試行錯誤しながら現場力や技術力を稼ぐ力に変換する
貴社が持っている現場力や技術力は稼ぐ力につながっていますか?
1. 国内製造業が抱える問題点
国内の製造業を管轄する経済産業省製造産業局長の糟谷敏秀氏は、次のように語っています。
「現場の強みとか技術力が付加価値につながっていない、利益につながっていない、つまり稼ぐ力になっていない」
「IoTの時代に向けて日本企業に今こそ変革が必須」
今の国内製造業には変革が必要であると語っています。
そして、儲かる工場へ変わりたかったら、現場の「今」を知り尽くしていないといけません。
IoTで現場の生産性を向上さる前提条件です。
新たな技術導入には、経営者による適切な意思決定が必要です。
その意思決定を支援する仕組みを構築し強化するには、「今」を把握する必要があります。
(出典:『日経ものづくり』2016年3月号)
糟谷氏は、海外競合企業の戦略の特徴を指摘しています。
国内製造業の競争相手となる海外企業の戦略には、大きく3つあるとしています。
1)中長期的な経営の方針をしっかり立てている
2)限られた経営資源を自らの強みに集中的に投入している
3)自社の強み以外は他社と連携してスピードを高めている
これらを裏返すと、日本企業の弱みになります。
国内企業の問題点として、次を上げています。
- 日本の企業は社長が数年で交代するケースが多く、中長期を見据えた投資等の取り組みができない
- 全てを自前で抱え込む自前主義を展開する結果、経営資源の配分が広く薄くなってしまっている
- 経営判断にスピード感がない
そこで、糟谷氏は、国内製造業が勝ち残るために必要なことを、次のように説明しています。
現場の強みを確保しながら、それを付加価値につなげて稼ぐ力、つまりビジネスモデルを新たに創り出して収益を上げる力を強化していくこと。
糟谷氏のコメントは、中小製造企業にも当てはまります。
2. 中小現場で目指すべき状態
糟谷氏が指摘した3つの問題点は、国内製造業、特に大手製造企業にあてはまります。電機業界の不振の象徴となってしまっている東芝の昨今の姿と見事に重なります。
優れた固有技術、高い現場力を有していても、それを生かす経営、土壌がないと、立ち行かなくなってしまうことを東芝の事例は示しているのです。
こうした事例を他山の石として、中小現場でも生かします。
中小製造企業は、小回り性、柔軟性、機動性のどれをとっても大手企業に負けません。
さらに、大企業と異なって、中小製造企業では時間を味方につけて戦略を進めることが可能です。
経営者は、じっくりと腰を据えた経営、特にモノづくり力や人財力を高める戦略を実践できます。
会社の大きい小さいにかかわらず、モノづくり現場には質の高い現場力が必ずあります。
大手、中小の現場で強く感じたことです。
企業や現場によって、生かしているか、生かしていないかの違いはありますが、優れた現場力は必ずあります。
後は、糟谷氏の言うところの、稼ぐ力に変換する意思があるのかないのか、ということなのです。
経営者が現場力を戦略的に生かそうとするかしないか、ということなのです。
中小現場では次のことを実行できる状態を目指します。
- 現場の強みや技術力を付加価値創出力に変換させること
- こうしたことが継続的に実行できること
儲かる工場経営に欠かせない視点です。
3. 先行者利益を獲得する戦略
IoT時代で勝つために、何をすべきか?
糟谷氏は、2つ上げています。
- IoTを活用した優れたユースケース(事例)を見出すこと
- 自らも試行錯誤して優れたユースケースを創出すること
「優れたユースケースを見出した企業の中から、IoT時代の覇者が生まれると思います。
そして、その企業がグローバル規模でデファクト・スタンダードを握るでしょう。
その意味で、日本企業も試行錯誤をして、先行事例を積極的に創出していかないといけない。
ただ、見ているだけではなくて、自らも試行錯誤していくことが必要です。
そうした行動を進める中で、さまざまな形で他の会社、他のプレーヤーとつながって協業するうちに、どのような情報が新たな価値を生み出すのか、そのために何をやればいいのかが見えてくると思います」
(出典:『日経ものづくり』2016年3月号)
福井県福井市の松浦機械製作所は、今、拡販のために欧米市場に力を入れています。
同社は、新たな付加価値を生み出すマシマシニングセンターを開発しました。
金属光造形(3Dプリンティング)+切削加工
既存技術の組み合わせです。
3Dプリンティングに加えて、切削までこなすハイブリット機を製造できるメーカーは2014年まで世界でも同社のみでした。
最近は、同様な仕様のハイブリット機が世界でも出回り始めています。
ただし、松浦機械製作が、このハイブリット機を発売したのは2003年です。競合よりも、10年以上も早く製品を世に問い、実績を積み重ねています。
同社は競合よりも長年に渡ってゼロからノウハウを積み上げているのです。
性能面では他社よりはるかに先を行くという先駆者としての自負があります。
(出典:『日本経済新聞』2016年4月18日)
同社は、金属光造形(3Dプリンティング)+切削加工の複合機という新たな市場を創出しました。
さらに、同社には、10年以上の技術の積み重ねによる貴重な情報的経営資源があります。
これはお金を出して手に入れられるものではありません。こうした実績は顧客を安心させます。先行者の強みです。
これには、白紙からビジネスを組立てねばならない先行者の苦労が伴います。
しかし、一方で、挑戦によって、いろいろなモノが見えてくる可能性もあるのです。
既存市場で、既存製品に依存した戦略は一見、安泰ですが、これは、将来を全く保証しません。
そして、IoTを活用した、全く予想しない競合が、全部を持ち去ってしまう懸念もゼロではないのです。
特定の市場、製品への依存度が高ければ高いほど、リスクは高まります。
結局、動かなければ、ドンドン、リスクは高まるということです。
それならば、新たな市場を「創出」することへ挑戦した方が、現場も活気づきます。
目指すべき夢があるからです。
自社が有するコア技術をしっかり見極めます。
そうして、挑戦すべき新たな市場を見据えるのです。
そして、現場力を生かす戦略を立てます。
試行錯誤しながら戦略を進めるのです。
そうすれば、進むべき方向性も見えてきます。
軌道修正をしながら、新たな市場の創出を目指すのです。
- コア技術を見極める
- 現場の強みや技術を稼ぐ力へ変換する
この2つがやるべきことです。やってみることで道が開けます。
試行錯誤しながら、現場の強みや技術を稼ぐ力へ変換する仕組みをつくりませんか?