付加価値の源泉から属人的要因を排除するIoT
付加価値を生み出す前提条件として、何かを強いているならば、それを排除することを考える。そこで、IoTを現場に生かす。
工学的因果関係と情報の流れに着目する、という話です。
1.新たなサービスで現場の負荷が高くなっている宅配便業界
「荷物は人の手が届けるもの。利用者が便利になるほど、運ぶ側の労働環境は劣悪になっていくんです」
〈AERA〉dot.2016年11月14日(月)の記事に掲載されていた宅配便のドライバーさんの声です。
国が2014年に実施した調査では、宅配便の20%が再配達になっていることがわかったそうです。
さらに2015年の調査では、1回目の配達で受け取れなかった理由について、「配達が来るのを知っていたが再配達があるので不在にした」という人が40%!!
国の試算では、トラックドライバーの10%にあたる年間9万人に相当する労働力が、再配達に費やされているとのことです。
出典:〈AERA〉dot.2016年11月14日(月)
宅配便の再配達や時間指定はとても便利なサービスです。
使う側としてはとてもありがたいです。
ただし、新たに生み出された付加価値が、何らかの「犠牲」や「社会的損失」の上に成り立っているとするならば、供給者側も、何らかの手を考えねばならないでしょう。
ただ、競争の激しい宅配業界です。息のつけない競争を展開していることでしょう。
正論ばかり言えない状況でもあるのかもしれません。
そう簡単には解決策が見つかるとは思いませんが、そのサービスなくして多くの企業の事業が成立しない程、世の中で欠かせない宅配便です。
現場の負荷軽減と質の高いサービス提供を両立させる工夫を、宅配便企業には期待をしたいです。
2.新たな付加価値を生み出す源泉に留意する
機械加工職場の管理者をやっていた時、その職場が提供できるサービスひとつに、「ご要望があれば、24時間365日、いつでも突発対応をやります。」というのがありました。
常昼職場でしたが、ご要望があれば担当者まで電話して下さいというものでした。
なんてことはなく、現場の生産管理担当者が、平日、土日、昼夜かかわらずに、常に携帯電話を持ち歩いているということで、対応していただけです。
携帯電話に、いつお客様から電話がかかってくるかもしれないというプレッシャーがあります。
夜中の突発依頼は、頻繁にあるわけではありませんでしたが、受ける方とすれば、年に数回のことであっても、いつのことかわからなければ、常に緊張を強いられます。
ある時、その生産管理担当へ、夜中や休日の突発対応へのねぎらいの言葉をかけた時、その担当者から次のような言葉が返ってきました。
「昔からやっているから慣れた感じはするけど、やっぱり、気疲れはしますよね。いつ電話がかかってくるかわからないから。まぁ、依頼してくる方もこちらの大変さを知っているので、突発とは言え、無茶苦茶なことを言ってこないのは救われますが。」
付加価値の源泉がまさに「労力」、「頑張り」、「踏ん張り」。
その現場では属人的な要因で付加価値を生み出していたわけです。
担当者の負荷を軽減できるアイデアが浮かばず、結局、その担当者の頑張りに頼っていました。
申し訳ないことだと感じていました……。
おもてなしに代表されるサービス業が、「労働集約的である」といわれるのは、付加価値が属人的な要因より生まれているからです。
そのサービス業でも、サービスの品質を一定にすることを目的に、サービス提供のマニュアル化なども進んでいるようですが。
今後も、「人」に依存する部分は残ると思われます。
一方で、モノづくりの現場ではどうか?
今後、中小製造業での新たな付加価値創出の切り口として、「マス・カスタマイゼーション」と「超短納期」を、何度か申し上げてきました。
こうした付加価値をどのように生み出すか。
付加価値の源泉は何になるか?
このあたりは、自社工場に当てはめてしっかりと考えたいです。
- 職人芸的な属人的要素
- チームオペレーションを機能させた属人的要素
- 担当者のひとりの頑張りによる属人的要素
属人的な要因抜きには考えられないことが多いのでないでしょうか?
中小製造業であるが故の制約条件のためにです。
ヒト、モノ、カネに関する問題があるために、良いアイデアがあっても、それを実現させるためには、どうしても、ひとりひとりの踏ん張りに依存してしまう。
新たな付加価値を生み出す源泉として、属人的な要因が欠かせなかったら、どうしたらイイでしょうか?
3.長期的には技術イノベーションを目指す
職人技のような属人的要因ならば、当事者は「誇り」を持てます。
仕事自体にやりがいを感じることもありそうです。
一方で、先の突発対応サービスのような場合はどうでしょう?
単純に自らコントロールできない工数がストレスになります。
このような場合、どのように対応するべきでしょうか?
まずは、そうした状況になっていることを、現場リーダーや経営者が認識することです。
最悪なのは、現場の特定人物が一人陰ながら頑張っている状況を、トップも含め、現場リーダーも知らない場合です。
理由は言うまでもないでしょう。
ですから、まずやるべきは……。
管理者やトップが、属人的な頑張りで支えている当事者をねぎらうことです。
暫定的には、どうしても個人的な頑張りに頼らざるをえないことを認めることです。
そうするころで、当事者の気持ちは大きく変化します。
人知れず頑張るのと、上司や仲間が認めてくれた環境で頑張るのと、どちらが踏ん張れる状況でしょうか。
そして、長期的には、技術イノベーションによって、属人的な踏ん張り無しでも、同様の、あるいはそれ以上の高い付加価値を顧客へ提供できるようにすることを宣言します。
こうした見通しを示すことで、当事者はますます踏ん張れます。
「超短納期」や「マスカスタマイゼーション」では、仕組みを上手に構築しないと属人的頑張りに依存することになります。
十分に留意すべきです。
技術イノベーションは、そうした状況からブレークスルーを果たすために存在します。
そうして、昨今、そうしたイノベーションの主役になりそうなのがIoTをはじめとした情報通信技術(ICT)であり人工知能(AI)です。
IoTを導入する目的として、付加価値を創出する源泉からの「属人的な頑張り」の排除を考えたらどうでしょうか?
仕組みで付加価値を創出し、そこにIoT等のICTを生かす。
工学的因果関係と情報の流れに着目します。
以前、IoTで問題解決の一連の作業から人間を解放することを申し上げました。
IoTによって、単純作業から現場を開放することは、今後の生産技術開発で目指すべきテーマのひとつであることは間違いはないです。
そうして、人はより創造的な業務に従事します。
これは、今後、仕事のやりがいにもかかわる重要課題です。
そこで、単純作業ばかりではなく、付加価値を生み出している仕事についても考えます。
「誇り」も持って、やりがいを持って打ち込める仕事ならば、付加価値の源泉が属人的でも問題はないです。
かえって、属人的であるが故の強みになります。
ところが、そうでない場合なら、話は別です。
担当者の「頑張り」「踏ん張り」を強いる状況。
付加価値を生み出している前提が、そうであるのなら問題です。
こうした場合の属人的な要素は、排除を目指します。
付加価値を生み出す源泉に属人的要因はありませんか?
その属人的要因には「誇り」や「やりがい」も一緒にありますか?
付加価値を生み出す前提条件として、何かを強いているならば、それを排除することを考えます。
そのための、IoTを生かす第4次産業革命です。
まとめ。
付加価値を生み出す前提条件として、何かを強いているならば、それを排除することを考える。
そこで、IoTを現場に生かす。
工学的因果関係と情報の流れに着目する。
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