【地方ICTの取組】北九州e-PORT2.0 地域経済に貢献、新ビジネ...

【地方ICTの取組】北九州e-PORT2.0 地域経済に貢献、新ビジネスの萌芽も

e-PORT2.0は着実に結果を出しつつある。新ビジネスの創出という面では、事業者からの相談やビジネスマッチング件数も増えている。2017年度の相談件数は26件だったものが、2018年度は52件と倍増。なかでも新規事業の相談、ビジネスマッチングの支援実績が昨年から急増し、リピート相談する依頼も出てきている。セミナーや交流会といったイベント開催や展示会への共同出展の実施や、4件の補助金申請を採択するなど規模を拡大している。

またe-PORTで支援を手がけてきた事業者による新サービスも芽吹きつつある。具体的には、(株)ハピクロによるIoTを活用した北九州市認可保育園の開設や、いずれもe-PORTパートナーである(株)ソルネットと(株)IIJのマッチングによるLoRaWANを活用したソリューション開発、(株)ハチたまが開発した猫IoTトイレ「toletta」が経産省所管のIoT推進ラボによる「第6回IoT Lab Selection」のファイナリスト選出を果たし、(同)Next Technologyによるプログラミング教室がエフコープとの連携により実現するなど、研究開発や実証実験だけではなく、具体的なサービスとして展開し始めている。


<北九州市に開設したIoTを活用した認可保育園>

 地域産業の高度化という面では、e-PORT2.0の支援によって製造業企業の生産性向上支援を実施。現場のヒアリングを通じ、(株)日本鉄塔工業における製造工程のリアルタイム監視システムの開発など、リーディングプロジェクトがスタートしている。


<IoTを活用した生産性向上支援リーディングプロジェクトの創出>

 情報産業の振興面でも、e-PORT1.0からの活動を通じてデータセンター、情報倉庫、コールセンターなどが整備され、北九州市は西日本最大級のデータセンター地区まで成長。データセンターは市内に3社4カ所9棟、情報倉庫は1社、コールセンターは17社があり、18年度には関連産業の売上高が100億円を突破。地域経済に大きく貢献している。


<e-PORT2.0による産業集積>

 人材育成のための教育や研修にも力を注ぎ、2019年4月から社会人を対象とした実践的な教育プログラムである「enPiT-evri」(https://enpit-everi.jp/)を開講する。北九州市立大学が中心となり、九州工業大学や熊本大学、宮崎大学、広島市立大学と提携し、スマートファクトリーやインテリジェントカー、スマートライフケア、スマート農林畜産、おもてなしIoTといった教育コースを提供する。また人材発掘と育成のためのアイデアソン・ハッカソンを情報通信研究機構(NICT)と九州工業大学と開催する取り組みも行っている。


<enPiT-evri教育コース>

2019年 さらに進化する北九州e-PORT2.0

2019年3月13日、e-PORTパートナーなど130名を集めた「北九州e-PORTパートナー総会・交流会」が行われた。

同会内では、PayPay(株)戦略推進本部長の児玉葵氏から日本におけるキャッシュレスの現状や、同社が進める戦略について事例を交えつつ講演が行われた。
今後の北九州e-PORTの活用について考えるパネルディスカッションも開催され、はじめにe-PORTを活用して成功した2社がその要因を解説。(株)ソルネット イノベーション事業部第一イノベーション推進部長の西野幸氏は「実証実験の現場である事業者の要望と、早期の商材化を進めたい当社にギャップが大きくなり、その調整にe-PORTパートナー事務局が入ってくれたおかげで無事解決でき、ありがたかった」とし、(株)システムトランジスタの高橋周矢代表取締役は「イベントを行う際のテーマ提出企業の紹介から場所の確保、行政との調整、当日のイベント運営に至るまで、とても助けられた。参加者集めに関しても、学校に先生を紹介してくれてとても役立った。今後も一緒にやっていきたい」と話した。
 今後にe-PORTに期待することについて、日鉄ソリューションズ(株)営業本部 宗森敏也九州営業グループリーダーは「いまデジタルトランスフォーメーションに向けたハードルが低くなる一方、サービスを支える“守りのIT”の充実は不可欠。北九州はデータセンター、クラウドインフラ、人材もいて、守りのITが充実している。こんな自治体は他にはない」とし、YK STORES(株)の吉田一直代表取締役は「これからのe-PORTの活用はビジネスモデルとして成立するかが大事。サービスを創出し、企業が潤うことを考えなければならない。e-PORTがあるからこそ事業継続できた、という形になれば」と話した。
 最後にパネルディスカッションのモデレータを務めた、中央大学理事の大橋正和氏が議論を総括。「e-PORTは1.0から2.0と進んで成果が出始めている。今後も3.0のステップに向かって進んでいく。これまでの常識を超え、e-PORTで人と人のネットワーク、企業との共創によって新しいものを生み出していくことが大事だ」と展望を述べた。

総会の中では、活動のさらなる加速に向けた北九州e-PORT2.0の体制変更が承認された。
2019年からはe-PORTパートナーが主体となってプロジェクトを推進する体制に変更。これまで事業者からの相談など受け身だった体制から、e-PORTパートナーが自ら企画参加する攻めの姿勢とする。これにより多様性が深まり、実効性の向上が期待されている。
具体的には、e-PORTを活用して事業を実施しようとする、または積極的に参画する意志のあるe-PORTパートナー企業を中心に企画委員会を立ち上げる。企画委員会では、e-PORTを活用して具体的なビジネスにつながる企画を立案し、分科会等を通じて実現に向けた活動を進め、実ビジネスへの展開を探っていくこととなった。


<e-PORT2.0体制の変更>

さらに、対外的な活動も活発化。(株)アペルザのWEBプラットフォームを利用したe-PORTの活動や各e-PORTパートナーと製品・サービスのPRを行うほか、外部展示会への共同出展などを行い、活動の普及や案件の発掘、引き合いの獲得を目指す。これらを通じて、北九州で事業展開をしようとする企業・団体に対してe-PORTパートナー加入を促していく。

e-PORT2.0特集ページはこちら


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。