製造現場のIoT活用-実態は? 「カイゼン」で生産性向上狙う

製造現場のIoT活用-実態は? 「カイゼン」で生産性向上狙う

中堅・中小 自動化に課題

「導入しない」という選択肢はないほどに不可欠なものと認識されるようになったIoT。すでに取り組んでいる、検討している企業が右肩上がりで増える一方、いまだ手を付けられていない企業が多いのも事実。

彼らが躊躇(ちゅうちょ)する理由について、費用対効果はもちろんのこと、目的や課題が明確になっていないという背景も影響している。実際にIoTを展開している企業は、どの業務のどんな課題解決を期待して進めているのだろうか?

IoT活用の舞台はやはり現場

ITコーディネータ協会は、日本版インダストリー4.0であるコネクテッド・インダストリーズの推進団体であるロボット革命イニシアティブ(RRI)に集まった200件超のIoTツールを分析した調査報告書を公開した。

報告書では、中堅・中小製造業事業者とサービス提供者が、企業のどこを対象として、何のために、どんな課題に対しての解決策なのかを明らかにしている。

これによると、IoT活用の対象領域は、工場や製造現場における「現場カイゼン」が85%を占め、圧倒的に現場改善にスポットを当てたものが多くなっている。生産管理や工程管理、SCMなどITシステムの活用などの「業務プロセス改善」が26%、技能の形式知化やCADなどのデジタルツールの活用を対象とした「製造プロセス最適化」が40%となった。

改善ポイントは人の作業と設備の稼働率

目的について、現場カイゼンにおける生産性向上/コスト削減が35%でトップ。現場カイゼンにおける品質向上・安定化/不良率削減が15%、製造プロセス最適化における品質向上・安定化/不良率削減が12%と続いた。この結果、生産性向上とコスト削減、品質管理の課題に対してIoT活用で解決しようという向きがうかがえる。

どんな業務に向けて行っているかについて、「人の作業を効率化・負荷軽減」が最も多い87件、「設備・人の稼働率向上」がほぼ同数の85件。3位が「ダウンタイム削減」(59件)、「作業員のポカよけ」(35件)、「トレーサビリティ」(25件)と続く。中堅・中小企業では工程・作業の自動化は一部にとどまり、人手による作業が多く残り、IoTの活用によってそれらの改善を最優先していることが分かる。また設備や人の稼働状況がデータ化されておらず、そこから現場の課題を探り出して次につなげようという企業も多い様子だ。

またツールを機能別に分けて分析したところ、IoT活用の基本となるデータを上げる(137件)、貯める(119件)は充実し、分析する(86件)、活用する(97件)といった活用フェーズは少なめ。IoTの黎明期としてデータを集めて蓄積する段階が多めとなっている。

稼働率、品質、技能継承の成功事例

経済産業省が毎年発行している「ものづくり白書」の2018年度版では、実際にIoTやビッグデータを活用して成功した事例を紹介している。事例で紹介されているケースを見ると、IoT導入の主目的は「稼働率向上」「品質改善」「技能継承」の3パターンがある。

板金・プレス業者のワールド山内(北海道北広島市)は自社で生産管理システムを開発し、装置の不具合や作業進捗を社員全員が共有できる仕組みによって稼働率を改善。自動車部品メーカーの日進工業(愛知県碧南市)は、チョコ停の検知と通知、原因の蓄積ができるシステムを構築し、迅速な復旧と改善を通じた生産性向上の情報源として利用している。

飯山精器(長野県中野市)も独自開発の生産管理システムによる進捗管理と装置の稼働可視化ツールによって稼働率を見える化し効果を上げている。

品質改善については、製麺メーカーの川田製麺(高松市)では熟練検査員の人手不足を解決と品質確保のため、検査工程にIoTとAIを導入して自動化を実現。不良品の流出を防ぐほか、手書きの記録簿記入の自動化による工数削減にも役立っている。

 

ダイキン工業、オリンパス、富士通など大手メーカーでは技能継承にIoTを活用している。ダイキンは日立製作所と共同で熟練技術者と訓練者の技能を定量的にデジタル化する技術を開発。空調製造のろう付けプロセスをデジタル化した。

オリンパスは内視鏡や顕微鏡の生産技術をデジタル化。高度技能者の持つ技能を数値化して機械化、自動化を推進している。

富士通は熟練技能者の設計データに含まれる知識やルールを整理し、再利用する際の最適解の抽出にAIを活用。プリント基板の設計製造期間を20%短縮できたという。

 

ものづくり白書に掲載されているケースは先進的な事例がほとんど。ここに掲載され、進んでいるといわれている中堅・中小企業や下請け企業でも、現段階のIoTは工場の見える化が中心で、生産管理と製造現場をつなぐところに取り組んでいる状況。

一方、中小企業に比べて自動化や見える化が進んでいる大企業がフォーカスしているのは技能継承。熟練技能者の知見のデータ化や、作業の自動化・ロボット化に取り組み、長期的な視点で課題解決に臨んでいる。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。