製造業のQCDにおける設備計画の基本

製造業のQCDにおける設備計画の基本

製造業にとって、QCD(品質〔Quality〕、コスト〔Cost〕、納期〔Delivery〕)は事業の柱ともいうべきものです。

日本のものづくりの中心的存在を担ってきた自動車関連産業にとっても重要です。

また、工場の設備はQCDを実現するための大切なファクターになります。

 

今回は、自動車関連産業を例として、QCDにおける設備計画の基本について紹介します。

企業の業績回復を背景に設備投資意欲上昇

日本政策投資銀行が2014年6月に実施した調査によると、2014年度の国内全産業の設備投資計画は前年比15.1%増と3年連続で増加しました。

製造業と非製造業で見ると、製造業が同18.5%、非製造業が13.2%増となっています。

自動車産業の設備投資は18.6%で、こちらも3年連続の増加。

 

化学産業と並んで製造業でのけん引役となりました。

完成車メーカーが23.2%増と製造業の平均を上回る大幅な設備投資を計画しているのに対し、部品のサプライヤーは13.6%増と増加ではあるものの、平均を下回る鈍い伸びでした。

日本企業は一般的に、設備投資に慎重だと言われています。

 

ただし、ここ数年の円安基調やアベノミクスによる経済の立て直し効果などで、企業の業績は多少回復しています。

日本政策投資銀行も、同調査で自動車産業の設備投資計画が増加傾向にあるのは、期待収益率の上昇が背景にあると指摘しています。

自動車大手8社の2015年3月期決算では、北米で車が売れたことに加え、円安が進んだことでトヨタ自動車やマツダなど大手4社の営業利益と純利益がともに過去最高を記録しました。

 

2012年からの2年間で期待収益率が改善した結果、2008年のリーマンショック以降抑制されていた設備投資計画が再開されたと考えられます。

品質(Quality)向上を背景にした投資が活発

2014年度の自動車産業の設備投資の理由を見ると、「新製品・製品高度化」「研究開発」が合計で約4割と、QCDのうちの品質(Quality)を背景にした投資が活発であることがわかります。

一方で、「能力増強」は1割にとどまりました。

国内設備投資の内容を見ると、燃費性能のよさや経済性から国内販売におけるシェアが伸びているハイブリッド車(HV)と軽自動車関連の「新製品・製品高度化」が増加しています。

 

部品のサプライヤーでも、完成車メーカーの動向と連動して、HV関連の部品や、自動車の電子制御技術の発達でプレゼンスが上昇している電子・電装系、駆動系のパーツでの設備投資が伸びています。

商用車メーカーではグローバル化の波の中で海外拠点でのノックダウン生産も増えていることから、日本国内の拠点はマザー機能と位置づけ、主要部品の集中生産、次世代商品の開発に向けた設備投資を強化しています。

研究開発活動向けの国内設備投資計画では、走行試験などを実施するためのコースなど、大型の設備投資に意向が目立つ結果になっています。

円安と新興国通貨安背景に国内生産回帰

『日本経済新聞』が4月末に発表した2015年度の設備投資動向調査でも、全産業の投資額は14年度実績より10.5%増える見通しです。

増加は6年連続で、3年ぶりに2ケタ成長となりました。

自動車産業を含む製造業は17.3%増と、リーマンショック後から続いた設備投資抑制意向が回復基調に本格的に乗ったことを示すのではないでしょうか。

 

円安と新興国通貨が対米ドル・ユーロで下落していることから、円高の時期に海外に移した生産を、国内に戻す動きもじわりと広がっており、今後も、国内設備投資は伸びるとみられます。

設備投資計画はQCDと密接な関係がある

これらの調査からもわかるとおり、設備投資計画はQCD(品質〔Quality〕、コスト〔Cost〕、納期〔Delivery〕)の3つの柱のどの面をとっても、密接な関係があることがわかります。

老朽化した設備を使い続けていては、消費者が求める高い品質とテクノロジーを備えた新商品は開発できませんし、部品メーカーとしても日進月歩で技術開発が進む完成車メーカーの要求に応えていくことはできないでしょう。

とくに、上記の調査で部品サプライヤーの国内設備投資の内容で上位に上がっていたように、自動運転技術や安全性の向上、GPSを使った通信ネットワークなど、自動車にもデジタル技術が取り入れられたことで、ますます電子・電装系は複雑さを増しています。

 

コストの面でいうと、新規の設備投資は大きな出資を伴いますが、生産の効率化を図り、高い付加価値のある商品を生産できるという面では、結果的にコスト削減につながります。

納期(Delivery)の面でも、最新鋭の設備を導入することで、生産の効率化を図り、納期の短縮につながります。

まとめ

完成車メーカーだけでなく、部品メーカーもティア1、ティア2、ティア3……と無数にあり、裾野の広い産業です。

自動車産業のように多くの関連産業がかかわる製品の場合、一カ所での納期遅れやコスト、品質管理の不全などが、サプライチェーン全体に大きく響いてきます。

QCD(品質〔Quality〕、コスト〔Cost〕、納期〔Delivery〕)を実現するためにも、工場の設備は重要な要素のひとつとなりえます。

 

出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング


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