価値で評価される仕事のカイゼンでIEは使わない
カイゼンで扱うモノは、時間で評価されるモノと価値で評価されるモノで構成され、IEは前者のための技法である、という話です。
1.IEで注目しているのは工数
IE(インダストリアル・エンジニアリング)を生産管理用語(日本規格協会)で調べると、「経営工学」の欄に、IEの解説が記載されています。
経営工学(industrial engineering)
JIS生産管理用語では、“経営工学”とは「経営目的を定め、それを実現するために、環境(社会環境及び自然環境)との調和を図りながら、人、物(機械・設備、原材料、補助材料及びエネルギー)、金及び情報を最適に設計し、運用し、統制する工学的な技術・技法の体系」と定義され、その備考には「時間研究、動作研究など伝統的なIE(industrial engineering)技法に始まり、生産の自動化、コンピュータ支援化、情報ネットワーク化の中で、制御、情報処理、ネットワークなどさまざまな工学的手法が取り入れられ、その体系自身が経営体とともに進化している。」
と記されている。
この備考に要約されているように、経営工学の対象と内容は、企業や経営体における生産・情報・管理技術の変遷に伴い、大きく変わってきた。
(出典:『生産管理用語』日本規格協会)
上記の解説では経営工学はIEと同様の英訳表現になっています。
また、経営工学の目的は“経営目標を定めてそれを実現する”となっています。
ですから経営工学は、モノづくり工場の存続と成長を実現させるための工学的な技術・技法の体系と解釈できます。
そうなると、なるほど、ほとんどIEの定義と同じです。
ただ、経営工学の対象と内容が、時代と共に変遷していることにも注目です。
IEで取り上げているのは生産活動を通じて現場へ投入されている経営資源のうち「工数」と呼ばれるモノです。
そして、その経営資源の価値は「時間×人」で表現されています。
科学的なIEが実践され始めたのは1880年代、1890年代です。この頃の生産現場は当然、自動化もなく、限りなく労働集約的でした。
ひたすら長時間働けば、その分、成果物も得られるという時代です。ですから、経営者側が重視した経営資源は「工数」となる。
工数をいかに効率よく活用し単位当たりの生産量を向上させたうえで、工数の投入量を増やすことで、生産量を2倍、3倍と拡大させていった。
需要はタップリあるわけで、とにかく効率よくいっぱい作りたい、というのが当時の経営者の想いです。
当然、仕事の価値が「時間」で評価されやすくなります。効率よく、いっぱいやったほうの勝ち、というわけです。
ですから、作れば売れる時代では、経営=IEという図式が成り立ちます。
経営工学とIEの訳語が同一という解釈もあながち間違っていません。
IEの手法自体がこうした時代背景で生まれたことを知っておくことは大切です。IEを活用する際に、工場運営や工場経営における位置づけを明確にできるからです。
2.IEが使えない仕事もある
モノを造れば売れる時代は過ぎました。いかに造るか、よりも、何を造るかが問われる時代です。
現場へ効率よく投入されるべき経営資源は工数だけでなく、お金や知恵、情報、仕組みなど様々です。
仕事の価値を「時間」のみで評価していると現場は残念な思考になってしまいます。
長時間勤務 = 給料が増える
このような思考の元では、知恵を絞って付加価値を拡大させる発想は生まれません。
工数の効率化で生産性を向上させるカイゼンは、モノづくりの現場である以上、今後も、引き続き存在します。
したがって、IEの重要性は今後も変わりませんし、こうした技法を現場がしっかり習得することは強い現場の必要条件です。
しかし、何を造るかが問われる時代においては、IEによるカイゼンのみでは物足りません。
時間で評価する仕事のみではなく、価値で評価する仕事もカイゼンに加える。
価値を引き出すための技法、知恵を絞る源泉となるやる気を引き出す技術も今後は欠かせません。
仕事を時間で評価する部分と仕事を価値で評価する部分とを工場の管理者は意識する。当然、両者の要素を含む仕事もあります。
カイゼンで扱うモノは、時間で評価するモノと価値で評価するモノ、両者の要素を含むモノで構成されていることを認識すれば、カイゼンの狙いも明確になります。
仕事を時間で評価する部分のカイゼンはIEを駆使します。
そして、工場運営や工場経営にはそれ以外の部分も存在することを認識すれば、IEの位置づけを明確にできます。
また、仕事を価値で評価する場合、カイゼンでIEは使わないことも理解できます。
価値で評価するモノをカイゼンで取り上げるとIE以外の、工場独自の技術・技法に知恵を絞ることになります。
まとめ
カイゼンで扱うモノは、時間で評価されるモノと価値で評価されるモノで構成されIEは前者のための技法である。