食品メーカーにおける高品質から考えるプロセス改善
原材料価格の高騰や小売りからの価格圧力による価格競争、低価格で高品質をうたい文句とするPB(プライベートブランド)の台頭など、「戦国時代」ともいえる激しい競争にさらされている食品メーカー。
先ごろ交渉参加12カ国のあいだで大筋合意がなされた環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership:TPP)が開始すれば、さらなる環境の変化は免れません。
ただし、そうした厳しい状況でも、食品メーカーにとって忘れてはならないものがあります。それが「食の安全」と「高品質」です。
「食の安全」に対する監視、ますます厳しく
「食の安全」に関わるさまざまな事件は、枚挙にいとまがありません。
例えば、食品衛生法違反であれば、2009年の消費期限切れの牛乳を使用してシュークリームを製造、出荷した事件。
不当競争防止法違反であれば、2010年の等級に満たない牛肉をブランド和牛の「飛騨牛」と偽装して販売をおこなった事件などは記憶に新しいでしょう。
食品の自主回収の件数は、こうした事件が注目を集めた2009年には前年比3倍に達しました。
その後も、食の安全関連の検挙件数・検挙人員ともに高い水準で推移しています。
以前であれば、食品偽装は日常的なものとして見過ごされがちでしたが、最近では、消費者の意識変革による衛生面に対する意識の向上や国際規模での安全規格の制定で食品関連企業に対する監視の目は強まっている傾向があります。
さらに、ツイッターやフェイスブックなどのインターネットのコミュニティーサービスの発達によって、一消費者からの情報発信で国内外をにぎわすような不祥事に発展するようなことが起きています。
昨今ひんぱんに報道される食品への異物混入事件なども、SNSに端を発した事例のひとつでしょう。
食品メーカーにはますます高品質と企業コンプライアンスが求められる時代になっています。
海外でも食の品質への関心は高まっている
少子高齢化による人口減で、日本国内の市場が縮小の一途をたどる中、食品メーカーは活路を海外に求めています。
とくに、中国やインド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など、人口が多い新興国の経済成長はめざましく、所得が伸びて中間層が増えるにつれて、嗜好が多様化し高品質な食品の需要も伸びています。
現地では日本製の食品は高品質の代名詞といわれており、富裕層のみならず最近増え始めた中間層にまで人気があります。
ただ、こうした新興国でも、教育水準が上がり、QOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)への要求が高まるにつれて、食の安全への関心は高まっています。
昨年台湾では、大手メーカーが廃油を再利用した粗悪な食用油を販売していたとして、深刻な社会問題となりました。
この食用油は、油本体として流通していただけでなく、さまざまな加工食品やラードなどの加工油脂にまで利用されていたため、問題は根深いものでした。
また、中東諸国やマレーシア、インドネシアなどのムスリム(イスラム教徒)が多い国では「あの食品には豚の成分が含まれている」という噂が流れただけで、メーカーにとって致命傷になります。
昨今こうした噂はSNSで電光石火のように広まるので、一度発生したら食い止めるのはかなり難しいといえます。
実際、数年前にはマレーシアで外資系大手菓子メーカーのチョコレートに豚由来の成分が含まれているという噂がSNSで流れ、大規模な企業バッシングや不買運動につながったケースがあります。
また、同じくマレーシアでは今年、国内首位のケーキ・カフェチェーンが、セントラルキッチンの衛生状態が悪いと当局から指摘され、ハラル(イスラム教の戒律で許された製品)認証を取り消されたケースもありました。
このケーキチェーンの場合、製造プロセスを改善したことにより、2カ月後にはふたたびハラル認証を取得しましたが、ハラル認証を受ける場合は、製品に豚やアルコール由来の成分を含んでいないだけでなく、衛生や品質に対しても独自の基準があるので、細心の注意が必要です。
社内コンプライアンスの確立と早急なプロセス改善を
国内外で起きているような食品の品質に関わる事件を防ぐためにも、製造プロセスは常に明確化しておき、万が一の際はきちんと開示できるようにしておくべきです。
多くの食品メーカーにおいては、社内にコンプライアンス委員会などを設置し、コンプライアンス経営への取組みを強化しています。
もし社内で食の安全に関するコンプライアンスが確立していないようであれば、早急にプロセスの改善を図るべきです。
作業マニュアルの明文化や、従業員への周知、食の安全とコンプライアンスに関する研修を実施するなど、すぐに手を打てる対策は多くあります。
農林水産省では、食品業界が参考として利用するための「『食品業界の信頼性向上自主行動計画』策定の手引き〜5つの基本原則〜」を策定していますので、こうしたものをお手本としてもよいでしょう。
なによりも、経営トップの強いリーダーシップのもと、企業文化として根付かせていくことがもっとも大切になります。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング