IoTで現場のやる気を引き出す
IoTの現場での生かし方、考えていますか?
1.IoTで期待できること
技術の進歩はモノづくり現場の生産性を飛躍的に向上させてきました。
かってのモノづくり現場は労働集約的でした。
産業革命が人にもたらした成果として、長時間労働や力仕事からの解放があげられます。
人は創造性を発揮する機会が増え、生産性が向上したのです。
「作業」や「力仕事」の多くを設備に任せることができました。
その一方で、現場は、昨今、生産設備や生産ラインが複雑化してきたように感じています。
「複雑化」の原因は、多様な顧客ニーズへの柔軟な対応です。
顧客に選ばれない限り、絶対に儲からないわけですから、顧客視点は外せません。
そのため、現場では「複雑化」への対応工数が増えつつあるのではないでしょうか?
- 設備トラブルから現状復帰するためにかなりの手間が掛かる。
- 顧客ニーズに合わせた短納期対応に多くの工数が割かれる。
- トラブルに振り回される担当者が増えている。
などなど。
したがって、今、その「複雑化」への対応策が求められます。
この「複雑化」から人を解放してくれる武器に期待が集まります。
人を「作業」や「力仕事」から解放してくれた蒸気機関ような、現代版「蒸気機関」の登場が待たれるのです。
現代版「蒸気機関」と期待される技術のひとつにIoTがあげられるのではないでしょうか?
IoTによって、「複雑化」を解消、現場の見える化を図るのです。
技術は「直接的な生産活動」から人間を解放しました。
技術はさらに、「間接的な生産活動」からも人間を解放してくれるようになるかもしれません。
つまり、品質管理や原価管理、工程管理の煩わしさからの解放です。
IoTという武器はさらなる生産性向上に寄与する可能性があります。
2.デンソーのIoTの取り組み
デンソーはモノづくり力を磨くことに熱心な日本を代表する自動車電装系部品メーカーです。
技能五輪で連続して優勝者を輩出しています。
トヨタのグループ企業ですが、取引先はグループの枠を超えています。
2016年の第54回大会技能五輪は山形県で開催される予定です。
40を超える職種で競われます。
その技能五輪でデンソーは、直近の4回の大会において多くの優勝者を出しています。
第50回大会3人
第51回大会1人
第52回大会1人
第53回大会2人
ベテランから若手への技能伝承が確実に進められていると感じらるのではないでしょうか?
社内教育、OJTに計画的、組織的、体系的に取り組んでいるのでしょう。
そのデンソーも2020年までに、生産性を30%向上させようとしています。
世界に分散して立地している130の工場をつなげる構想があるようです。
つながる工場の効果は次の4点にあると、デンソーは考えています。
- 予知、予兆管理
- 重点管理
- 全員オーナー/源流良化
- 共創改善
予知、予兆管理はIoT(もののインターネット)の代表的な取り組みです。
設備がトラブル前に、あるいは不良品が発生する前に、手を打つことが狙いです。
問題を未然に防ぎ、停まらない工場、不良品を造らない工場を目指します。
また、重点管理は重要な管理ポイントを見極める取り組みです。
現場から得られる大量のデータを的確に分析してポイントを見極めます。
状況を的確に捉えたデータによって3現主義の実効性を高めることが狙いです。
そして、予知、予兆管理および重点管理によって、創造的な業務に専念してもらう環境が整備されます。
- 毎日のように振り回されているトラブル対応
- ルーチン的なデータ収集業務
こうした「作業」を排除できるのです。
「全員オーナー」とは、情報を立場や役割に応じて生かしてもらうということです。
さらに、IoTによってタイムリーに精度の高い情報が継続的に届くようになります。
その結果、データ間隔の短縮が期待できます。
従来まで1ケ月だったのが1週間に短縮される。
1週間だったのが毎日に短縮される。
さらに、1日1回だったのがリアルタイムに届くようになる。
精度の高い情報を経営判断へ生かすことができるのです。
それまでぼんやりして見えなかったことが見えてくる可能性が高まります。
そうすれば「源流良化」と呼ばれる革新的な改善が生み出されやすくるのです。
共創改善は、グローバルに革新事例を共有して、生かす取り組みです。
国内の良い事例を海外工場へ、海外工場の良い事例を国内工場へ展開する環境の整備でもあります。
(出典:日経ものづくり2016年6月号)
デンソーがIoTを導入する狙いには「現場力」「ものづくり力」の視点を感じます。
現場で働く人の能力を最大限に発揮して欲しいという願いがあるのです。
General Electric社でもIoTが積極的に進められています。
そこでの成果は、経済的な効果として紹介されていることが多いように感じませんか?
- 発電所全体の発電量を5%向上させた
- 航空会社が年間数十億円の規模の燃料コストの削減につなげた
一方、デンソーのIoTは現場力upをターゲットにしているように考えられます。
3.デンソーの狙い
デンソー社長の有馬浩二氏は世界各地の工場をつなげる取り組みついて、次のように語っています。
今後3年程度で準備を進めたい。
どのような情報を集めるかなど基本的な枠組みを固め、2017年にモデル工場で試験運用を始める。
モデル工場と同じ製品を作る国内外の工場をつなぎ、18年には130ほどある全工場をつなぎたい。
ドイツ勢のIoTの背景にある思想は極端にいえば「人がいなくなっても工場が回る」形だ。
一方でデンソーや日本企業は現場を重視している。
IoTで故障を直すなど無駄な作業を減らし、人間が考える時間をふやしてやりたい。
そうすれば人材育成や能力向上につながると思う。
人工知能(AI)でビックデータを解析すれば人の知恵や経験値を超えられるとは思っていない。
IoTによりAIに負けない現場を作る。
(出典:日本経済新聞2016年7月3日)
国内のモノづくりの強みは「擦り合わせ」にあり、その源泉は現場のチーム力にあると考えています。
昨今のモノづくりではモジュール化が注目されているようです。
パソコンのみならず、EV(電気自動車)等のそうであると。
擦り合わせによる強みが発揮しにくくなっていることが指摘されています。
製造コストを抑制するという視点では正しいです。
しかしながら、弊社では、新たな付加価値の創出に擦り合わせは欠かせないと考えています。
1+1=の答えが2ではなく、3にも4にもなるような化学反応を起こすのです。
弊社がご支援している生産性向上活動がそのきっかけとなることを目指しています。
「擦り合わせ力」はこれからも組織にとって必要な能力です。
それを実現させるチーム力は今後も日本の現場の強みであり続けます。
現場の主役は「人」です。
チームオペレーションを最大化することで仕組みが廻り続けます。
現場からやる気を引き出すことが欠かせません。
トラブルや単純作業に追われている現場
創造的な業務で先手を打つ現場
どちらが現場のやる気を引き出せるでしょうか?
情報通信技術(ICT)を活用して創造性を発揮できる環境を整備します。
これが、現場へIoTを導入する目的です。
現場からやる気を引き出す武器になります。
現場のやる気は、創造性の観点でAIに勝るのではないでしょうか?
「IoTによりAIに負けない現場を作る。」
デンソーの有馬社長のこのコメントは、そのことをズバリ表現しています。
IoTで現場のやる気を引き出す仕組みづくり、環境整備をしませんか?
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