『工場長左右田喜八のつぼやき』喜八、増税にほえる
もうからない……。
注文が減って物が作れない、これが工場としては一番辛い。
原価を抑えてなんとかやりくりしているが、長引くデフレで値下げしないと売上げが伸びない。
コストダウンで、辛うじて捻出した利益が全部吹っ飛んでしまうのだ。
うちだけではない。
隣の部品工場は閉鎖を考えているという噂だ。
やはり景気が上向かないと、オレたちみたいなギリギリの経営をしている企業は本当に厳しい。
そんな折に、この国は不退転の決意で増税をするのだという。
増税をすれば、世の中に流れているお金が減って経済活動が鈍くなる。
社会科の教科書を子供に見せてもらうと良い。そこにも書いてある当り前の話。
これは好景気が続いて物価が高騰し、インフレになっているときに行われる政策だ。
ところが、膨れ上がる財政赤字に歯止めを掛けるために増税するのだという。
不況でデフレのときに、こんな逆効果のことをして税収が伸びるわけがない。
子供でもわかる話だ。
それでも必死こいてやろうとする……とても正気とは思えない。
いやいや、上げるのは広く国民から公平に取る消費税だから、それほど影響はないんだと。
まるで消費者が納める税のような言い方をするが、消費税の納税をするのは企業の方なのだ。
商品の価格に上乗せして、消費者に負担してもらっているだけのことだ。
ただでさえデフレで高いと売れない時代だ。
街の小売りは消費税を価格に上乗せできず、泣く泣く自前で払っている店も多いと聞く。
隣の部品工場も、得意先の大手企業からムリな値下げを要求されて、消費税を添加できないらしい。
このままでは潰れるのも時間の問題か。
うちはまだなんとかやっているけれど、この先どうなるかはわからん。
それにしても、大手企業や経済団体が消費税引き上げを支持するのはなんともやりきれん。
うちのお客さんでもあるんで大きな声じゃ言えないが、自分だけもうかれば他がどうなっても良いと考えているとしか思えない。
大手の多くは輸出でもうけている企業だが、外国に売るのだから日本の消費税は添加できない。
そこで材料を仕入れるときに払った消費税の分という名目で、国から還付を受けることができる。
ムリに値下げさせた下請けが消費税もかぶってくれるから、還付金分は丸儲け増税大歓迎というわけだ。
しかも彼らは消費税を上げる代わりに、経済活性化のために法人税を下げろと主張する。
そりゃ法人税が下がればオレたちも少しは助かるけれど、隣の工場みたいに不採算で苦しむ中小企業には焼け石に水だ。
結局のところ、大きな企業だけが大もうけするという構図なのだ……。
少子高齢化に伴って社会保障費は増えていく。
この消費税引き上げは、その財源に充てるというのが国の言い分だがこれも首をかしげる。
支出が増える場合、民間企業ならまず徹底的な経費削減から始める。
国は一生懸命やってる……と思うかね? みんな。
では経済成長で税収を増やすのかというと、学者は口を揃えて難しいと言う。
とどのつまり増税しかないんだと。
経済成長とは頭でっかちの学者や官僚が考える机上論でなく、民間企業が努力した結果だ。
なぜそのように戦う前からマイナス思考を煽って、白旗を上げさせるのだろう?
どちらにせよ、大きな企業は国と結託して甘い汁を吸うのだろうが、オレたち中小企業は戦い続けるしかないのだ。
中小企業が総崩れになればこの国は滅ぶよ。
今増税するのは自殺行為だ。オレはそう思うんだがねぇ。
出典:『工場長左右田喜八のつぼやき』面白狩り(おもしろがり)