【失敗しない!中国ものづくり|第9回】中国メーカーに確実に伝える情報の出し方
これまでの連載記事
- 第1回:『中国での不良品やトラブルの原因は60%日本人にあり』
- 第2回:『中国人の「問題ない」に潜む3つの意味』
- 第3回:『勝手に変更される金型』
- 第4回:『「機能するから問題ない」の品質感覚』
- 第5回:『「専門学校を出ています」「検査するから問題ない」と言い切る中国人』
- 第6回:『市場で突然割れ始めた液晶モニターのリアカバー』
- 第7回:『市場で突然発生したスポット溶接剥離』
- 第8回:『20%は通じていない!?日本語通訳との会話』
先回のコラムでは「確実な会話と情報の出し方」の「会話」についてお伝えしましたが、今回は「確実な情報の出し方(依頼の仕方)」についてお伝えします。
金型費の依頼で何回ものメールのやりとり
私が中国に駐在し、ある部品メーカーに部品単価と金型費の見積もりを依頼したときのことです。まだ中国に赴任して1年も経っていなかったため、中国メーカーに対して確実に情報を伝える方法を良く理解していませんでした。
私はメールで、次のような文章で見積依頼をしたのでした。
「図面添付した10個の部品の部品単価と金型費の見積もりをお願いします。生産台数は100個/月で生産年数は3年です」というものでした。日本においては、このようなメールの内容で欲しい情報を得ることができますが、中国においてこれでは、私の欲しい情報をなかなか得ることはできなかったのでした。この件で私が最終的に欲しい見積価格を得るまでに、合計約6回ものメールを送った記憶があります。それはいったいどうしてだったのでしょうか。
何回も問い合わせが必要になる曖昧なメール
まずは依頼した部品点数の見積価格がこないのでした。10個の部品を添付したにも関わらず見積もりは7個の部品の分しか送ってきませんでした。複数の依頼をした場合、その中の一部の回答しか返ってこないことは中国では非常によくあることです。よって今回は、後から「部品○○と部品△△と部品□□の見積もりがありません。送ってください」と再度依頼することになりました。
さらに確認を進めると、ある部品は部品単価のみの見積もりを送ってきて、またある部品は金型費の見積もりだけ送ってきていました。これらも足りない見積もりは再度依頼しました。
次は、消費税が含まれているかいないかの記載がないため、正確な費用が分からないのでした。中国では日本の消費税に相当する増値税があります。これは17%のため、税込と税別では価格にかなりの差が生じてしまいます。よってこの確認のメールを送りました。
さらに、見積価格がドルで記載されていました。私は中国RMBでの見積価格が欲しかったのですが、このときはドルで見積もられていました。ドルとRMBの為替レートをいくらで計算したのか分からなかったので、これも確認のメールを送りました。
図1 何回も問い合わせる日本人
このようなメールのやり取りが何回も続くのでした。メールの回答はもちろんすぐに来ません。私が最終的に欲しかった見積価格を得るまでに、最初の見積もりが送ってきてからさらに1週間かかってしまったのでした。
曖昧だった見積依頼の仕方
何回ものメールのやり取りはとても面倒で時間がかかります。中国はなんて厄介な国なのだろうかと赴任当初は思っていましたが、よく考えてみると私の見積依頼の仕方がとても曖昧だったということが分かりました。つまり要望を明確に伝えていなかったのでした。
10個の部品といっても、図面を添付しただけで、部品名称と部品番号の一覧があるわけではありませんでした。どの部品について部品単価と金型費の見積もりが欲しいのかも、どこにも書いてはいません。税込にするか税抜きにするか、通貨単位も指定をしていませんでした。部品メーカーにも一部気の利かないところもありましたが、こちらの依頼方法が明確ではなかったことは確かです。
曖昧な見積もり依頼をなくすためには
このことがあった以来、今回のような依頼の内容や条件が複数ある場合には下図のような表にして依頼することにしています。依頼する部品点数、それらの条件、欲しい回答が明確に分かるようになっています。
図2 複数の内容と条件のある場合の見積もり依頼
日本でしたらこのように細かく条件を記載しなくても、「あうんの呼吸」で相手の要望している内容を推し量って回答をしてくれます。しかし中国においては国民性の違いから、「あうんの呼吸」には期待できません。よって誤認識されないためには、明確かつ確実にこちらの情報を出して要望を伝える必要があるのです。これを怠ってしまっては、「普通〜のハズなのに」と中国人に問題あると言えるはずはありません。
会議において注意すること
ここから中国人に確実に情報を伝え依頼をするために、中国人との会議やメールの書き方で心掛けていることをお伝えします。
まず会議においては、必ず日本語通訳を介してお話をします。中国語がある程度できるようになると、簡単な会議は中国語でこなせる気がする場合があります。しかし雑談で外国語ができるレベルと仕事で使えるレベルは全く違います。私は中国の友人と中国語で何時間でも雑談はできます。しかし仕事において「中国語で説明する」ということはとても難しいでことです。(第8回コラム参照)一語でも理解してもらえないこちらからの言葉や、相手から理解できない言葉があると、その会話が先に進まないからです。そして何より一番の懸念は、誤認識によって後に引き起こされかねないリスクです。よって私は仕事で中国語を使用することはありません。
また会議はなるべくその案件で関わる人の全員参加で行います。末端の担当者まで集めることは難しい場合もありますが、なるべく全員参加を心掛けることが必要です。それは、中国人はお互いにあまり相手の業務範囲に入り込もうとはしないからです。業務範囲がくっきりと分かれ、日本語通訳→技術リーダー→担当者へと情報が伝わっていかない場合が多くあるのです。(第1回コラム参照)よく日本語通訳とだけ打ち合わせをする人がいますが、あまり良いとは言えないでしょう。
また、会議ではホワイトボードに日本語を書きながら話をします。日本語通訳以外の人でも漢字はだいたい理解できます。なるべく理解を深めるために書きながら話すのです。またこれに関連して、必ず現物やイラスト、写真を前にしてお話するのが良いでしょう。「あの部品の件で」や「この穴の下にダボを追加」、「製造ラインの治具を右に移動」などと、口頭だけで会話をすると、誤認識につながる可能性があります。
図3 ホワイトボードに書きながら会議を行う
日本語通訳には、小学生にお話しするように分かりやすく会話をし、ホワイトボードに書くときにはカタカナはなるべく避けるよう心掛けましょう。(第8回コラム参照)
会議の後に、議事録としてホワイトボードの内容を分かりやすく書き直してメールで送ることはもちろん必要です。口頭だけの情報伝達による依頼は厳禁です。
依頼するときに押さえるべき5つのポイント
最後に中国メーカーにある依頼をするときの5つのポイントをお伝えします。
1. 誤認識されないようにする。
曖昧な情報や理解しにくい日本語での依頼は、無視か勝手な判断をされてしまいます。私たちからの情報でちょっと分かりにくい箇所があっても、日本のように簡単に電話を掛けて聞くことができないからです。
2. 情報は漏れなく伝える。
中国人を含め海外に人の仕事の仕方は、「依頼されたことだけをする」のが基本です。言われたこと以上のことをするのは、日本人だけの国民性です。
3. 強要しない。
基本的に、日本のメーカーでできないことは中国メーカーではできません。日本のメーカーでできないと思われることは、強要しないことです。
4. 妥協しない。
中国人は多少問題があると思っても、「没問題」と言って楽観的にやり過ごす傾向があります。私たちが少しでも懸念があると感じたら、妥協せずに依頼を続けましょう。
5. 依頼理由の説明をする。
中国人は個々が自立した意見を持っています。よって自分で納得しないとなかなか行動を起こしてくれません。よって依頼する内容に関して、その必要性の説明をしっかりして理解してもらう必要があります。
ここまでお伝えしたことは、日本で仕事するときにも基本的に同じことかもしれません。しかし日本での仕事に慣れ親しんだ日本人は、どうしても「あうんの呼吸」や「一を聞いて十を知る」のが当たり前と思いがちです。でもそれは世界的にはスタンダードではないということを理解してもらえれば良いと思います。
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