GT-Rはブランドが現場の自発性を高める究極事例

GT-Rはブランドが現場の自発性を高める究極事例

現場が自社製品の商品力やブランド力について理解を深めれば、新規事業を成功させる要因の一つである自発性が高まる、という話です。

 

1.新規事業を成功させる要因

新規事業を成功させる要因が浮かびますか?

生産活動への評価、特にお客様からいただく現場への評価は、現場のモチベーションを上げます。

現場でお客様の顔が見えるようにすると、現場の自発性は高まります。

高付加価値化へ向けた事前準備にもなるのです。

現場でお客様の顔が見えるようにする狙いは何か?

 

自社製品やサービスの高付加価値化で現場が果たす役割は小さくありません。

生産プロセスや生産ラインの変化に柔軟に対応してもらう、それも自発的に動いてもらうことが欠かせないからです。

製品にせよサービスにせよ、高付加価値化への対応にはプロセスの複雑化や高度化が伴います。

 

新たな付加価値を顧客に提供する一方で、製造プロセスが従来より簡略化されるならば、これほど素晴らしいことはありません。

しかし、そうしたイノベーションは無いでしょう。

新たな付加価値を生み出す製品やサービスではプロセス上の負荷の増加が避けられません。

多くの方が、経験していることではないでしょうか?

 

高付加価値化は、「従来技術+従来技術」や「従来技術+サービス」等「複数」の要因の組み合わせから生み出されることが多いです。

したがって、全員一丸となって、複雑化や高度化に挑戦しなければならない。

従来のやり方を踏まえて、新たなやり方を考える。

新たな付加価値の創出には、新しいことに挑戦する組織風土の醸成が必要です。

特に、現場に前向きの雰囲気が生まれてこなければ、特定の人が一人で旗を振っても成功には至りません。

 

さらに、予想しないことも起きます。

高付加価値化の取り組みでは、現場は柔軟に、臨機応変に、そして的確に動くことが求められるのです。

これは、現場に自発性がなければ、できないことです。

 

5年先、10年先を見据えた時、経営者は、将来の事業の柱になり得る新規事業を立ち上げる必要性を感じるはずです。

新たな付加価値を生み出す製品やサービス。

現場の力も生かしたいです。

現場の自発性は新規事業を成功させる要因の一つとして小さくないと、考えています。

 

2.現場の自発性

現場の自発性を促すにはどうしたらイイでしょうか?

どのような工夫ができるでしょうか?

 

2016年夏、日産自動車は高級スポーツカー「GT-R」の改良モデルを売り出しました。

車好きの方なら、ご存知のスポーツカー。出力が570馬力です。

マーチやヴィッツ等のファミリーカーの出力が100馬力程度、スカイライン、マークX級のクルマで300馬力程度ですから「GT-R」の出力は飛びぬけています。

それに価格が1,000万円前後。価格も出力に負けずにモンスター級です。

 

そして、この「GT-R」のエンジンは日産社内から選ばれた熟練5人の匠(たくみ)にしか組み立てることが許されていないそうです。

通常のエンジンは生産ラインの工程別に担当者を配置し組み立てていきますが、「GT-R」のエンジンはクリーンルームで匠が1人で全工程を担います。

約9時間かけて1基を仕上げる。

自分が組み立てたエンジンには匠の名前が刻まれたネームプレートが貼り付けられます。

「GT-R」のエンジンは横浜工場にあるようですが、時々その工場へ「匠」に面会に訪れる「GT-R」の購入者がいるそうです。

「私のGT-Rのエンジンを組んでくれたこの人に感謝したい」

このオーナーさんの言葉はモノづくりに携わる者にとって最高の勲章でしょう。

自ら造り上げた製品やサービスで、こうした評価を頂けるのなら、もう何もいらない!!そんな心持になるのではないでしょうか?

5名の匠の方は背中にRを記した独自の作業服を身に着けているとのこと。

 

匠の方々は、使命感に燃えて仕事に没頭しているでしょう。

自発性を発揮して云々という水準の話は恥ずかしくてできません。

現場自身があこがれるほどのブランドや製品があれば、黙っていても、現場の自発性が高まりそうです。

(出典:産経ニュース2016年7月31日)

 

3.自社製品のブランドや評判を現場と共有する

自社製品、つまり現場が自ら汗をかいて造った製品やサービスに対するお客様の評価は、仕事の誇りを感じることにつながります。

誰でも、自分がかかわった製品やサービスのことを、お客様がどう評価しているか気になります。

そして高い評価を受けていることを知れば、役に立っている自分を実感できます。

働くこと自体に誇りを感じるでしょう。

 

大手企業は一生懸命に企業価値やブランド力を高めようとしています。

市場、顧客から信頼を獲得することが狙いです。

企業価値が高まり、○○ブランドの認知度も高まれば、多くの顧客は安心してその企業の製品を購入できます。

あるいはこだわりをもった○○ブランドにはファンもできます。

○○ブランドは顧客にとっての安心や憧れの対象になり得ます。

こうした対外的な効果がブランドにはあります。

 

一方で、○○ブランドにかかわるモノづくりの現場はどう感じているでしょうか。

○○ブランドの価値や評判は、現場でも理解できているはずです。

そもそも、その○○ブランドにあこがれて、その大手企業に入社する作業者もいるでしょう。

こうした人たちが集まった現場なら、何も言うことはありません。

ブランドに対する憧れを誇りに変えて仕事に打ち込んでいるはずです。

 

上記の「GT-R」はブランドが現場の自発性を高める究極の例です。

自発性は、ほとんど「使命感」という水準にまで昇華していると考えられます。

 

「GT-R」の事例は一般的ではありませんが、どんな工場にも強みを反映させた製品やサービスがあるはず。

そして、それを選択してくれる顧客もいるはず。

したがって、対外的な評価もあるはずです。

そうした情報を生かす工夫はありませんか?

 

自ら汗して造った製品に、現場は想いがあるのです。

ただそうした想いを現場に抱かせるのも、抱かせないのも、トップや現場リーダーの考え方次第であることに留意して下さい。

現場に対して、自社ブランドや自社製品の価値や評価、意義を大いに伝えるべきです。

ブランドは外部だけでなく、内部に対しても働きかける効果があるからです。

自社製品の評価や評判が現場に伝わっていなければ、現場もそれなりの対応に留まるでしょう。

 

自立性を促すキーワードは使命感かもしれません。

現場の誰でも自社ブランドや自社製品の評価を高めたいと考えます。

特に、直接に製造に関わっている現場ならばなおさらです。

 

3.自社製品を気にしていた若手人財

自社製品の開発業務に従事していたころ、新たな製造プロセスを立ち上げる機会がありました。

自動車部品の軽量化をターゲットにした新プロセス。

前後工程と連携しながらの大掛かりなプロジェクトでした。

ある自動車メーカーのフラグシップカーの新モデル発表に合わせて部品を開発していました。

そのための新プロセスです。

開発を進めるにあたっては、開発する部品のターゲットを現場へ説明しました。

フラグシップカーの新モデル向けでもあり、顧客にとっても重要であることや、我々にとっても将来へ向けての設備投資が伴う挑戦であることも併せ、製品の位置づけを知ってもらいました。

 

ですから、現場で仕事をしていると……、

「今度、発売される次期○○〇でウチの部品が使われるんですね。」

「○○〇はラリーでも走るから、仕様が厳しくないですか?」

「○○の開発はうまくすすんでいんですか?」

主に現場の若手人財からでしたが、こうした質問を投げかけられました。

自分たちの職場の将来にかかわるので気になっていたことに加え、フラグシップカーの部品開発に自分たちも関わっているという気持ちがあったからだと思います。

先のGT-Rの事例ほどではないですが、自分の仕事がブランドに関連している、との思いがあったはずです。

こうした気持ちは現場を前向きにします。仕事のやりがいを確実に高めます。

 

この部品開発では、新プロセス開発が伴いました。

可能な限り起こり得ることを事前に予想しては手を打っていったつもりでも、当然、予期せぬトラブルも発生します。

自発的に動いてくれた現場に何度、救われたか知れません。

自主的に動いてくれたメンバーには、先の質問を投げかけてきてくれた若手人財の面々もいました。

 

自社製品が市場でどのような評価を受けているのか、こうした情報も現場と共有したいです。

特に自社ブランドを持って事業展開しているならば、市場に向けてだけではなく、現場へ向けてもブランドに関する情報を発信すべきです。

仕事のやりがいを感じる機会が増えます。

経営者や現場リーダーは自社製品の商品力やブランド力について現場へ語って下さい。

新規事業を成功させる要因の一つである自発性を促します。

 

現場は、自社製品の強みを理解していますか?

現場は、市場が自社ブランドや自社製品をどのように評価しているのか知っていますか?

 

まとめ。

現場が自社製品の商品力やブランド力について理解を深めれば、新規事業を成功させる要因の一つである自発性が高まる。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)