現場でお客様の顔が見えるようにする狙いは何か?

現場でお客様の顔が見えるようにする狙いは何か?

現場でお客様の顔が見えるようにすると、お客様視点が身につくので、高付加価値化へ向けた事前の準備になる。

商売の原点を共有することでもある。

経営理念で創業者のお客様視点を振り返る、という話です。

 

1.請け負う事業形態で学んだこと

お客様の工場内で、生産活動を請け負う事業形態があります。

自動車部品向けを中心に各種機械・機器メーカーへ鋼製素材を製造しているお客様の工場で、自社現場を持ったことがあります。

この部署の管理者を担っていた時に感じたのは、それまでに経験がないくらいのお客様との「密接な距離感」です。

何せお客様の現場で仕事をさせていただくわけです。イイことも、ワルイことも筒抜け。

これはある意味で、毎日、テストを受けているようなものでした。

 

自社の制服を着用して、明らかにお客様の現場とは違うメンバーであることを「主張」しながらの生産活動。

自社工場での生産活動とは、違った緊張感がありました。

そした現場の責任者である以上、お客様との密接な関係作りは欠かせませんでした。

品質基準や納期を遵守することは当然のこと。

それを前提で、日常の「目で見える」生産活動を通じて、お客様の満足を獲得する視点も必要でした。

 

お客様の現場で仕事をしてる以上、自社の安全衛生活動に加えて、お客様での安全衛生活動にも参画することも重要です。

管理責任は当方にあるとは言うものの、お客様の現場で労災を起こせば当然のこと、ご迷惑をおかけする。

それよりも何もお客様との信頼関係が失われ、事業継続の是非も問われかねない。

提示されている品質基準を継続的にチェックすることも、また提案活動を通じてカイゼンによる成果を提示することも、信頼関係を築くには大切なことでした。

 

製品品質もさることながら、作業者の勤務態度等、提供するサービスの品質も問われるわけです。

こうしたことへ、的確に対応するには、お客様の声に耳を傾ける姿勢を継続させねばなりません。

長期的な生産計画や品質情報、新たな取り組み等の情報を得るために副工場長の方(その工場では工場長は他工場との兼務だったので副工場長が実質の責任者だった)と定期的なミーティングを開催していました。

 

それらに加えて、現場へ足を運んではその副工場長の方へ、日常的に声をかけ、ウチの現場に対する苦情、要望事項を伺ったりもしました。

そうして得られた情報を現場へフィードバックし、現場に現状を説明する、といったことを継続していました。

当方のこうした活動に理解をいただき前向きで積極的な関係を築くことができたのは、当時、とてもありがたかったものです。

 

その中で、その副工場長から、現場に対する高い評価を受けたことがあります。

現場の最終工程となる検査工程。そこでの作業精度の高さを評価してもらったのです。

「検査工程をやっている作業者の方には頑張ってもらって、いつもありがとうございます。本社品質監査の担当者も評価していました。」

製品は重要保安部品に関連した部品でした。

その製品の表面に「キズ」や「サビ」があってはNGとなります。

検査工程では、それを目視で検査していました。

 

検査工程は、昼間8時間勤務で、土日休日の体制を敷き、2名の作業者を固定していました。

製品仕様として「キズ」や「サビ」の品質規定には定量的な記述はありました。

ありましたが、結局は、検査担当者の技能や感性に依存してしまうことが少なくない工程です。

そこの作業者は、その現場が設立されて以来のベテランでもあり、経験を重ねながら目視による検査水準を高めてくれていました。

その結果、「キズ」や「サビ」に起因したクレームは、量産が立ち上がってからの2〜3年間ゼロで推移できていたのです。

お客様でもその実績を認めてくれて、その裏付けとなる現場作業も評価してくれた、というわけです。

 

こうした評価、特にお客様からの評価は、現場のモチベーションを高めるきっかけとなります。

当然、こうしたお客様からの評価は、現場リーダーや現場作業者へ伝えるわけですが、それを聞いた時の、特に現場作業者の笑顔がヨカッタ。

評価されて、それもお客様に直接、評価されて喜びを感じない現場はないはずです。

品質、納期の遵守を生活かけてやっているわけですから。ますます、ガンバリたくなる。

 

その後の話として、現場の物流を改善するため、検査担当者が自らフォークリフトの技能を修得したいと申し出てきたことを思い出します。

検査担当者には本来、そうした物流を意識する役割分担にはなっていませんでした。

受注量が増減する中、生産量が増えた時の対応として、自分たちも運搬作業を兼務した方が全体の効率が上がると自発的に考えたようでした。

お客様に前向きの姿を見せること自体もやりがいにつながる、ということを知りました。

 

また、その職場では、現場リーダーのY君が実務を仕切っていました。

その現場へ常駐できない私に代わり、現場リーダーのY君が、お客様の事務所に机を置いて、その副工場長と日常的な情報交換をする役割も担っていました。

その目的をよく理解してくれていたのか、その対応についても、お客様から評価をもらったことがあります。

「普段はY君が良くやってくれているので全く問題ないですね。」

加えて、冗談交じりに、「とても有能なのでウチに来てほしいくらいです。」とのコメントももらいました。

もちろん、そうした評価もY君へ伝えたわけですが、そうした評価をもらえることは管理者としてもとてもうれしいことでした。

 

当然、良い評価ばかりではありません。

勤務態度については何度かクレームもいただき都度、改善もしました。

現場の言い分があるような事態もありましたが、原則、こちらが改善すべしという姿勢で臨みました。

お客様との信頼関係を築くこと、そして、信頼関係の成果を感じることが、大きな動機づけになることを知りました。

お客様の顔が見える環境で、お客様が何を欲しているのか、現場が自然と考えるようになっていたのは大きな成果でした。

環境が人を育てるものだ、ということを実感した次第です。

お客様の顔が見える環境、お客様との「密接な距離感」から多くのことを学べた機会は貴重でした。

 

2.お客様の顔が見えること

お客様の顔が見えることが商売の基本である。

お客様の工場の敷地内で、現場を持つことを通じて実感したことです。

接客業、サービス業では当たり前のことかもしれません。

製造業でも営業担当者であるならば当然のことでしょう。

 

しかし、モノづくりの現場で、は製品づくりには精いっぱいの知恵と汗を絞り出しているものの、その製品を手にするお客様の顔は見えがたいのではないでしょうか?

役割分担上、致し方がないとことではあります。

お客様との距離感が接客業や営業担当者とは異なるからです。

顧客へ「コト」や「価値」を伝えるために必要な「情報」を「素材(メディア)」に転写する行為が製造です。

製造の役割がそうである以上、現場と言えども、お客様視点は欠かせません。

お客様に届けた価値やコトを評価いただいてこそのモノづくり。

こうした意識を持つことが、これからの現場では、従来以上に求められます。

なぜなら、これからの高付加価値化のキーワードとして考えられる「マスカスタマイゼーション」も「超短納期」も現場事情ではなく、顧客事情への対応が必要だからです。

 

モノづくり現場で、お客様の顔が見えるようにすることは、高付加価値化へ向けた事前準備になるのではないでしょうか?

付加価値の原点はお客様の要望にあることを考えれば当然のことです。

さらに、そのお客様にも現場のことを知ってもらう。

「ああ、こんな風に造っているんですね。」

「あの時の増産対応ではとても助かりました。」

「イイものをいつも、遅れることなく納品してもらっているので、安心してお任せしています。」

「ここの技術はベテランの技ですね。」

「品質クレームでは参ったけど、その後の対応には満足できました。」

「検査が細かいですけど、頑張ってお願いします。」

こうした評価をお客様からもらったら、是非、現場と共有したいです。

評価されてうれしくない人はいません。

何かあれば、そのお客様の顔が浮かび、もうひと踏ん張りできます。

人は感情の動物。

知らない人よりは、知った顔の人の方によりやりがいを感じます。

 

現管理者や現場リーダー、経営者は、現場に対して、いかにお客様の顔を見えるようにするか、工夫したいです。

  • 製品の出口側となる発送場での工夫
  • 営業担当者との連携による工夫
  • 工場見学での工夫

いろいろな切り口での工夫が考えられます。

 

経営理念の再認識。

このような工夫もあります。

創業者の方が創業時に苦労されたのは新規顧客の開拓であり、既存顧客との関係性の強化であったと想像されます。

経営理念には必ず、「お客様」に関した記述がなされているのではないでしょうか?

創業者がお客様を獲得するのに、どのような苦労をしたのか。

それを改めて全員で振り返ることで見えてくるお客様の顔があります。

 

現場で、お客様の顔が見えるための工夫はありますか?

創業者が自らの経験を通じて描いた商売の原点を現場と共有しませんか?

 

まとめ。

現場でお客様の顔が見えるようにすると、お客様視点が身につくので、高付加価値化へ向けた事前の準備になる。

商売の原点を共有することでもある。経営理念で創業者のお客様視点を振り返る。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)