工場の生産形態に応じた付加価値拡大の考え方

工場の生産形態に応じた付加価値拡大の考え方

自社工場の生産形態上の特徴を把握していますか?

自社工場の生産形態に応じて、付加価値を拡大する作戦を立てていますか?

 

売上高のみ気にしていたから、イマイチ付加価値を把握できないなぁ。

付加価値を増やすために売上を増やせばイイのだろうけど……。

工場の生産形態に応じた付加価値拡大の考え方があるのだろうか?

 

付加価値を把握し、利益を積み上げる感覚で工場運営や工場経営を進めます。見込生産と受注生産では付加価値拡大のキモとなるトコロが異なります。

1.付加価値を意識した工場経営

低成長時代の工場運営や工場経営で持つべき視点(判断基準)は付加価値です。

モノづくり工場が存続・成長するためには「人」に活躍してもらわなければなりません。したがって、利益と未来投資の原資を確保するため現金を稼ぎ続ける必要があります。付加価値を意識することで、目標から逆算する感覚で工場経営ができます。

不確実性が高い経営環境の下でリスクを低減するためには、欠かせない考え方です。

 

1990年代の前半までは利益は売上高についてきたという感じでした。しかし、特に2000年以降状況は確実に変わりました。

現場管理者の収益管理業務を通じて、そう感じました。現行の自社製品(サービス)で利益を確保するのが困難な状況にたびたび直面しました。

そうした場面では、目標とする利益を出すためにはどうする? という視点で、工場運営を考えざるを得ませんでした。

 

こうした傾向は今後ますます強まります。

ある程度の受注が確保され、その結果利益が出るという時代は終わりです。利益は意識して積み上げていくものです。

そこで、付加価値を意識した工場運営や工場経営を展開します。

2.変化は企業を成長させる機会

下記のグラフで、付加価値の現状を見ました。

どのグラフも1990年前半に起こった平成バブル崩壊を境に数値が減ったり、伸び率が明らかに減少したりしています。

 

ここで、もう一つのグラフを確認します。製造業全体の付加価値の推移です。

従業員一人あたりの付加価値(労働生産性)が伸び悩んでいることは確認しましたが、そもそも製造業全体の付加価値はどうなっているのか気になります。

 

下記のグラフは国内製造業の付加価値額と労働分配率の推移です。(出典:財務省法人統計年報 なお、労働分配率はデータをもとに算出)

スクリーンショット 2016-11-24 23.15.51

労働分配率(%)も併記しました。労働分配率(%)とは次の式で定義されます。

労働分配率(%)=人件費 ÷ 付加価値額
※人件費は役員と従業員の給与と賞与、福利厚生費の総額。

 

大企業や中小企業も含めた、業種にかかわらない製造業全体の数値です。

製造業全体の付加価値自体も同様の傾向にあります。製造業全体の付加価値のピークは1991年。その後はどちらかというと減少傾向のように見えます。

 

また、その間労働分配率は70~80%の間で推移していることがわかります。

この労働分配率は、付加価値のうち人財を確保するためのお金をどれだけ廻すかという経営者の想いそのものを表しています(大企業も含めた結果なので、数値は参考までに)。

 

付加価値額が低下した時に分配率が上昇する時期があったり、従業員の給与は少なくとも確保しようとしたりと経営者の方々の苦労が垣間見えます。

付加価値の視点で見ると、どうやら1990年前半以降明らかに国内の産業構造、市場構造は「変化」しています。

 

そもそも企業は「変化適応業」「変化創造業」です。

変化に対応してナンボノモノです。工場運営を「売上」ではなく、「付加価値」で考えることに変える。

「変化」は企業を成長させるチャンスです。

3.付加価値拡大の切り口(CSV)

付加価値を拡大するための切り口として、「自社の強みを活かして地域の問題を解決できないだろうか」という視点があります。

CSV「Creating Shared Value」です(地域問題の解決を高付加価値化の切り口にする)。

地域に根差した中小企業のモノづくり工場ならではの強みを発揮することが可能です。

 

大企業での事例では、日本国内においてはキリン株式会社の取り組みが有名です。

キリンビール・キリンビバレッジ・メルシャンの3社が一体で活動しています。

 

具体的には、飲酒運転で交通事故が発生するという社会問題に対して世界で初めてノンアルコールビールを開発しました。

また、物流の環境負担を減らすのに輸送を集約するなどして、CO2排出削減とコスト削減の両立を可能にしています。

キリンのHPでは「CSV活動」という項目が取り上げられています。

 

企業活動を通じて社会問題を解決しつつ、販路の拡大、コスト削減など経営課題の解決も同時に図ります。

社会価値と企業価値を両立させるのがCSVです。付加価値拡大の切り口として、こうした考え方も参考になります。

4.生産形態に合った付加価値拡大の方法を意識する

モノづくり工場の生産形態に応じた付加価値拡大の考え方をまとめます。

これがモノづくり工場での王道です。自社工場の生産形態がどの形態であるのか当てはめてみてください。

工場の生産形態を分類する場合、いろいろな考え方があります。ここでは受注が設計や生産に対してどのタイミングで為されるかに注目します。

 

大きく3つに分類されます。これは、東京大学 藤本隆宏先生の「生産マネジメント入門Ⅰ」で説明されています。

生産形態は、受注と設計、生産のタイミングの関係から下の表のように分類されます。

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それぞれの生産形態で付加価値を拡大させるためのキモを考えます。

見込み生産

自社ブランド(製品)を持って事業を展開しているケースが多く、価格や仕様や生産計画の決定権は基本的に自らが持っています。

需要予測の精度を上げ、機会損失や欠品を防止することが大切です。

この生産形態では製品企画がキモです。潜在的なニーズを掘り起こせれば、大きな付加価値が生まれます。

 

アップルの一連の商品がそうです。「なるほど、これは便利なモノだ」と消費者に言わせれば勝ち。

自社製品が関わっている市場の潜在的なニーズは何でしょう? 「モノ」ではなく、消費者へ届ける「コト」に注目します。

メーカーであるならば、この生産形態の事業はやってみたいと思うはず。

この生産形態でのキーワードは「潜在的ニーズ」です。

規格品受注生産

自動車産業で言えばティア1(一次下請け)の部品メーカー、さらにそのティア1へ部品を供給するティア2(二次下請け)の部品メーカー。さらにティア3……。

国内中小企業のモノづくり工場の大部分はティア2以降のメーカーです。自動車産業に関わらず、こうした系列構造が機能している時代は、親会社の意向に沿って設計し、製造して納品していれば間違いはありませんでした。

 

しかし、昨今系列構造が崩れ、親会社との関係も希薄化しています。

その結果、自律性が求められます。生産コストを極限まで低減し、価格競争に負けない地力をつけることが最低限必要です。

価格の決定権は顧客にあり、競合も多数存在するケースが多いからです。

 

仕様や生産計画の決定も基本的には自社にありません。

なお、工場運営では納期管理が重要です。ティア2、あるいはそれ以降の立場なら事業展開でティア1に負けないだけの技術提案力を身に付け、問題解決型提案ビジネスを強みとすることを目指します。

それには、最終製品をしっかりと勉強することが求められます。

 

また、供給先の担当者と強い信頼関係を築くことです。

供給先の担当者次第で競合へ受注が流れることが起こり得るからです。供給先の担当者と良好な人間関係を築くことは意外と重要なことです。

この生産形態でのキーワードは「問題解決型提案ビジネス」「人間関係」です。

特注生産

受注があってから製品仕様が決まるので、そこから設計、生産と進むケースです。

取り扱う製品の性質で、ここからさらに3つに分けられます。

《顧客が企業である場合:システム化されている製品を受注》
システム化されている製品を受注船舶やプラント、設備装置が製品となるケース。

製品が「システム」として提供される場合が多い。こうした生産形態で差別化するには、「システム」の中で強みとなる要素技術が存在していること、短納期や高い顧客満足度を得るアフターサービスを実現すること等が必要です。

この製品でのキーワードは「自社製品(サービス)の強み分析とそのさらなる強化」です。

《顧客が企業である場合:特定の工程、試作品や小部品を受注》
特定の工程、試作品や小部品を受注加工のみ、塗装のみという製品工程の一部を生産する場合、あるいは試作品や小さな部品を生産する場合です。

地域に多く見られるメーカーを支える小回りの利いたモノづくり工場群です。「突発対応」や「短納期」が受注条件になるケースが多いです。

私もこうした地域に根差したモノづくり工場に何度助けられたことか……。休日突発対応なども厭わずやってくれました(今、思い出しても、改めて感謝です)。

 

こうした生産形態での付加価値は、主に「短納期」となります。

ただ、こうした工場は「短納期」という技術を磨く一方で他の生産形態への移行も視野に入れて、新たなことへ挑戦することを考えたいです。

こうした生産形態の工場こそ、顧客に届ける「コト」に注目すべきです。

 

「短納期」のみではない、潜在的なニーズがあるかもしれません。試作品の目的を探ってみてもイイでしょう。

部品形状の背景を確認してみるのもイイでしょう。塗装の耐食性について、どうなっているのか聞いてみるのもイイでしょう。

顧客と製品について話をすることで見えてくるモノがあります。多くの経営者の方はすでにやられているとは思いますが……。

 

この製品でのキーワードは「短納期と新たなことへの挑戦」です。

《顧客が個人である場合:オーダーメードの家具や自動車等が製品となる場合》
こだわりを付加価値へ転嫁できます。顧客もそこに納得してお金を払ってくれます。自社の「こだわり」を徹底的に磨き上げることです。

身勝手な「こだわり」ではなく、共感してもらえる「こだわり」を実現する技術力を磨き上げます。モノづくりにこだわるこの形態の生産はやってみたいです。

この製品でのキーワードは「こだわり」で決まりです。

 

3つの生産形態で付加価値を拡大するためのキーワードをまとめました。

  • 自社工場の生産形態を意識すること。
  • その生産形態に合った、付加価値を拡大させる方法を意識すること。

自社工場が目指すべき姿を考える上で、この2つの視点は重要です。他の生産形態と比較することで、見えてくるモノがあるからです。

まとめ

工場の生産形態に応じた付加価値拡大の考え方があるのだろうか?

付加価値を把握し、利益を積み上げる感覚で工場運営を進めます。

見込生産と受注生産では付加価値拡大のキモとなるトコロが異なります。自社工場の生産形態を他の生産形態と比べて違いを知って、付加価値拡大の方法を考える。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)