日本の製造業の進化のカギ握る 製造現場+IT
2018年は、日本の製造業にとって大きな転換期となるのは間違いない。国内では労働人口が減り、人手不足が深刻化している。グローバルでも新興国の急成長と市場の変化によって競争環境が激化。さらに、ユーザーの価値観もモノからコトへと意識が変わり、テクノロジーもAIやビッグデータなどITをベースとした新技術が次々と生まれ、製品・サービスの中心となっている。日本と製造業を取り巻く環境が激変し、私たち自身は大きく変わらなければいけない状況にある。変化のポイントは「製造現場におけるIT活用」。18年はその一歩を踏み出す大事な年になる。
現場の伝統+ITテクノロジーの融合
日本生産性本部の調査によると、日本の1人あたりの労働生産性は8万1777ドルで、OECD加盟35カ国中21位。製造業に限ると、日本の労働生産性水準(就業者1人当たり付加価値)は、9万5963ドル(1066万円)で主要国中14位にとどまる。また大手メーカーから品質データ改ざん問題が相次ぎ、高い技術力と現場力に立脚した日本品質という強みも揺らいでいる。日本は、製造業の規模と裾野の広さは世界でも有数の国で現場力も高いと言われるが、実際の数値に落とし込んでみると、まだまだ改善の余地は多く存在する。特に製造現場ではIT技術の活用が進んでおらず、そこにポイントがある。
国内市場が縮小傾向で、少子化で労働力も減っている。さらに、技術力が急成長している新興国を前にして日本がやるべきことは、現場にIT技術を中心とする新たなアイデアやテクノロジーを取り入れて、高度化して価値や品質を最大化することに尽きる。現場の技術者の力や改善の仕組みと文化は、日本がこれまで積み上げてきた財産である。日本はITに頼らず、現場の力で世界と同等以上に戦ってきた。そこにIT技術を取り込むことで、他国にはまねのできない領域に行くことができる。
いま中国など新興国でも人件費が急騰し、生産コストが国内製造と変わらないものも出てきている。生産性を上げて逆転させることも視野に入ってくる。また、汎用品の生産は海外に置いたまま、国内をテストベッドとして最先端の生産システムを構築し、その仕組みをサービス化して、エンジニアリングを新しいビジネスとして展開するといったことも可能になる。今まで構築してきた工場の仕組みにITを導入して高度化する。それがスマートファクトリーや製造業のIoT化、デジタル化といったものであり、日本の製造業にとっての強みを最大化できる。
製造業+ITの将来像 コネクテッドインダストリー
ドイツのインダストリー4.0、アメリカのインダストリアルインターネット、中国の中国製造2025など、各国が第4次産業革命における製造業の未来を示すなか、日本はこれまでそれがまとまっていなかった。経済産業省は3月、「コネクテッドインダストリーズ」を策定。既存の産業とデジタル技術、機械、データ、ヒト、組織などさまざまなもののつながりによって新たな付加価値の創出や社会課題の解決を目指すとし、製造業分野では生産の全体最適 ・止まらない工場 ・事故や環境負荷の低減を進めることとした。ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)がその活動主体となり、国を挙げた第4次産業革命の取り組みがスタートしている。
標準化の仕組みづくりや他国との連携の活動に加え、中小製造業に対し、それらに最適な簡単で低コストでIoTを導入ができるツールとその組み合わせのレシピを厳選して認定するなどの活動を行い、18年はさらなる積極的な活動が望まれている。
現場でITを使いやすくする IoT簡単ツール
この数年、IoTに関する情報が整理されないままに、ブームに乗じたさまざまなハードウエア・ソフトウエア製品が数多く市場にあふれた。またIoTの実践例も、BMWなど世界的な大企業の例ばかりが語られ、国内のケースはなかなかオープンになってこなかった。導入して使う側のユーザーはIoTを身近に感じることができず、「IoTの実態が見えない」「効果はあるのか」「導入する際に何から始めれば良いか分からない」「どれ(何)が正解なのか」という声が多く上がっていた。特にIT人材が不足している中小製造業では顕著で、興味や関心はあるが様子見状態の解決が課題となっていた。
それに対し17年は、工場内の工程や業務に即したものや、目的や用途を明確にしたIoTツールが数多く登場。ポカよけや作業効率化といった作業員の現場改善を支援するものや、工程管理者や工場長など管理者向けの業務・製造プロセスを効率化するためのもの、装置からデータを集めてそれを分析するためのものなどが、機能ごとに1つのソリューションやパッケージとしてまとまり、それさえ導入すればIoTを始められるというものが話題となった。
また工作機械やロボットをはじめ、各種の製造・加工装置や産業機械にIoT機能とサービスが組み込まれたものも、もう一つの簡単IoTの潮流として広がっている。生産データの収集や稼働監視、状態診断などに必要なセンサやソフトウエアがすべて構築済みで提供され、ユーザーは装置を購入時点からまったく意識することなくIoTを使っている。
17年にIoTの土壌整備が進み、18年は中小製造業がそれらを実際に導入して効果を検証する、導入済みの企業は深化または横展開するフェーズに入る。生産性向上や人手不足の解消など、工場の未来を考える上ではIoT、IT技術の活用が欠かせない。
ITをリアル世界で再現するロボット フル活用で生産性向上を
産業用ロボットの需要はこれまで、重量物のハンドリングや塗装、溶接、部品実装や組み立て工程など、自動車業界や電子機器に支えられてきた。そこで使われるロボットは大型や特殊用途、小型、高精度、高速タイプで作業効率化や品質の向上に貢献してきた。
一方で、日本やドイツなど先進国の一部は少子高齢化が進んでおり、労働力不足に悩まされている。その解決策として開発されたのが協働ロボットであり、人と並んで作業を手伝うパートナーとして15年頃から世界的に広がっている。これまでロボットを使っていなかった業界から注目を集め、特に食品・医薬品・化粧品の3品産業で導入検討が進む。一部ではすでに検証が済み、18年から実際の生産ラインで稼働を開始するところも出てきている。
導入との相乗効果 制御機器の需要拡大も
いつも変革の時代には新たな需要が生み出される。現場でのIT活用にともない、そこで使われる機器、機器に内蔵される部品もおのずと変わり、そこに需要が発生する。特に制御機器は、ITと現場の製造技術であるOT(オペレーションテクノロジー)をつなぐ大事な役割を担い、新規の需要、既存製品の置き換え需要ともに大きな期待が集まる。
設置箇所と点数の増加に加え、画像や音声、波形などのデータへの関心も高まるセンサ、制御用途に加え、集めたデータを現場で処理するエッジコンピュータなどとしても用途が広がるPLCや産業用コンピュータ、HMIといったITで需要増が確実なものはもちろん、それ以外にも波及効果は大きい。
例えばデータが最重要になるに従い、それを送受信するハードウエアのインフラも高度化が要求される。長期間にわたって確実に接続な接続を維持し、データ欠損や遅延を発生させないコネクタや端子台など接続機器、サージから電気機器を守る保護機器などの需要が見込まれる。工場内に設置される電子機器が増えることから、電力を効率的に機器に届けるための配電盤など、影響は盤業界にも広がる。また、データ収集の幅が広がるにしたがってセンサの設置場所も多様化し、センサとデータ処理・通信をする機器、それらを守り電力供給するための盤や筐体に対する需要も見込まれる。
総務省の情報通信白書によると、インターネットにつながるIoTデバイスに関して、20年には現状の2倍となる300億個に達し、産業用途に限ると16年の30億個から20年には70億個、21年には90億個を超えると見られている。IoTを含めたIT需要は、現場に導入して安定運用するための制御機器の需要も引き上げる。