工程分析で製造プロセスの本質を見える化する
素材を加工して高付加価値化する「流れ」を工程分析(プロセス・チャート)で見える化し、製造プロセスの本質を理解する、という話です。
1.工程分析(プロセス・チャート)
IEはカイゼン手法の体系でもあり、体系を学ぶことは科学的、工学的な思考を訓練する絶好の機会でもあります。
IEの基盤をなす作業研究のうち、方法研究では対象となるシステム全体の設計を検討するところから始めます。
それから個々の作業の設計を行うのです。
目につくからと言って、いきなり問題箇所の細部に手を加えることは避けます。
個別の作業に焦点を絞る前には、必ず、システム全体を捉える努力をします。
全体の流れを把握してから細部で認識された問題点の検討に入ります。
全体最適があっての部分最適化だからです。
方法研究は、
- 工程分析
- 作業分析
に分けられます。
そして、あらゆるモノづくり現場において、まずやるべきことは、「工程分析」です。
製造現場では低い価値の素材を加工して高い価値の製品(商品)へ変換していています。
素材を加工して高付加価値化する「流れ」を見える化するのが工程分析でありこれで全体の見通します。
工程分析は次のように定義されています。
生産対象物が製品になる過程、作業者の作業活動、運搬工程を系統的に、対象適合した図記号で表して調査分析する手法。
(出典:生産管理用語辞典)
流れを表現するためには、
- 物に注目する
- 人に注目する
の2つの見方があることがわかります。
さらに、一般的に付加価値を生まないとされる運搬工程について、それのみを取り上げて分析するケースもあります。
工程分析では工程分析図(プロセス・チャート)が使われます。
そこでは、要素となる工程を機能と状態に着目して、
大きく4つに分類しています。
- 加工
- 運搬
- 停滞(貯蔵と滞留)
- 検査(数量と品質)
工場の流れはこの4つで表現できるということです。
この中で付加価値を生む要素工程は「加工」のみです。
人が動き回って忙しそうに見える現場でも、付加価値を生み出しているのは加工工程のみである、という認識を現場メンバーと持つことは極めて重要です。
現場の当事者は忙しく動き回っていると、汗をかいた分、働いたように感じてしまいます。
しかし、それは、ただ動いていただけであり、アウトプットの視点では価値を、生んでいません。そうした気付きを与えます。
こうした気付きが自主的なカイゼンを生み出すきっかけです。
さらに、停滞には貯蔵と滞留があることにも注目です。
計画的なのが貯蔵、非計画的なのが滞留です。
原則、モノづくり現場ではあらゆる流れを良くしたいと考えます。
ですから、計画的であろうが、非計画的であろうが、お金の流れが停滞している状況は解消しなければならないと考えます。
特に非計画的な滞留は「最悪である」という認識も現場で共有したいです。
非計画的な滞留として代表的なものに仕掛在庫があげられます。
工程と工程との間に留まっている、この仕掛在庫はゼロを目指したい対象です。
こうしたことが見える化されるのが工程分析図(プロセス・チャート)です。
2.キズ直しを一工程と表現していたH君
カイゼンに取り組む前に、工場全体の流れを把握することをお勧めしています。
まずは、「加工」と「検査」工程の系列を表現することです。
4つある要素工程のうち、「運搬」と「停滞」を除きます。製造プロセス全体を一目で把握できます。
製品別レイアウト(フローショップ)の工場ならば、その工場自体の流れを表すことになります。
また機能別レイアウト(ジョブショップ)の工場ならば、生産数量トップ20%分を分析することで工場全体での本流が見えてきます。
現場でのカイゼンの第一歩目はこの現場の本質的な流れを把握すること、現場メンバーとその流れを共有することです。
結果として、これが望ましい姿を描く時の判断基準となります。
なお、「加工」と「検査」のみに着目した工程分析は、オペレーション・プロセス・チャートとか単純工程分析と呼ばれています。
自動車部品の製造工場で管理者として勤務していた時の話です。
現場に若手人財H君が配属になって現場実習をさせることになりました。
モノづくりの現場は当然に初めての経験でもあり安全教育からスタートです。
いよいよ現場で実習を始めるにあたって、生産ラインの全体の流れを把握させることを目的に以下のような課題をH君へ出しました。
「生産ラインを原材料からスタートして製品に至るまでの流れを把握してほしい。製品のとって重要と思われる工程を上流から下流まで順番に整理してみよう。」
先の表現でいえば、「運搬」と「停滞」は除いて、「加工」と「検査」と評価される工程をピックアップして系列を整理して、となります。
ということで、1時間程度現場を見回って整理してもらいました。
7つ程度の工程で構成されていた生産ラインであり、少々、細分化して表現されても10項目程度で完成に至る生産ラインでした。
1時間後H君が整理した結果は概ね正しく、しっかりと生産ラインの流れを把握していました。
ただ、1点、興味ある工程が記入されていました。
本来ならば、
材料切断 → 計量 → 熱処 → ……
と表現されるべきところを、
材料切断 → 計量 → キズ直し → 熱処理……
と表現していたところです。
たまたま、そのとき切断機の超硬刃に問題があって切断面に筋が入るトラブルがあり、納期の事情で選別をしながら稼働させていました。
「キズ直し」は、当然、製品の本質的な工程ではなく、一時的な対応で臨時に設けていたものです。
そのH君へ尋ねました。
「どうして、このキズ直しを工程分析に入れたの?」
H君の答えは下記でした。
「多くの人が集まって一生懸命にやっていたので重要な仕事かと思ったから」
ある意味では納得しました。
現場では何か目につく動きをしていると何か「活発」に働いているように見えます。
ですから、多くの人が集まって作業をしていれば重要な仕事に違いないと判断したH君の誤解もいたしかたがない。
現場では、付加価値を生み出している工程こそモノづくりの本質です。
ですから人の動きの活発さとこの本質は全くの無関係。
工程分析して製造プロセスの本質を見える化すると、現場にそれ以外の「動き」が多いことにも気が付きます。
こうした気付きを現場で共有することがカイゼンでは欠かせません。
工程分析はそのための手段となります。
まずは、「加工」「検査」の2つに絞ります。この2つの系列を整理して、自社製品の本質、製造プロセスの本質を理解し、現場と共有します。
まとめ。
素材を加工して高付加価値化する「流れ」を工程分析(プロセス・チャート)で見える化し、製造プロセスの本質を理解する。
株式会社工場経営研究所 「儲かる工場経営」メルマガ ご登録ください。
毎週火曜日配信中。
https://48auto.biz/koujoukeiei/registp.php?pid=3