どうなっていく? AI・ロボットによる自動化と製造業の未来
製造業を「インターネット」と「AI(人工知能)」という新たなテクノロジーによって自動化する動きが、欧米を中心に勢いを増しています。
調査会社の矢野経済研究所では昨年11月、機械学習やディープラーニング、自然言語処理、画像認識などのAI技術や、それらの技術を活用したソリューションを対象とするAI活用の中・長期的な市場予測を発表しました。
同調査によると、製造業においては、ドイツの「インダストリー4.0」構想に含まれているスマートファクトリー(産業ロボットの活用などによる工場の自動化)の実現に向けて、AIが活用される見通しです。
産業ロボットの活用による製造、発注や在庫管理の自動化、マスカスタマイゼーション(個別品の大量生産)などが実現し、長期的には産業構造が変化していくとの分析をしています。
日本の製造業は「ものづくり」という言葉に代表されるように、長年職人的な技術と品質に重きをおいて、事業展開を行ってきました。
人間の仕事がロボットに置き換えられるならば、日本の製造業にはどうような影響を及ぼすのでしょうか。
2045年にAIが人間の知能を超える!?
シンギュラリティという単語をご存知でしょうか。
多くの方が耳慣れないかもしれません。
これは「技術的特異点」という意味で、コンピューターの進化が人類の知能レベルを超えることで、歴史上の人類の進化に基づいた社会の変革モデルが予測できなくなる社会のことをいいます。
つまり、シンギュラリティを迎えると、人間の頭脳を超えた優秀なAIがさらに優秀なAIを発明し、そのAIがさらに別のAIを発明し……というように、人間が担ってきた役割をロボットが果たしていく社会のことです。
まるでSF映画のようでにわかには信じがたいかもしれませんが、ITや医療技術が現在のスピードで進化し続けるとするならば、今からたった30年後の2045年には、人類の知能を超えるAI(人工知能)を備えたロボットが開発され、シンギュラリティを迎えるといわれているのです。
IT界の巨人、GoogleもAI研究に余念なし
シンギュラリティに関する議論をリードしているのは、世界的なITのメッカであるアメリカのシリコンバレーです。
IT界の巨人、Googleはとくにこの分野に強い関心を寄せているとみられ、シンギュラリティの提唱者でもあるレイ・カーツワイルを獲得し、AI研究を進めているといわれます。
これまで、シンギュラリティは一部のギークたちの空想の産物だと見る向きも多かったのですが、Googleが本腰を入れ始めたことで、にわかに注目を集めるようになりました。
Googleは昨年11月、自社で開発した人工知能・機械学習ソフトウェア「TensorFlow」をオープンソース化して話題を呼びました。
この技術は、Googleフォトの被写体認識や顔認識、ウェブ検索結果の最適化、Gmailのメール分別、新生メールソフトInboxの自動返信文作成、さらにYouTubeや広告事業など、Googleが展開する一連のウェブサービスの根幹をなすものです。
自社のキーテクノロジーを惜しげもなく無料で公開してしまって大丈夫か、という声もありますが、Googleとしては、他社に先んじて技術を公開することで、機械学習や人工知能の研究を進め、自社の規格を業界の基準として普及させるという狙いがあるようです。
スマホが普及し始めたころに、自社で開発したOS「アンドロイド」をオープンソース化し、あっという間に市場を席捲してしまったのと同じやり方です。
また、Googleが自動運転カーの開発に注力しているのも広く知られているところです。
製造業でAIによる自動化を進める動きは活発化
シンギュラリティの実現にはまだ時間がかかると見られますが、製造現場でAIによる自動化を進める動きは活発化しています。
例えば、革新的な電気自動車の開発で知られるアメリカのテスラ・モーターズ。
カリフォルニア州の同社工場では、労働者の代わりに160体以上のロボットをラインに配置し、作業の合理化が進められています。
一方、キヤノンは子会社の大分キヤノンの敷地内に、ロボットなどを駆使した完全自動化工場の建設・運営に必要な技術を研究開発する「総合技術棟」を開設し、2016年中に稼働する見通しです。
同技術は国内4工場のラインに採用し、順次完全自動化していく計画です。
欧米でも、労働者をロボットに置き換える自動化の動きは加速しているものの、一部の工程には人の手が必要で、まだ完全自動化を達成した工場がないため、注目されています。
AIを駆使した生産技術が競争力の源泉に
これまでは、製造業がIT技術を利用して合理化を進めていました。
生産技術は製品を生み出すためのツールにすぎませんでした。
しかし今では、技術の革新が進み、製造業の技術はコモディティー化が進むと同時に、ITが製造業の技術を利用して、新たな産業や製品サービスを生んでいます。
これまでとは逆転の状況が生まれているのです。
今後は、AIを駆使した生産技術が付加価値を生み、競争力の源泉となるようになるのかもしれません。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング