インダストリー4.0によるIoT進展とダイナミックセル生産の基本
欧州の技術大国ドイツが掲げる「インダストリー4.0」構想が、世界の製造業に衝撃を与えています。
「インダストリー4.0」は、いうなれば「第4次産業革命」。大げさに聞こえるかもしれませんが、IoT(モノのインターネット)の進展とともに、にわかに現実味を帯びてきています。
「気候・エネルギー」「健康・食品」「モビリティ」「セキュリティ」「通信」が重点分野に
「インダストリー4.0」は、ドイツ政府が主導し、2011年から産官学共同で進めている国家プロジェクトです。
「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(ハイテクノロジー戦略の2020年に向けた実行計画)」の一つに位置づけられています。
「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(ハイテクノロジー戦略の2020年に向けた実行計画)」では、「気候・エネルギー」「健康・食品」「モビリティ」「セキュリティ」「通信」の5分野が重点産業とされ、今後10~15年を見据えた中期的な科学的・技術的な目標が掲げられています。
第四次産業革命では「スマート・ファクトリー」を目指す
第一次産業革命では、18世紀後半に蒸気機関などによる工場の機械化を成し遂げました。
ついで、第二次産業革命は19世紀後半から電力を活用した大量生産を開始し、第三次産業革命は20世紀後半に電気とITを組み合わせたオートメーション化が図られました。
「インダストリー4.0」で目標とされるのは、「スマート・ファクトリー」の実現です。
「インダストリー4.0」のかなめ、ダイナミックセル生産方式
スマート・ファクトリーでは、生産ラインがリアルタイムに連携し、少量多品種、高付加価値の製品を大規模生産することを目指しています。
そのために考え出された生産方法が、ダイナミックセル生産です。
ダイナミックセル生産は、従来の製造業で採られてきたライン生産(水平連携)とセル生産(垂直連携)の折衷案のようなものです。
ラインの工程をいくつかに分け、それらの工程を担当するロボットが、クラウド上のさまざまな情報にリアルタイムにアクセスし、情報に応じて生産していくという方式です。
顧客ごと、製品ごとにデザインや構成が異なる製品でも大量生産と同じスピードで生産できるというのが強みで、途中で仕様が変わっても理論的には対応できるであろう生産方式です。
自動車産業に代表されるライン生産方式では、さまざまな製造機械によるラインが組まれるため、製品の仕様を多様化することはそう簡単ではありません。
一方、ダイナミックセル方式では、固定的な生産ラインの概念がなくなります。
その実現には、センサーネットワークなどの現実世界(Physical System)と、サイバー空間でのコンピューティング能力(Cyber System)を融合させ、インテリジェントな生産システムが自律的に生産していくことが求められます。
IoTが進展していく中で、カスタマイズが好まれる現代のものづくりに適した生産方法といえるのではないでしょうか。
コマツが進める「スマート工場」への取り組み
建築機械を製造するコマツ(小松製作所)は、ICT(情報通信技術)を活用し、生産から販売までの全ての工程がリアルタイムに連携・循環する「つながる化」で、安全性、生産性の飛躍的向上を目指しています。
例えば、工場における工作機械やロボットなど生産設備や生産ラインの稼働情報をIoTで「見える化」し、共有データベースに集約します。
それらの情報に基づき、生産工程の改善案を立案し、面積あたりの生産性向上、省人化、および生産リードタイムの短縮の実現を目指します。
大阪工場の敷地内にある「生産技術開発センタ」の実験棟では、実際の工場と同じように工作機械やロボットといった生産設備が並び、各機械にタブレット端末が取り付けられています。
これらの端末がリアルタイムで機械の稼働データを収集するのです。
同社では、世界の主要生産拠点での溶接ロボットはすでにネットワーク化され、情報の集約が進められています。
今後は、工作機械にもこうした外付けのコントローラーを取り付け、設備情報の見える化を進めていく計画です。
同社では、こうしたスマート工場の概念を「KOM-MICS(コムミックス)」と呼んでいます。
コマツの「見える化」は自社内にとどまりません。
同社の製品遠隔監視システム「KOMTRAX(コムトラックス)」は、ユーザーが保有する車両の稼働状況やコンポーネントの損耗状況についても、モニタリング・分析を実施。
部品寿命やオーバーホール実施時期の予測精度を向上させる取り組みを行っています。
市場情報を工場に直結させることで、ニーズに合った商品の提案や使い方の改善提案など、販売現場のオペレーション向上にもつながり、他社にはない高付加価値を生み出すことに成功しています。
スマート工場の世界トップは日本?
ドイツが「インダストリー4.0」構想を掲げる前から、日本の製造業ではコマツのようにスマート工場への取り組みがなされてきています。
政府も民間企業もITを活用した生産現場の効率化、改善には長年取り組んでおり、実は世界のトップを走るのは日本だという見方もあります。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング