AIやロボットに負けない現場力を磨く3つの視点

AIやロボットに負けない現場力を磨く3つの視点

人工知能(AI)やロボットを使う側になって、現場を作業から解放し創造性の高い業務へ導く、という話です。

今の現場の仕事は人工知能(AI)やロボットに奪われませんか?

現場で人工知能やロボットを活用するスキルを身につけさせます。

 

現場を作業から解放し付加価値を生む業務へ導きます。

デジタルの時代だからこそ、アナログのコミュニケーション能力を高めます。

1.人工知能やロボットが人間の仕事を奪う?

人工知能やロボットの発達により、ますます製品やサービスの高付加価値化が欠かせなくなってきました。

かっての日本のモノづくり力は、安くてイイモノを大量に世の中へ供給することを実現させました。

しかし“安く”という特徴は1990年代以降、アジアの新興国に奪われて久しいです。

 

そして、人工知能やロボットの登場により、中小企業の工場経営で価格競争に挑む余地は、ほぼなくなったと思います。

人工知能やロボットが対応できるような製品の製造販売、あるいはサービスの提供を主業とした事業は、まず間違いなく価格競争に巻き込まれます。

こうした人工知能やロボットの発展を、避けられない外部環境の変化ととらえれば、存続と成長のための自社製品や仕事の仕方を見直す良いきっかけになります。

 

人工知能の得意なところと不得意なところを眺めると、今後、目指すべきモノづくり現場での仕事のやり方が見えてきます。

2.今後人間がやるべき仕事として求められていることとは

東京大学教授の柳川範之氏は、人工知能やロボットが人間の仕事を奪うのではなく、人工知能やロボットを使う人間が人間の仕事を奪うことを指摘しています。

「実は、仕事を奪うのはAIそのものでなく、その裏側にいる人間だ。

ロボットがプロ棋士に勝ったというニュースはAIの発達の成果としてよく例に挙げられる。

 

しかしプログラムを作成したのは人間であり、しかもそこで用いられたデータは、過去に人間が指した棋譜だ。

言ってみれば、ロボットを駆使した人間がプロ棋士に勝ったに過ぎない。

SF的な未来を考えない限り、コンピューターやロボットが人間から完全に独立して、自らの意思を持って仕事をし、人間の仕事を奪うことはあり得ない。

 

従ってAIやロボットが仕事を奪うのではなく、それを使う人間が他の人の仕事を奪うのだ」

(出典:『日本経済新聞』2016年1月13日)

 

人工知能(AI)の本質を指摘した分かりやすい説明だと感じます。

人工知能 = SF映画のイメージ、となりがちです。

しかしながら、その本質は「過去のデータの蓄積」であり「人間が考え出すアルゴリズム」です。

 

人工知能のプログラミングと言うのも、極言すれば、現場のロボットの動きを設定するティーチングと、なんら変わらないことに気が付きます。

なにかすごい知的生命体みたいなものに成長し次々と人間を襲う……(これは全く、SF映画の世界だ!)わけではない。

従来のロボットがこれまでやってきた繰り返しの単純作業に加えて、過去のデータに基づいて最適解を選択するような「手続き、処理作業」ができるようになっただけ。

 

逆に言うと、肉体労働に加えて、過去の判例に従うような創造性が低い“事務処理”から人間を解放してくれるとも解釈できます。

創造性が低い「手続き、処理作業」を、専門的な仕事と思い込んでいた人達が慌てることになるのかもしれません。

野村総合研究所と英オックスフォード大学マイケルA・オズボーン准教授との共同研究(2015年)では様々な職種でコンピューター化可能確率を算出しています。

 

金属熱処理工、金属プレス工、NC旋盤工、電子部品製造工、プラスチック成形工、マシニングセンター・オペレーター、鋳物工、CADオペレター……。

こうした職種は90%以上の確率でコンピューター化されるとしています。

現場のノウハウを生かしながらやっている職種もあり、ほんと? と思えるところもありますが、要するに単純な肉体労働は全てロボットがやってくれると考えれば納得です。

 

これらの他で、意外であったのが、公認会計士、弁理士、司法書士、その他法務従事者も90%以上の確率でコンピューター化されると評価されていたことです。

こうした“士業”と言われる仕事に従事している先生方も資格の上にあぐらをかいているわけにいかないようです。

国家資格である士業であっても創造性が低い「手続き、処理作業」だけでは食えない。

 

野村総合研究所とオズボーン准教授の研究結果は、今後、人間がやるべき仕事として求められているのは人工知能やロボットができない付加価値の高い業務であることに気が付かせてくれます。

人工知能やロボットを使う側になればイイわけです。

3.人工知能やロボットを使う側になる

東京大学の柳川教授は人間に今後必要とされる能力として3つ挙げています。

1)AIを活用する能力

コンピュータに何をどこまでさせるかの設計。

 

2)新しい結合により付加価値をつける能力

人工知能の導き出した結果を活用しつつ、新たな付加価値を追加するような業務。

 

3)コミュニケーション能力

人間間のコミュニケーション能力、チームワークなどの社会技能。

 

この3つは人工知能やロボットが不得意な分野と考えられます。

これらは、人工知能やロボットに負けない現場力、あるいは人工知能やロボットを使いこなせる現場力、を考える上での3つの視点とも言えます。

 

3-1 AIを活用する能力

仕事を奪われる立場に立たねばイイわけです。

モノづくりの現場でも人工知能やロボットを使ってナンボと考えます。

プログラミングやシステムの構築は専門家に任せるとして、我々モノづくりに携わる人間は、現場の作業をいかにアシストできるかを考えます。

 

最終的には、人間に“作業”はさせないという工場経営方針の実現を目指します。

今、現場で作業に従事している作業者には、“創造性”が求められる業務に移行してもらい、現場のものづくり力を高めていく。

作業から解放された現場が付加価値を高める業務を実践できるよう長期的な視野に立って、様々なスキルや知識を獲得する機会を作り出すことは、今後、かなり重要になってくるはずです。

 

例えば自工程の標準化を検討する能力などは代表的なスキルです。

製品仕様、製造技術、生産技術、あらゆる知識が必要ですから。

逆に言うと、いつまでも現場に作業をやらせていては、企業の存続と成長が危うい状況に陥るとも言えます。

重要事項です。

 

3-2 新しい結合により付加価値をつける能力

人工知能の導き出した結果 + 自分の経験 = 新たな付加価値

こうしたことを現場で実践させる土壌をつくることだと思います。

カイゼン活動のテーマを考える上でのヒントになる考え方です。

 

現場が創造性の高い業務に従事して、生き生きと現場で働いているイメージです。

3-1でも触れましたが、作業から解放された現場が、付加価値を高める業務でも活躍できるよう計画的に導くことが欠かせません。

実現できれば、やりがい、働きがいに満ちた工場になりそうです。

 

自律性、選択性、有能性を感じる機会を経営者は現場へ与えることになるからです。

 

3-3 コミュニケーション能力

コミュニケーション能力は、業務の付加価値を高める上でベースになるところ。

ヴァーチャルではないリアルの世界。

製品やサービスを受け取って満足度を評価するのは結局、生身の人間。

 

人工知能やロボットではありません。

付加価値を高めるためのキモは人間をどれだけ理解しているかということにつきます。

工場経営において、人間の研究には終わりがありません。

 

そして、その人間研究のベースはコミュニケーション能力です。

これ抜きにしての工場経営はあり得ないです。

現場が全て完全自動化で無人になったとしても、そこから生み出される製品やサービスを使ってくれる顧客がいる限りは、高め続ける必要がある能力です。

 

人工知能やロボットが導き出した最適解を的確に周囲に伝え、成果を出す能力も、結局、これです。

デジタルの世界が進むにしたがって、アナログの力も高めていくことが工場経営で欠かせない課題となりそうです。

まとめ。

現場で人工知能やロボットを活用するスキルを身につけさせる。

現場を作業から解放し付加価値を生む業務へ導く。

デジタルの時代だからこそ、アナログのコミュニケーション能力を高める。

 

人工知能(AI)やロボットを使う側になって、現場を作業から解放し創造性の高い業務へ導く。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)