IoTとAIが組み合わさる前に現場の仕事を変える
IoTとAIを組み合わせると最終的に自己完結型の設備が出来上がる。
時間で評価される単純作業の要素が減り、プロセスや結果で評価される創造性ある業務が増える。
経営者が現場の仕事を意図や意思を持って「変える「ことが求められる、という話です。
1.高炉にAIが適用されようとしている
鉄鋼大手の神戸製鋼が2017年から高炉の温度制御にAIを活用し、高炉の停止を防ぐとの記事が日経新聞に掲載されていました。
現在、高炉の内部温度や圧力を測定するのに数千個のセンサーが高炉内に設置されています。
熟練技術者がデータを見て、炉内の原料の状況やガスの流れを判断するのです。
そうして高炉の下部から吹き込む熱風の温度や上部から投入する鉄鉱石やコークスの量を制御します。
高炉の操業での最大のトラブルは、温度低下で溶けた鉄が詰まってしまうことです。
高炉を停止せざるを得なくなります。
1日停止すると損害額が数億円にも上るので、AIを使っての安定稼働を目指しています。
AIを活用した新しいシステムでは、高炉操作の判断ポイントをAIに学習させます。
過去に蓄積したデータと熟練技術者の経験に基づいて「このデータの状況は危険」という判断ポイントを学習させるのです。
AIで温度低下の兆候を見つけて、「熱風の温度を何度上げよ」などの具体的な警報を、現場の作業者は受け取ることができます。
現場のノウハウ、熟練した技がAIに引き継がれ、経験が浅い若手の作業者でも操業できるというわけです。
将来的には、実際の作業もAIによる制御を目指すようです。
(出典:日本経済新聞社2016年12月23日)
高炉の操業には、ベテランの働きが欠かせないとはしばしば言われることです。
プロセス自体の複雑さもあり、操業には暗黙知的要素が多分にありそうです。
そして、いよいよ、そうした高炉の操業にもIoTやAIが適用されるというわけです。
IoTやAIが製造現場へ導入される流れはドンドン加速されていきます。
2.自己完結型の設備が出来上がる
この記事で注目したいのは、IoTとAIを組み合わせるということです。
IoTとAIを組み合わせると、最終的に自己完結型の設備が出来上がることがわかります。
同様な考え方が、工作機械業界もあるようです。
多数のセンサーを取り付けた工作機械から得られたデータをもとに、AIが良品の加工条件を学習する。
良品を加工する条件から外れる予兆があればAIは工作機械を制御するのです。
こうしたシステムが出来上がれば、モノづくりの「作業」そのものに、人は不要となります。
19世紀の前半、第一次産業革命で、モノづくりの機械化が進んだ頃の話です。
イギリス中・北部の織物工業地帯でラッダイト運動とよばれる機械破壊運動が起きました。
産業革命にともなう機械使用の普及により、失業のおそれを感じた手工業者・労働者が起こしたものです。
イノベーションが起きる時に、「従来の仕事がなくなる」という話が出てくるのは、歴史が示しています。
同様にIoTやAIの進化に伴って、従来、人がやっていた仕事が技術に取って変わられ、仕事がなくなるとの話をしばしば耳にします。
高炉から工作機械まで、あらゆるモノづくり設備で、作業が不要になるというのは、現代版ラッダイト運動の前夜という感じです。
そうした観点から考えれば、今、進化を加速しつつあるIoTやAIは確実にイノベーションです。第4次産業革命といわれる所以です。
モノ作りは、今、こうした流れの中にあるとしっかりと認識したいです。
そうすれば、モノづくりで儲かる仕組みのために必要な視点が自ずと浮かんできます。
3.IoTが現場へ導入される中で儲かる仕組みを構築する
IoTとAIが現場へ導入されました。その結果、人は多くの「作業」から解放されました。
そうした前提で儲かる仕組みを考えます。
- 現場のカイゼンは今まで以上に重要になる。
- 顧客へ届けるコト(付加価値)を最大化する製品の開発が重要になる。
- ついては、現場の業務を、どう「変える「かが重要になる。
IoTとAIはあくまで道具です。付加価値を生み出すのはあくまで、データに意味づけをする現場や技術者の方です。
ですから、カイゼンの水準も高めねばなりません。
IoTとAIが構築したシステムの精度を、極限にまで高めるには、従来のやり方では追いつかない。
現場で起きている現象の工学的な因果関係を把握し続けねばならないからです。
各社の製造プロセスがIoTやAIで高度化すると、製品そのものから生み出される付加価値が勝負になると予想されます。
QCD+アルファです。他社にはないプラスアルファの付加価値です。
超低コスト、他を凌駕する仕様、超短納期。
ですから、イノベーションは従来の仕事を不要にするだけでは無いことに気づきます。新たな仕事も生みます。
肉体労働、作業は技術に取って変わられますが、「思考」を伴った仕事は増えます。
言い換えると「創造性」のある仕事。
つまり人間ならではの、AIでは対応できない業務です。
当社のコンサルティングでは、「今」と「5年先、10年先」の時間軸上の2つの時点に着目します。
そうして「今」はカイゼン、「5年先、10年先」はイノベーションを展開するのです。
両者がセットで初めて意味があります。
コンサルティングで繰り返しお伝えする、儲かる工場経営の視点です。
カイゼン→イノベーションへ、この流れ自体は技術の進歩にかかわらず不変です。
変わるのは、それぞれの仕事のやり方です。
時間で評価される単純作業の要素が減り、プロセスや結果で評価される創造性ある業務が増えます。
ですから、経営者が現場の仕事を、意図や意思を持って「変える」ことが、これから求められます。
単純作業を減らし、創造性を発揮できる業務をドンドン現場に作るのです。
そうして、業務の評価のやり方も変えます。仕事のプロセスや結果をしっかり評価する仕組みを構築するのです。
そうすることで、現場も意識も大きく変わります。
こうした対応ができず従来の仕事のやり方に固執している現場が「ラッダイト運動」を起こすのです。
ですから、経営者や現場リーダーは、これから、我々はどうように変わっていくべきかを伝え、知らせる必要があります。
4.ベテランを始め、現場自身にどのように変わってもらうのか
製造プロセスを開発するプロジェクトの責任者を担っていた頃のことです。
新たな製造プロセスを開発し、製造条件を設定する段になって、現場のベテラン作業者から言われたことがあります。
「従来の製法なら俺の経験で何とでも最適条件を探ることができる。新たな製法は全く違う考えで開発したのだから、お前の方でやってみな。俺はそれを学ぶから。」
製造パラメーターが多い製法で、最適な製造条件を探るのは、ベテランの仕事でした。従来の経験と現物から判断して最適条件を探るのです。
ですから、新たな製法で製造条件を探るのは、ベテランにとっても白紙状態。そのようなこともあり、そのベテラン作業者は、あえて私へ任せたわけです。
新たな製法のコンセプトや技術上のキモとなりそうなところを、そのベテラン作業者へ伝えました。
そして、ベテランと一緒になって、たくさんある製造パラメーターを調整し、新たな「ひな形」を作りました。
その後、新たな製法の狙いを理解してくれたベテラン作業者が、その「ひな形」を使いながら最適な製造条件を探る仕事をしてくれました。
この経験は、インダストリー4.0というほど大きな事例ではありません。
ただ、今振り返ると、技術の変化へ自ら積極的にかかわってくれたベテラン作業者のことを思い出すのです。
進化、変化する技術に対応するために、ベテランを始め、現場自身にどのように変わってもらうか。
これはインダストリー4.0と称される進化したIoTやAIを現場へ導入するにあたって重要な課題となります。
現場にIoTやAIが導入されたら現場の業務がどう変わるでしょうか?
現場にはどのように変わってもらいたいでしょうか?
それを目指すべき状態として、現場へ示せるでしょうか?
まとめ。
IoTとAIを組み合わせると最終的に自己完結型の設備が出来上がる。
時間で評価される単純作業の要素が減り、プロセスや結果で評価される創造性ある業務が増える。
経営者が現場の仕事を意図や意思を持って「変える」ことが求められる。
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