IoTで工場内をつなげる前にやらねばならないこと

IoTで工場内をつなげる前にやらねばならないこと

貴社の現場ではIoTの導入を考えていますか?

1.GE社版のIoT「Industrial Internet」

GE(General Electric社)にはメーカーとしてハードウェアを製造してきた豊富な経験がある。

このノウハウを先端的なソフトウェア技術と組み合わせることで、生産性を大幅に高めることができる。

(出典:『日経ものづくり』2016年5月号)

GE社の会長兼最高経営責任者(CEO)であるJeff Immelt氏は強調しています。

多数のセンサーやIoT(もののインターネット)デバイスを取り付けたさまざまな設備・機器からデータを集めて分析します。

分析結果から、設備・機器の故障を予知し部品の交換時期を判断して、稼働率を高めるGE社版のIoTが「Industrial Internet」です。

 

「Industrial Internet」でのデータの流れは次の通りです。

①計測機器を搭載した産業機器の稼働

②機器のデータの収集と保存

③インダストリアル・データシステム

④機器ベースのアルゴリズムとデータ分析

⑤ビックデータ分析

⑥遠隔データ/中央集中データの可視化

⑦適切な人・機器とのデータ共有

⑧機器への情報還流

①へ戻る

 

個別の設備・機器だけでなく、工場の生産システム全体の運用効率の改善効果も期待されます。

すでに複数の日本の大手メーカーが「Industrial Internet」の導入に動いているようです。

(出典:日経ものづくり2016年5月)

2.Industrial Internet導入後の効果をイメージできるか

貴社の現場へ「Industrial Internet」を導入した時、メリットや効果をイメージできるでしょうか?

こうしたことを考えると、「Industrial Internet」のようなIoTの技術を成功させるには、前提条件があることに気が付きます。

 

現場の固有技術や現場作業が標準化されていること。

作業標準票に文書化されていること。

その結果、既存技術への理解度が高いこと。

 

そうした現場なら、IoTを生かす工夫が浮かんできます。

現場が、ブラックボックスになっていると、そもそも、IoTの必要性も感じません。

IoTはあくまで道具です。

特別な魔法ではありません。

IoTを活用する側が、当然に、既存技術のキモを熟知してないと、宝の持ち腐れになります。

 

特に上記に示したデータの流れ②が重要です。

収集すべきデータの種類、収集頻度(間隔)、データ解釈等は技術の本質を知らないと誤ります。

こうしたIoTを国内大手メーカーが検討しているわけです。

生産性向上は、大手企業ならもうやり尽くしているだろうと考えがちかもしれません。

しかし、大手は、手綱を緩めません。

ここに至っても、生産ライン効率向上のネタは現場に存在している、と大手は考えているのです。

 

我々、中小現場も貪欲に取り組みます。

実際に、IoTを日本メーカーへ導入するにあたって、現場では、その必要性をあまり感じていない場合も多いようです。

ただし、システムを導入する側のGEの立場から見ると、さまざまな問題が認識されています。

工場に実際に足を踏み込んでみると、

工場関係者が自信を持っていた設備・機器の

データを取得していても

リアルタイムではなかったり、

データ解析ツールがなかったりする。

それぞれの工程でデータを取得していても、

全体や複数の工程間でデータの共有が

なされていないことも珍しくない。

(出典:日経ものづくり2016年5月)

自分たちの仕事ぶりは、外部から観てもらわない限り客観的な評価はできません。

過去の成功体験フィルターがあるためです。

国内モノづくりの現場でも同様です。

 

多くの現場では、

各種のデジタルデータやアナログデータを取得しているものの、それらを生かしている水準に至ってはいないと考えられます。

国内モノづくり現場には、改善の余地があるということです。

貴社の現場はどうですか?

 

国内製造業では世界でもトップレベルの改善活動や品質管理が展開されてきました。

こうした現場活動を可能にする現場力が強みでした。

そして、現場の活動は、ベテラン作業者のKKDに支えられてきたのが現状です。

 

したがって、今後、ベテランが退職していくにしたがって、強みの源泉が失われ、現場活動の基盤が揺らぎます。

モノづくり力の低下、品質低下など、懸念されることが多いです。

ですから、我々、中小現場がやらなければならないことがあります。

それは、ベテラン作業者のKKDを「組織的」に引き継ぐことです。

 

そこで、こうした課題を解決する手段としてIoTを使います。

例えば、複数のデータをリアルタイムで統合し、的確な判断を可能にするシステムを構築するのです。

ベテランの感性を引き継ぎます。

IoTでベテランの感性を引き継ぐ。

このように考えればIoTを導入する目的が明確になります。

 

GEの関係者も次のように語っています。

日本メーカーの優れた品質管理や改善活動などの強みを生かしつつ、IT(情報技術)を使って、それらを進化させて、
より高い水準に持っていくためにIndustrial Internetは役に立つ。

(出典:日経ものづくり2016年5月)

ですから、IoT導入にあたっては、品質管理や改善活動の水準が高まるイメージを明確に持つことが欠かせません。

導入成功のカギは、成果を具体的に描けるかどうかにあるのです。

 

固有技術や管理技術のキモを理解していなければ、そこから生み出される価値をイメージできません。

現場力とは、現場の勤勉さと言い換えられます。

ですから、勤勉さと情報通信技術(ICT)を結合させることがIoTです。

しかし、闇雲に、現場の勤勉さと情報通信技術(ICT)を結合しても効果は得られません。

 

まずやるべきことは、現場の固有技術や管理技術の分析です。

IoTを現場へ導入する前にやることがあるということです。

 

たとえば、ベテランによる設備の安定稼働のノウハウを引き継ぐことを考えてみます。

この場合、ノウハウの対象は安定稼働の状態の維持。

その状態を考えたかったら、逆の状態、つまり不安定稼働状況を思い浮かべます。

そうして、その不安定稼働状況の原因を特定し、その原因を分析するのです。

ベテラン作業者は、この不安定稼働の原因に常日頃、現場で気を配っているからです。

 

例えば射出成形では・・・・・。

ベテランは、「型閉めシリンダー」のストローク量の変化に注視している。

なぜなら、徐々に堆積するバリの影響で、型締めが不完全となり、型と型との隙間がある一定量以上になると漏れトラブルが発生するから。

 

例えばプレス機では・・・・・。

ベテランは、錆が発生する気温と湿度の関係に注視している。

なぜなら、事前に防錆用の油を塗布できない素材をプレスする際に、対象素材に赤さびが発生していると塑性加工後、最終製品でトラブルを引き起こすリスクがあるから。

 

例えば、圧縮エアーを駆動力に活用する設備では・・・・・。

ベテランは、対象設備に直結されているサージタンクの内圧変動に注視している。

なぜなら、工場全体の消費エアー量がある一定慮以上になるとサージタンクの内圧変動も大きくなるから。

 

等等、特定の現象に対する工学的な因果関係を整理することになります。

このような検討を通じて固有技術や管理技術を分析し、技術のキモを把握するのです。

技術のキモが把握できば、自ずと、現場の勤勉さとICTを結合させて生み出される価値が明確になります。

3.工場内を「つなげる」前にやること

このような水準にまで至れば、GEの「Industrial Internet」導入で、果実を獲得する可能性が高まります。

Industrial Internetに限らず、新技術導入による効果を頭の中でイメージすることは極めて重要です。

優れた品質管理や改善活動などの強みを生かしつつ、IT(情報技術)を使って、それらを進化させ、より高い水準に持っていくイメージが浮かばないならば、情報通信技術を現場に導入しても効果は小さいです。

工場内を「つなげる」前にやるべきことは、固有技術や管理技術の分析です。

ベテランのノウハウを見える化します。

 

固有技術や管理技術を分析して工学的な因果関係を明確にする仕組みをつくりませんか?

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)