ミスミ 「確実短納期」で製造現場に「時間」を生み出す
設計や調達業務の効率化をリードしてきたものづくりプラットフォーム
「meviy」が導くデジタル時代の次の一手
ミスミといえば、機械部品や製造現場で使うツールやMROなどのカタログ・WEB通販大手として知られ、多くのものづくり企業や設計・調達技術者が便利に使っている。しかしその一方で、同社がこれまでにさまざまな製造業の常識を覆し、変革を促してきたことは意外と知られていない。
さらに今、3DCADやAI、デジタル技術を駆使した新サービス「meviy(メヴィ-)」によって、設計や調達業務をもうワンランク上に引き上げ、さらなる時間の効率化を進めようとしている。
ミスミがこれまで製造業において果たしてきた功績と、彼らが目指す新たなものづくりについて紹介する。
確実短納期を通じて「時間」を提供
ミスミは1963年の創業以来、提供価値としているのが「時間」。部品メーカー兼販売代理店として注文品をいち早く届けることで、業務にかかる時間を節約し、その浮いた分を知的生産に使うことのできる世界を目指している。
特に同社がメインターゲットとしている製造設備や機械の設計、調達、製造、保守・メンテナンス部門といった、いわゆる生産領域の設計と調達部門は、常にQCD(品質・コスト・納期)が求められ、「納期を短くしたい」「早く製品が欲しい」「設計図面を描く工数を減らしたい」「調達の手間を減らしたい」「一品から製品を注文したい」といった要望、課題を抱えている。これに対して同社は、時間を重視する意味合いを込めてDをT(Time)に置き換えて「QCT」とし、圧倒的な品揃えと「確実短納期」で部品を届けるサービスで成長し、2018年度の売上高は約3300億円。
サービス利用社数はグローバルで約30万社にまで広がり、名実ともに「設計・調達を支援するインフラ」として製造業界を支えている。
カタログ品と図面品。生産設備の製造効率化を阻む根本的な問題
生産設備は何千点という部品で構成され、それらを組み立てることで完成する。このうちモーターやアクチュエータ、電源、センサなどカタログに掲載されて調達しやすい部品(カタログ品・標準品)はごく一部。装置の構造部材や治具、機械部品や金型用部品はそれぞれに設計が異なり、設計者が部品ごとに図面を描き、それを複数の部品加工メーカーに見積もりして発注しなければならなかった(図面品)。
ここに大きな業務負荷と時間がかかり、設計・調達部門は作業に追われる状況となっていた。
部品の標準化・カタログ化で第1の変革
ミスミはこれに対し、機械部品や金型部品を標準化し、価格と納期、型番を付けてカタログに掲載。設計や調達担当者が欲しい製品をカタログから探し、電話やFAX等で注文できるようにした。いまでこそカタログ通信販売は当たり前だが、1970年代後半の当時としては、それまでの常識を覆す大きなチャレンジだった。
図面を描く手間、選ぶ手間、見積もりを取る手間、発注の手間など、設計と調達の各工程を効率化し、さらに確実短納期を遵守することでユーザーに受け入れられ、製造業の部品調達における第一の革新をもたらした。
さらに部品をミクロン単位で発注できるようにすることで取り扱い製品数を一気に増加。いまではカタログから選べる製品バリエーションは800垓(1兆の800億倍)に達している。
WEB化・取扱いアイテム数増加で第2の変革
製品点数が増えるにしたがってカタログは大きくなり、逆に使いにくさが出てくる。そこで次にはじめたのがWEBカタログ「MISUMI-VONA」だ。
カタログのWEB化によって増加する掲載点数の管理・整理を可能とし、検索もしやすくなって使い勝手が大きく向上した。
加えて、ねじやボルト、継手、センサや配線接続機器、スイッチ等のFA・メカ部品、切削工具、レンチや測定器といったツール類、潤滑剤や台車、クリーナーなど、生産設備の設計や製造現場でよく使われる製品でありながら、同社が取り扱っていなかった分野の製品に関しても、同社が販売代理店となることで取り扱いを開始。現在は3000社以上・2940万点となっている。
取り扱い製品数を一気に拡大し、検索や注文をWEB上で完結できるようにしたことで利便性が向上。第2のイノベーションをもたらした。
残る課題は複雑形状などの図面品
カタログ品化を進める一方、複雑形状の部品は依然として図面品として残っていた。吉田氏によると「製造装置に必要な部品のうち、カタログ化でカバーできたのは50%、半分に過ぎない」とし、図面品の課題を解決するために開発されたのがmeviyだ。
meviyによる第3の変革図面から直接見積もり・発注
meviyは、設計者が3DCADで作った図面データを、WEBにアップロードするだけで、その場で瞬時に見積もり金額が出て、そのまま発注できる。通常、外部パートナーに見積もりを依頼して金額が出るまでにも数日から数週間かかっていた。さらに、それを相見積もりや異なる部品で何社も同じことをすると手間と時間がかかってしまっていたが、それを解決した。
またアップロードしたデータはWEB上で公差や穴種等の修正や作り込みができ、見積もり金額もその都度変わる。完成度としては70%の図面を作り、meviy上で最終の追い込みをして発注するという使い方もできる。100%の図面を作ってから何度も修正するよりも効率的になる。
2016年、金型用部品からはじまり、今ではFA部品(切削プレート、板金部品)、ラピッドプロトタイピングでサービスを提供中。3年間で3万ユーザーが利用し、200万点の図面がアップロードされるなど、順調に浸透してきている。
2019年のCEATECにおいては、CEATEC AWARD 2019のスマートX部門グランプリを受賞。CPS/IoTの進展、Society5.0(超スマート社会)を担うものづくりプラットフォームとして日本の製造業のDXの課題解決への貢献を高く評価された。
2020年にはアメリカでサービスを開始する予定で、さらなる成長が期待されている。
【インタビュー】
ものづくり産業に携わる人々すべてに創造と笑顔を
ミスミ 3D2M 企業体 代表執行役員企業体社長 吉田 光伸 氏
meviy事業を管轄する3D2M企業体代表執行役員企業体社長吉田光伸氏に、meviyの今とこれからについて話を聞いた。
設計・調達のプロが使って喜ぶツールへ
グローバルNo.1を目指す
調達領域のデジタルトランスフォーメーションを実現
—— meviy開始のきっかけは?
工場の自動機をつくる際、当社のカタログで買って揃えられる部品は全体の50%程度。残り半分は今も図面を描いて作っている。カタログで買える製品は標準では2日で出荷するが、図面品は図面を描くだけで数週間、外部パートナーからの見積もりで1週間、作って納品して1週間かかり、部品が手元に届くのは1カ月かそれ以降。結局どんなにカタログ品を充実させても、カタログ品と図面品のギャップがある以上、全体のリードタイムを短くするには限界がある。
当社はカタログ掲載のアイテム数を増やすことで多くのお客様に喜ばれ、それが成長ドライバになってきたが、標準化によるカタログ掲載が難しい領域が残ることは分かっていた。カタログの次のイノベーションとして、図面品の調達にかかる時間を減らそうということで始めたのがmeviyだ。
—— meviyの特徴とは?
これまでの部品調達は図面とカタログによるアナログなものだった。それをデジタル技術を使って変革し、調達領域のデジタルトランスフォーメーションを実現するもの、それがmeviyだ。設計のプロが欲しい製品をカタログのなかから”選んでいた”ところから、meviyでは発想を大きく転換し、”お客様が自由に描いた図面をそのまま発注できる”ことを目指した。
具体的には、お客様が3DデータをWEBにアップするだけで、AIが図面を解析し、その場ですぐに見積もり結果を表示する。問題なければそのまま発注でき、最短1日で出荷し、翌日には手元に届く。また同時に図面の加工性のチェックも行い、加工できない箇所があればアラートを表示する。アップロードした図面は画面上で修正し、ミクロン単位の公差を指定し、追い込んでいくこともできる。
そうして完成した図面には独自の型番が付与され、部品表の管理にも効果的だ。プロが業務で使うツールとして細部までこだわり、設計者のかゆいところに手が届くユーザーエクスペリエンスを提供している。
2016年に金型用部品からサービスを開始し、ラピッドプロトタイピング、FA用メカ部品へと広げ、これにより当初考えていた全ラインナップが揃った。約3年間で3万ユーザー、200万点の図面がアップロードされ、リピート率も8割を超えている。とても順調だ。
#時間戦略 製造業の進化のスピードアップに貢献
—— meviyを支えるシステム開発は大変そうだ
例えば板金部品のサービス開発は2016年にスタートし、リリースできたのは2019年初頭。2年もかかった。
meviyはWEBと3DCADデータ、部品加工と生産の知見がコアとなっていて、WEBの仕組みに詳しい人はたくさんいるが、その上で3DCADデータを扱える人となると一気に少なくなる。さらに生産まで分かっている人になると、そんな人材はほとんどいない。人材を集めていくのが一番大変だった。おかげでエンジニアは11カ国からなるグローバルなチームで、さまざまなテクノロジーをフル活用している。プロが使うツールだからこそ、「さすが分かっているね」という感覚にこだわっている。
—— meviyが目指すものとは?
製造業の外部環境は大きく変わっている。働き方改革によって、より早く、生産性高い業務が求められている。またグローバル化と開発競争の激化により、リードタイムが短くなり、業務のスピードアップ化が必須となっている。近年、中小企業に事業継承できない企業が増え、日本のものづくりの強みである匠が減り、技術が失われ、供給が不安定になっている。これは日本のものづくりの危機だ。meviyが安定+確実短納期での供給を補うことで、持続可能なものづくり産業を支えたい。
当社が創業以来、最も大事にしているのは「時間」。確実短納期で部品を提供することで、お客様に時間価値を提供している。それが当社が掲げる「#時間戦略」だ。
カタログと部品標準化によって、欲しい製品をカタログ番号から選べ、価格を掲載し、見積もりを不要にして第1のイノベーションを起こした。続くWEBのeカタログで800垓(1兆の800億倍)の製品を取り扱うことで第2の変革を導いた。meviyはイノベーションの第3弾として、設計データを使った図面品の調達効率化を実現する。
meviyのミッションは「ものづくりに創造と笑顔を」。設計者から「図面を描くという作業」を減らし、そこで節約できた分を、設計の追い込みや次の仕事への取り掛かり、家族や個人の時間に充てられるようにする。さらに、調達のスピードが上がれば製造業の進化も早くなる。そうした世界の実現を目指している。
meviyのサービス名称は、800垓の製品を取り扱うカタログを超えることを目指し、どんな図面品にも無限大に対応できる、無限大を表す∞とメビウスの輪から着想を得て、「meviy」とした。
海外展開、加工領域の拡大などやることはたくさん
—— プロトラブズとの協業について
カタログのお客様は製造業、特に組み立て系の企業が多い。しかしラピッドプロトタイピングや板金部品をはじめたところ、建設業や化粧品などこれまでにない業界から多くの引き合いが入るようになり、客層が広がっている。
ラピッドプロトタイピングの部分は、アメリカのプロトラブズ社と協業し、彼らの製造機能を活用している。彼らは当社と同じオンデマンド部品加工サービスだが、彼らは製品企画や製品設計、試作をメインターゲットとし、当社はその後ろの工程、生産技術や製造、保守メンテナンスを主要領域としている。対象領域がバッティングせず、「時間」に対する考え方も共有できたことから、補完しあえるパートナーとして17年から手を組んでいる。
これによりmeviyでも製品設計から試作、生産設備の設計、製造、保守メンテナンスとそれぞれの調達の全領域をカバーできるようになり、今後に期待できる。
—— 今後について
金型用部品、ラピッドプロトタイピング、FA部品、板金とラインナップは一通り揃った。とは言え、まだゴールからすれば2合目。3Dプリンティングなどの新技術もあり、加工領域ももっと広げていきたい。また現在は国内だけだが、20年からは海外展開も開始する。やることはまだたくさんある。
また今はmeviyの製品は自社工場を中心に製造しているが、標準部品同様に自社生産だけに拘らず、パートナー企業と連携して拡大を加速させていく予定だ。
当社は創業以来、ものづくり産業のインフラの役割を果たすべく尽力してきた。しかし、一般的にものづくり産業はデジタルで急成長している産業に比べて進化のスピードは遅いといわれている。日本のGDPの2割を支える一大産業であるものづくり産業をもっと盛り上げていきたい。