【中小製造業IoTの1丁目1番地】『情報の5S化』
UKブレグジットや米大統領選挙など大番狂わせの結果から、世界的にグローバル経済の行き詰まりが顕在化してきた。
グローバル大企業は進路変更を余儀なくされ、中小製造業にも大きな変化が起きてくるであろう。そのため変化への対応が早急に必要である。
この手段として、第4次産業革命イノベーションの重要性を多くの経営者が認識しており、世間での話題も非常に活発になってきたが、思いの外、中小製造業経営者には「雲の上の話」として映っているようである。
「雲の上の話」と映る原因はなにか? を探求し、デジタル化・IoTの1丁目1番地というべき「情報の5S化」の重要性にスポットライトを当ててみたい。
数年前に、独インダストリー4.0によって幕が開いた「ものづくり第4次産業革命」は、今年になって日本でも本格化の兆しがみえてきた。
今年10月に独ハノーバーで「国際板金加工技術見本市(ユーロブレッヒ)が開催され、翌月11月には「FABTEC 2106」が米ラスベガスで開催。日本でも東京で「日本国際工作機械見本市(JIMTOF)が開催された。
今年の見本市での顕著なトレンドは、明らかに「工作機械 メーカの IoT」である。
独ハノーバーでのユーロブレッヒでは、多くの工作機械メーカによって、独自のIoTコンセプトが発表され、魅力的なコンセプトが提案された。
ドイツの主力メーカは、大画面を活用し、分かり易くインパクトある訴求で話題を集めたが、中小製造業の経営者の反応は比較的鈍重である。
ユーロブレッヒから帰った日本の中小製造業経営者は、口をそろえ、インダストリー4.0の進化を評価する反面、「自分では使えないだろう」とのマイナーな評価を下している。
ドイツは、インダストリー4.0のスタート時点から産学官が一枚岩となり大上段に構え、アピールをしてきた。そのアピールは、世界に大きな衝撃を与え、世界中の政財界をも動かしてきた。
構想発表から5年を経過し、日本の政界の動きも活発となってきた。
今年の「ものづくり補助金」には「中⼩企業者等が第四次産業⾰命に向けて、IoT・ビッグデータ・AI・ロボットを活⽤する⾰新的ものづくり・商業・サービス開発を⽀援する」と明記されており、これが採択の条件となっていることが伺える。
中小製造業に於いても、これらの前向きな環境を先取りし、現実的な取り組みを開始する事が得策であるが、残念なことに、IoTとは何か? IoTの投資で何がメリットなのか? がわからず、悩んでいる経営者が大半である。
世間が大きく取り上げるIoTは、中小製造業経営者にとっては「雲の上の話」である。
その理由のひとつに、レガシー(Legacy)に対する意識の違いがある。レガシーとは、直訳すれば「遺産」のことであるが、現在工場内に存在する電子デバイスや各種データをレガシーと呼ぶ。
中小製造業では、NC機の導入にあわせ、思った以上に工場事務所のデジタル化が進んでいる。
CADシステムや自動プロ、見積ソフトや工程管理・生産管理に始まり、図面スキャナーなど、数多くの電子武装を行った結果、膨大な電子データが工場事務所内に存在している。
これが中小製造業を支える財産であり、こうしたレガシーを無視してIoTの構築は不可能である。
工作機械メーカ各社が提唱する「つながる工場」で、機械同士がネットワークされても、中小製造業でのメリットは少なく、やはり「雲の上の話」に聞こえてしまう。
ドイツはじめとするインダストリー4.0推進部隊は、様々な素晴らしい青写真を示しているが、中小製造業のレガシーに着目していない。
正確に表現すれば、着目しないのではなく、着目できないのである。
レガシーは歴史の結晶であり、過去の古いシステムや閉鎖的な独自システムも存在し、レガシーシステムを解析し理解するのは難しい。
中小製造業の一社一社ごとのレガシーを前提として、IoTシステムを構築するのは容易ではないため、第4次産業革命と称し、レガシーを無視する「破壊的イノベーション」の発想が主流となる。
この現実が結果として、中小製造業の現状や思惑を無視した、絵空事となり「雲の上の話」になってしまう。
では中小製造業は、どのようなコンセプトを持ってIoTを推進すべきか。
この答えが、IoTの1丁目1番地と言える「情報の5S化」である。
トヨタ自動車によって提唱され、全世界に広まった5Sは、日本の中小製造業では、非常に高い水準で実施されているが、一旦「情報」に目を転ずると、とても5S化されているとは言いがたい。
事務所の片隅に昔の図面が山のように積まれ、提出済みの見積書は個人のパソコンに入りっぱなし。
CADデータも自動プロのデータも、個人のパソコンの中でバラバラに管理されており、企業全体から見れば「情報のゴミ箱」と言っても過言ではない状況すら存在する。
情報が社有化され、会社のシステムとして情報が管理されない限り、会社存続にも重要な危惧が生じる。
中小製造業のIoTへの道のりは、経営者自らが「情報の5S化」の重要性を認識し、自社の実態を正確に把握しなければならない。IoTの1丁目1番地「情報の5S化」。
「情報の5S化」を念頭に置き、自社の工場事務所を自らが再点検することで、思わぬ「気づき」に出会うはずである。
この「気づき」から自社のIoTの青写真が描けるはずである。
この青写真があれば、世間のバズワードに惑わされず、未来見向かう最適なソリューションを発見することが出来ると確信する。