匠の技能者と最先端生産ラインの良い関係性
長野県のセイコーエプソン塩尻事業所内にある「信州 時の匠工房」を見学してきた。ここではグランドセイコーをはじめとする高級腕時計を、卓越した技能者たちが一つひとつ手作りしている。ムーブメントの組み立てから文字盤・ケース製造、外装組み立て、出荷検品まで、同一敷地内ですべての工程ができるのは、世界でも塩尻事業所しかないそうだ。ムーブメントの組み立て工程では、白衣を着た技能者が顕微鏡を覗き込みながらピンセットで歯車やばねなどの極小部品をつまみ、組み上げていく。その見事な腕前と厳かな雰囲気を前に、思わず息を止めて見入ってしまった。
▼次に、同じ事業所内にある最新の生産ラインも見せてもらった。今度は先進の腕時計を最新の技術を搭載したラインで、何十台もの自社製ロボットが並び、小さな部品のピッキングから、組み立て、完成まですべて全自動で行っている。構成部品は極小で、数十個のパーツを正確に組み合わせなければならない。それをすべてロボットで行っている技術は見事の一言しかない。また隣には1980年代前半に設置した自社製の自動化ラインが稼働中。まだまだ現役だそうだ。
▼見学中、ラインで異常が発生し、赤ランプが点灯した。すぐさま人が駆けつけ、不良をリペアしてラインを再起動させた。聞けばこの人は時計の組み立てができる技能者で、ラインの見守りを任せているとのこと。彼らには不良を直す以外にも工程の悪いところを見つけ、それを生産技術に報告して修正させる役目がある。これは時計の組み立てができる人だからこそできる技だ。最新のラインはこうした技能者と現場の改善サイクルによって磨き上げられて完成したものだという。匠の技と技術継承、人とロボットの協働、人が活躍できる自動化現場。製造現場には多くの課題が横たわっている。その解決策、理想の形を塩尻事業所で垣間見た気がする。