設備を知り尽くしてIoTの準備をする
現場で起きる現象の工学的な因果関係を把握していますか?
1.工学的因果関係の追及
現場で情報通信技術を導入して、使いこなす前提条件があります。
現場で日々起きている現象の工学的な因果関係を整理しておくことです。
これ抜きにIoT(Internet of Things)を導入しても効果は小さいです。
工学的な因果関係を整理して、現象の原因を根本にまで遡り問題の本質を把握します。
問題の本質を理解した上で、探り当てた根本原因を見える化するために活用するのです。
この場合、IoTは、頼りになる極めて強い武器となります。
見える化する項目があいまいな状況では、どうでしょう。
どれほどIoTを強化しても、効果はありません。
得られる情報を活かしようがないからです。
「情報通信技術で見える化する項目の工学的探究」
「工学的因果関係の追求」
これらが、IoTを現場へ導入する前にやるべきことです。
そこで、現場でなぜを5回繰り返します。
現場に定着させたい思考方法です。
2.アメリカのAnalog Devices社
アメリカのAnalog Devices社はアナログ半導体やMEMSセンサーのメーカーです。
同社では、生産現場に多くのセンサーを設置してデータを分析し、品質や生産性の改善に生かす取り組みをしています。
微細なゴミの存在は、半導体の品質に大きな影響を及ぼす要因のひとつです。
クリーンルームの清浄度は「クラス」で表現されます。
半導体工場はクラス1~100。
0.5μm微粒子が1立方フィートのなかに100個以下の場合がクラス100です。
一般的な鋼の切削工程を有する自動車部品工場でクラス10,000~100,000。
そうした一般的な工場よりも、100倍、1,000倍の清浄度が要求されるのが半導体工場です。
クリーンルームへ清浄度の高い空気を送り込むファンモーターに異常が起きると、クリーンルーム内の清浄度が維持できず、品質に影響が出ます。
Analog Devices社では半導体の品質とファンモーターの異常に相関があることを把握していました。
ファンモーターの異常を感知し、品質を維持しようと考えたのです。
そこで、ファンモーターの異常を、モーター回転軸の振動で判断しようと考えました。
具体的には、ファンモーターの回転軸に2つの振動センサーを付けます。
振動センサーのデータを上手く分析できれば、予知保全が可能となるのです。
モーターが故障する前に部品を交換するなど余裕のあるメンテナンス計画を組むことができます。
現場の混乱を引き起こす突発故障を減らせるのです。
半導体の品質とファンモーターの異常に、相関があることを突きとめていたからできる取り組みです。
振動センサーの感度について検討する、データ収集システムを構築する、こうしたことは、工学的な因果関係追求の後です。
(出典:日経ものづくり2016年6月号)
3.設備を知り尽くしていないと工学的な因果関係も見えない
機械加工工場の管理者をやっていた頃の話です。
特殊鋼の棒鋼を切断する精密切断工程がありました。
50mm~80mm程度の寸法に自動切断していきます。
あるとき、出口のシューター部で切断済製品が詰まるトラブルが散発したことがありました。
落差のあるスロープの途中で引っかかる現象が起きていたのです。
調べると切断時に発生したバリが原因でした。
バリが引っかかっていたのです。
もともと、バリの発生を未然に防ぐために、所定の個数を切断したら、切断砥石の交換をすることになっていました。
そしてトラブルが散発した時も、ルール通り交換されていました。
そこで、対応策として、交換頻度を変えたのです。
交換する所定の個数を減らしました。
本来なら、なぜ交換間隔を短くしなければならない状況に陥ったのか、ということを考えねばならないところでした。
ルール通りに交換されていたのに、バリが発生した……。
なぜか?
しかし、その時は、そうしませんでした。
当初ルールで決めた切断砥石の交換頻度よりも短い間隔で、切断砥石を交換すればイイとしてしまいました。
そこで、交換間隔を短くし、交換頻度を増やす標準の変更をして生産を継続したのです。
この対応のお陰で、シュータートラブルがゼロとなり、しばらくはいい感じでしたが、忘れた頃に再発です。
この段階で、やっと、なぜ?ということで、いよいよ切断機の構造からじっくり調べたところ……。
切削油供給装置の切削油噴出口が、細かい切粉の堆積で、
詰まり気味であったことを現場でみつけました。
詰まり気味のため切削油の供給が不安定となっていたのです。
その結果、
1)十分な切削油が切削面に供給されず
2)切断砥石の劣化が当初よりも早まり
3)劣化した切断砥石で切断するとバリが発生
4)スロープで引っかかり
5)シューターが詰まる。
つまり、なぜなぜ分析で言えば3)どまりであったということです。
3)→2)→1)までなぜなぜ分析を深掘りする必要がありました。
ただ、こうしたことは、生産設備を知り尽くしていないとできないことです。
このケースでも、切削油供給装置への理解度が低かったという反省がありました。
その後は、日常点検に、この切削油供給装置のチェックを加えました。
設備を知り尽くしていないと工学的な因果関係も見えないということです。
4.IoTを生かすためモノづくりを極める
今後、10年情報通信技術を生かしたIoTが、どんどん現場へ導入されます。
モノづくりの現場は大きく変化することでしょう。
モノづくりを極めている現場はIoTを活かしてますます生産性を高めます。
モノづくり力や人財力に問題を抱える現場との格差が広がる一方です。
ただし、急がば回れです。
まずは現場の生産技術を知り尽くし、使いつく、しゃぶりつくします。
アメリカのAnalog Devices社は工場にある130台のファンモーターに振動センサーを2個づつ、計260個取り付け、大掛かりに取り組みを始めています。
現場の技術を知り尽くしていればこそ、この規模でのIoTの試行錯誤が可能です。
現場を、生産ラインを、設備を知り尽くします。
まずは、モノづくりの方を極めるのです。
IoTはモノづくり力を強化するものであって、補完するものではありません。
工学的な因果関係を把握する仕組みづくりをしませんか?
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