IoTやAI導入準備のために現場の分析力を高める

IoTやAI導入準備のために現場の分析力を高める

5年先、10年先を見通して、なぜなぜ分析やKYに代表される思考訓練を現場で強化、継続する。

将来に向けて、現場でIoTやAIを使いこなすためである、という話です。

 

1.おむつを買った人はビールを買う傾向がある?

「おむつを買った人はビールを買う傾向がある。」

マーケティングの分野では有名な分析事例です。

米国の大手スーパーマーケット・チェーンで販売データをマーケットバスケット分析した結果、顧客はおむつとビールを一緒に買う傾向にあることが分かったそうです。

マーケットバスケット分析とは、一人の顧客が「何と何を一緒に買う(カゴに入れた)か」を顧客が受け取るレシート単位で分析する手法です。

調査の結果、子供のいる家庭で、母親はかさばる紙おむつを買うように父親に頼み、店に来た父親はついでに缶ビールを購入していたと解釈されています。

 

大容量のデータに隠された因果関係やパターンを探索するためにデータマイニングという手法が使われました。

1990年〜2000年にかけて、その分野ではしばしば取り上げられた分析結果です。

ただし、紙おむつの売り場に缶ビールが積み上がっているスーパーマーケット、あるいは逆に缶ビール売り場に紙おむつがドンとを置かれているスーパーマーケットを、残念ながら、私は見たことがありません。

あくまで分析結果だけの話で、それを実践して成果が上がったという実績が、あるのかどうかはよくわかりません。

ネットで調べても、成果があったという話や都市伝説だという話、様々でした。

この話は、現場の製造活動に関連して、新たな因果関係を抽出しようという場合の留意点を教えてくれます。

 

2.現場で思考訓練していますか?

現場で、なぜなぜ分析、危険予知など、思考を鍛える訓練を実施していますか?

3現主義による、現象の因果関係の追及が実践できていますか?

おむつとビールの関係は、組み合わせの相関関係の強さから判断されたであろうことは推測されます。

検討対象はレシートにすでに記載されています。

そして、ここでの目的は、「組み合わせ」を見つけることです。

 

一方、製造活動に関連したなんらかの因果関係を見つけようとした時、具体的には、現場へもののインターネット(IoT)を導入する場合、あるいは製造現場のビックデータを人工知能(AI)で解析する場合、問題があります。

それは、そもそも、何に注目してデータを計測するべきかということです。

計測の対象を明確にすることが課題となります。

つまり、検討対象を見つけるところから考える必要があります。

 

ここで、具体的に事例で考えます。

例えば、部品Aと部品B、部品Cで構成されている製品の組み立てラインを想定します。

第一工程で部品Aと部品Bを人手で組み立てます。

そして、第二工程では部品A+部品Bの半製品に、部品Cをロボットで取り付けます。

製品が出来上がり、その後、検査ラインへ流れていくライン構成になっています。

 

ある時、検査ラインで製品についたキズを見つけました。

部品Aに長さ10mm、深さ0.2〜0.3程度の傷が1本。

発生頻度を調べると、連続して全数ではありません。散発でした。

10〜20個に1個程度の割合で発生していました。

 

早速、原因調査です。

部品Aなので、まずは、第一工程での人手による組み付けの時にキズが付いたと仮定して調査しました。

作業者の動作分析を行いましたが、問題は見つかりませんでした。

 

次に、作業者が組み付ける前の時点で、つまり部品メーカーから納入された時点で、実はキズがついていたということがあるのかもしれないとの仮定のもとで調査しました。

部品メーカには、定期的に監査をしていることもあって、問題点はありませんでした。

 

さらに、それならば、半製品が第一工程から第二工程へコンベアで流動する間かもしれないと調査しましたが、これも問題なし。

いろいろと、調査した結果……、原因は第二工程のロボットでした。

部品をつかみとるエアーアクチュエーター可動部分の動きに不備があり、半製品の構成部品となる部品Aにキズをつけていました。

散発していたのは、アクチュエーターに供給されていたエアー圧の変動が不定期に発生していたことによるものでした。

第二工程へエアーを供給する配管に取り付けてあったエアー3点セットの「フィルターの汚れ」によって圧損で不定期なエアー圧変動が生じていました。

検証の結果、キズ発生とエアー3点セットのフィルターの汚れとの因果関係を見つけることができました。

 

現場の思考力、分析力、観察力、分析力……、重要です。

 

3.IoTやAIの準備のため現場の分析力を高める

簡単な事例ですが実際の現場では、このような検証がなされます。

トヨタ生産方式の大野耐一氏がいうところの「なぜを5回繰り返す」という源流分析です。

問題と原因の因果関係には、教科書的な答えはありません。

製造ラインの構成は、ライン毎に千差万別、その工場独自だからです。

現場を熟知した管理者と作業者の洞察力や解析力なしに分析はできません。

そして、IoTを活用してトラブルを感知しようと考えるならば、先の検証を「事前に」行う必要があります。

IoTでは、対象箇所へ事前に適切なセンシングツールを設置しなければならないからです。

 

また、AIでビックデータを分析するとなると、どうなるのでしょう。

おそらく、先の検討に加えて、考え得る様々な変動要因を全て洗い出しそれらを定量化すると思われます。

工場内温度、湿度といった環境要因、工場内エアーコンプレッサーの圧力変動、供給電源の電圧変動といった場内インフラ要因、作業者の体調や動きといった人的要因、関連設備の可動部の状態といった設備要因などなど……。

一見無関係と思われる項目も含め、全ての事項を感知して数値にするのが現場でのビックデータを生かす前提となるのではないでしょうか。

 

このように考えると、これからも、現場のなぜなぜ分析による因果関係の抽出作業は欠かせません。

訓練して分析力を高める必要はありそうです。

 

4.現場の思考訓練が現場の足腰を鍛える

AIによるデータ分析も活用することで的確な、あるいは迅速なカイゼンが展開できると思いますし、そう期待したいです。

ですが、やはり主役は、3現主義に基づいてなぜを繰り返す作業者であろうことは変わりません。

過去の実績から因果関係を見つけるのはAIに任せるにせよ、従来にはない、予想もしなかった新たな現象についてはやはり人の判断が欠かせないでしょう。

 

データを処理する圧倒的なスピードと量を生かせばAIを生かしてノーベル賞級の研究が進むとも予測されています。

ただ、本当にそうなったらAIがノーベル賞を受賞する時代がくるのかもしれません。

こうなると、頭を使うのは、そのAIを使いこなすために設定を考えてる人だけ。

他の人は結果だけ見せられて終わり。

結果が得られるまでの過程がブラックボックスです。

こうした状況を、AIが生む「ブラックボックス」と呼ぶそうです。

おむつとビールをセットにすると売れるということを真に受けて、何も考えず品揃えをする店長が増える懸念があるとも考えられます。

途中の思考が抜けています。

 

「20XX年ノーベル省はAIが独占」。そんな日がやってきたら。

宇宙物理学者で名古屋大学名誉教授の池内了氏は「人間が持つ能力が衰える」とみる。

人類は自動車や飛行機をつくり行動範囲を飛躍的に広げた。一方で、文明が進んだ国ほど足が弱くなるといった問題が深刻になり、米国では肥満が広がった。肉体で起こったことが頭脳でも繰り返されかねない。

(出典:日本経済新聞2016年11月6日)

 

名古屋大学名誉教授の池内了氏の指摘は極めて重要な警告として受け止めたいです。

現場から考える力を奪うと安全確保も困難になります。

危険予知(KY)の能力が低下するわけですから。

現場の安全は機械が全てやってくれるから、人間は考えなくてイイという発想もあるかもしれません。

しかし、考える力が衰えた人に、モノづくりの発展に欠かせない新たな付加価値を創出することができるでしょうか?

 

IoTやAIは5年先、10年先の現場を大きく変えます。

生産性を飛躍的に伸ばす「道具」として期待したいです。

あくまで、IoTやAIを使うのは人です。

そして、どのように使うかも人が決めます。

 

現場で、なぜを5回繰り返し、安全のために危険を予知する、こうした思考の訓練は、ますます重要になります。

技術の高度化、複雑化に対応できる柔軟な思考が現場で求められます。

5年先、10年先を見通し、なぜなぜ分析やKYに代表される思考訓練を現場で強化、継続したいです。

現場でIoTやAIを使いこなすためです。

 

現場で、なぜなぜ分析、危険予知など、思考を鍛える訓練を実施していますか?

3現主義による現象の因果関係の追及が実践できていますか?

「考える」時間を現場へ提供してはいかがでしょうか?

現場の思考訓練が、現場の足腰を鍛えます。

 

まとめ。

5年先、10年先を見通して、なぜなぜ分析やKYに代表される思考訓練を現場で強化、継続する。

将来に向けて、現場でIoTやAIを使いこなすためである。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)