食品メーカーにおける価格競争や需要の多様化による環境変化

食品メーカーにおける価格競争や需要の多様化による環境変化

食品は人間の生活になくてはならないものですが、食品業界は昨今の製造業の中でももっとも激しい価格競争にさらされている業界といっても過言ではありません。

経済産業省の「工業統計調査」によれば、2010年における「食料品製造業」の製造品出荷額は24.2兆円。

前年(24.6兆円)に比べ、1.4パーセント減になっています。

 

少子高齢化による人口減が進めば、国内食品市場はさらにシュリンクすることは想像に難くありません。

価格競争や需要の多様化による環境変化もあり、食品業界はさながら戦国時代の様相を呈しています。

原材料価格の高騰で歩留りが低下

食品業界の川上から見ていくと、小麦や大豆などの穀物をはじめとする原材料価格の高騰があります。

中国やインド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など、人口が多い新興国の経済成長はめざましく、所得が伸びて中間層が増えるにつれて、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上が叫ばれるようになり、食品の品質や安全性への要求も強まります。

シンプルで伝統的な食生活から、欧米をはじめとする他国の食文化が導入され、外食産業も活発化し、穀物、乳製品、肉・魚、コーヒーなどのし好品の消費量が増えるなど、需要も多様化していきます。

 

さらに日本国内特有の事情でいえば、アベノミクス後の円安で輸入品の価格が上昇しています。

日本の食料自給率の低いことはよく指摘されますが、カロリーベースの自給率は39%前後で、ドイツの80%やイギリスの65%に比べても低く、オーストラリアの173%やアメリカの124%にいたっては比べるべくもありません。

畜産物を育てる飼料から原材料まで輸入品に頼っている我が国の食品業界にとって、円安は死活問題ともいえます。

 

このような傾向が強まることで原材料価格の高騰につながり、食品業界の歩留り低下につながっているのです。

小売り側のバイイングパワー強化で値下げ圧力

世界的な原材料価格の高騰や円安による輸入品価格の上昇といった要因があっても、食品業界にとってそれらのコスト増分を製品価格に転嫁するのはほぼ不可能といっていいでしょう。

長引く景気低迷と消費税の増税、生活コストの上昇などで、消費者の財布のひもはますます固くなる一方です。

小売業界や飲食業界は、なんとか消費を喚起しようと、必死にコストを削減し、値下げもしくは現状維持を目指しています。

 

冷凍食品など、競合メーカーが多く価格競争によって特売が常態化している商品の代表的なものです。

さらに、昨今食品メーカーを苦しめているのは、小売業界側からの値下げ圧力です。

近年の小売業界は業界再編によって、大手スーパーやコンビニの寡占化が進んでいます。

 

こうした巨大チェーンが強大な販売力を背景にして価格交渉力(バイイング・パワー)をもっており、値下げ圧力を強めているのです。

また、メーカー側のブランドで販売するNB(ナショナルブランド)に対して、小売り側が企画しオリジナルブランドとして販売するPB(プライベートブランド)の人気も高まっています。

PBはNBと同じく食品メーカーが製造を手がけますが、多くの場合NBよりも低価格であるのが売りなので、マージンの低下は免れません。

 

しょうゆや中華調味料など嗜好性が強いカテゴリーではNBが依然として強いものの、パンや菓子類などでは、PBの存在感が高まっています。

TPPは食品業界にプラスとなるか

先ごろ交渉参加12カ国のあいだで大筋合意がなされた環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership:TPP)も今後食品業界にとって重要な課題になると考えられます。

この業界へのインパクトとしては、関税の削減・撤廃によるものが最も大きいでしょう。

日本の場合は、聖域5品目(コメ、麦、乳製品、牛肉・豚肉、甘味資源作物)を巡る議論がTPPの争点となってきました。

 

最大の焦点だったコメは、アメリカとオーストラリアに計7万8400トンの輸入枠を新設するという譲歩を迫られ、麦の実質的な関税に当たるマークアップ(売買差益)や牛肉・豚肉の関税は大幅に削減し、乳製品はTPP枠で7万トンの輸入拡大に応じることに。

日本の農業は、TPPで大幅な開放を迫られることとなりました。

関税の削減・撤廃で原材料を安く手に入れられるようになれば食品業界にとってプラスになりますが、安い輸入品に押されて国産品のシェアが低下し国内景気が悪化すれば、ますます消費は減退する可能性があります。

需要の多様化で小規模・多品種が求められる

このほか、業界をめぐる脅威としては、需要や嗜好の多様化による環境の変化もあります。

食品業界は常に新商品を投入し続けなくては売り上げが下がる宿命にあります。

しかし、消費者の需要が多様化することで、「これを投入すれば必ず売れる」というヒット商品が見つけにくくなっています。

 

「小規模・多品種」という要望は近代的な製造業にとってフィットするのがかなり難しく、食品メーカーとしても工夫が必要となるところです。

 

出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング


20年以上のサポート経験から培ったスキル・ノウハウを基に、富士通マーケティングの先進の製造業サポート推進チームが、日本の製造業の動向や現状の課題を紹介していきます。 基本のQCDや環境、安全など、毎週、旬なトピックスを展開します。