中国の底カバーの成形メーカーは、「相当品」なので中国製でも問題ないと判断して中国商社から模倣品を購入したのかもしれません。決して間違った行為ではないのでした。

日本においてもインサートナットは、メーカーが違っても類似した形状が多数あります。あるインサートナットのメーカーに電話をして日本の実情を聞きいてみたところ、日本においても模倣品はあるとのことでした。品質の高いインサートナットの形状を模倣して自社の製品として販売しているメーカーがあるそうです。しかしもちろん会社名と型番は自社のものに変えて販売しています。そのような実情もありインサートナットのような副資材を使用する場合に、設計者は「相当品」という用語を図面に記載してしまうことがあるのでした。日本で量産する場合は「相当品」と記載しても、日本にある企業名と型番が書いてあるのでそれを量産においても購入する場合がほとんどです。しかし中国ではそうならなかったのでした。

今回の問題で取った対策は次のとおりでした。

・図面への「相当品」の表記は禁止
・中国製を使用するなら、そのメーカー名を調べて図面に記載する

たとえ模倣品の強度が弱くても、試作の段階でその強度で問題がないことを確認できれば量産においても使用できます。今回の問題の原因は、試作と承認部品で異なるインサートナットが使用されてしまったことでした。

図面への曖昧な表記は禁止

日本人設計者は図面に「相当品」や「一任」を記載する人が多くいます。それはつまり図面を受け取った部品メーカーに判断をお任せします、というものです。日本ではそのように指定しても部品メーカーは経験値や設計者の設計意図を汲み取ることにより、後々に問題が発生しないように適切な判断を行います。また懸念があれば電話やメールが来ます。

ところが中国ではそのようにはいかないのです。中国の部品メーカーが日本人設計者の設計意図を汲み取ることはしません。部品メーカーの担当者が独自の判断を行うだけです。また担当者から直接メールや電話がかかってくることはありません。

つまりこのようなことから、日本の設計者は図面で曖昧な表記はしてならないのです。今回の問題は「中国に出回る模倣品」の問題と、日本人設計者の「図面への曖昧な表記」の問題を併せてお伝えしました。

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ソニー(株)に29年間在籍し、メカ設計者としてモニターやプロジェクター、プリンターの合計15モデルの商品化を行う。ソニー退職直前には駐在を含み7年間わたって中国でのモノづくりに携わり、約30社の中国メーカーで現地部品の立ち上げと、それに伴う製造現場の品質指導を行う。このときに、中国で発生する不良品やトラブルの60%は日本人の設計者に原因があることが分かり、その対応方法を広く伝えるべくソニーを退社し、2017年に「中国不良ゼロ設計相談所」ロジを設立する。 専門領域:CAD設計、商品化技術ノウハウ、冷却技術、防塵技術、部品メーカー品質指導ノウハウ、中国メーカーとのコミュニケーションノウハウ