遺伝子組み換え食品の安全性と「トレーサビリティ」の取り組み
遺伝子組み換えとは英語ではGenetic Modificationといい、自然界では通常起こりえない遺伝子の変化を人為的に起こすことをいいます。
遺伝子組み換え技術では、生産者や消費者の求める性質を効率よく出現させることができる点、組み込む有用な遺伝子が種を超えていろいろな生物から得られる点などが、従来の品種改良とは異なります。
厚生労働省が認可した遺伝子組換え食品は200種類以上
厚生労働省で、安全性審査の手続を経た旨の公表がなされた遺伝子組換え食品及び添加物は、じゃがいもが8品種、大豆が20品種、てんさいが3品種、とうもろこしが201品種などです(2015年11月時点) 。
これらの作物は、
- 特定の除草剤で枯れない
- 特定の成分(オレイン酸など)を多く含む
- 害虫に強い
- ウィルス病に強い
- 安定供給できる
といった特徴をもつよう、遺伝子操作をして作られた品種です。
直接食用となるほかに、油やみそ、しょうゆなどの加工食品の原材料になります。
2011年時点での遺伝子組換え作物の作付面積は、世界29カ国で1億6,000万ヘクタールに及んでいます。
専門家による検査をパスした食品のみが認可される
厚生労働省によると、認可を受けた遺伝子組換え食品や添加物は、試験方法が科学的に適切かどうか、データ不足がないかなど、専門家による厳格な検査を受けています。
その結果、遺伝子操作で組み込んだ遺伝子によって作られるタンパク質の安全性や組み込んだ遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性がないことを確認した上で、認可しています。
組み込んだ遺伝子によって作られるタンパク質がアレルギーを起こさないかについてのアレルギー検査も行っています。
一方、日本は、海外から多くの食料品を輸入しています。
検疫所では、安全性が確認されていない遺伝子組換え食品が輸入されていないか、遺伝子組換え食品の輸入時の届出が正しく行われているかのチェックも行っています。
遺伝子組み換え作物を使用しても、商品への表示省略できる場合も
遺伝子組み換え食品は人体に有害という意見もあり、遺伝子組み換え作物を使用した食品は、原材料名にその旨を明記しなくてはいけません。
ただし、製造の過程で組み込まれた遺伝子やその遺伝子が作る新たなタンパク質が技術的に検出できない場合には、表示は義務付けられていません。
また、加工食品の場合は主な原材料(全原材料に占める重量の割合が上位3位までのもので、かつ原材料に占める重量の割合が5%以上のもの)にあたらない場合は表示が省略できることになっています。
普段自分が口にしている食品が本当に安全に製造されたものかどうか調べるために、有効となるのがトレーサビリティー(英語のtrace“追跡”と、ability“できること”を組み合わせた言葉:追跡可能性)です。
食品の製造過程の情報を消費者に伝えるトレーサビリティー
食品のトレーサビリティーは、食品の生産や製造過程などの商品履歴情報を消費者に提供する流通システムのことです。
家畜の飼育もしくは植物の栽培から、流通、加工を経て消費者の口に入るまでの過程を追跡できるようにすることで、食中毒などの発生時に原因究明がしやすくなるといわれています。
牛に関してはとくに、BSE(狂牛病)の感染防止と消費者への情報提供といった目的で2003年に「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」が制定されました。
製造業におけるトレーサビリティーの取り組み
トレーサビリティーは食品だけのものではありません。
製造業でも、不良品・故障の原因追究などの品質管理、リコール対応などの安全管理といった目的で、製品の個体識別やトレーサビリティーの取り組みは行われています。
製造業でのトレーサビリティーの歴史は古く、戦前の日本で生まれた製番/号機管理などもその一例と言えるでしょう。
製品に欠陥や不具合等の品質問題が発生した場合、当事者である企業がすばやく有効な対策を打たないと、消費者が不信感を抱くことになります。
とくに昨今はインターネットが普及し、一度悪い評判がたてばソーシャルメディア(SNS)上で急速にシェアされていきます。
企業は消費者第一の姿勢を示し、問題が発生した場合、真摯に原因追求に努めることが強く求められています。
製品ごとの物体指紋でトレーサビリティーを実現
IT業界の一大バズワードであるIoT(モノのインターネット)は、製造業でのトレーサビリティーに一役買うと考えられます。
例えば、人間の目では判別が困難な製品ごとの固有の紋様(物体指紋)を、スマートフォンやタブレット端末の内蔵カメラで認識し、製品の個体識別をする世界初の「物体指紋認証技術」を活用した「個体認証トレーサビリティシステム」を開発されました。
このシステムでは、従来トレーサビリティーの上で大きな役割を担っていたRFタグが不要になり、タグを付与できなかったさまざまな物品でも、個体識別や製造元の認識が可能になりました。
このように、トレーサビリティーの進展にはいまや、IT技術の発展が欠かせないものとなっています。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング