製造業の環境の変化
明治維新以降、日本のお家芸とされてきた製造業。
しかし、その製造業にも近年、世界的に大きな変化のうねりが押し寄せようとしています。
日本のものづくりの根幹にかかわる変化の「波」について3点に絞って解説します。
グローバル化
近年、日本企業がもっとも深刻にとらえるべき課題は、このグローバル化です。
製造業は以前より製造拠点を海外に移していたため、産業のなかではグローバル化が進んでいる分野といえます。
とくに、2000年以降、日本の製造業は積極的にアジアへ進出しています。
低賃金でかつ多くの従業員を集めやすいアジアは、もはや日本のものづくりには欠かせない地域です。
経済産業省の「ものづくり白書」によると、アジア全体での増加率は、2000年以降で40%以上、中国に至っては2倍以上の伸びを見せています。
さらに昨今では、中国やアジアなどの「新興国」と呼ばれる国々は経済成長が著しく、人口の増加や活発な内需に支えられて、「製造拠点」から「市場」へと変化しています。
販売先として新興国が魅力を増していく中で、現地のニーズをくみ取ることが重要になってきます。
特に、家電や日用品など、日常生活に根差した商品であればあるほど、生活様式や文化、宗教の違いなどに左右されやすく、ニーズをくみ取った商品開発が必要です。
例えば家電。
冷蔵庫を一つとっても、熱帯気候の東南アジアでは、日本よりも大型のものが求められ、ドリンクを保管するスペースが広いものが好まれるなど、違ったニーズがあります。
自動車なら、日本では省燃費の小型車が好まれますが、大家族が多い新興国では、家族全員がいっしょに乗って出かけることができる大型車が好まれます。
また、日本のように舗装された道路ばかりではないので、冠水した道路や山道などの悪路を走れる丈夫さも必要です。
このように、日本では「常識」であるはずのものづくりのセオリーや使用方法が、他国では通じないことが多々あります。
そのため、現地のニーズを研究した製品作りが必要になります。
日本の製造業では、パナソニックが2015年4月に、現地発の家電商品の企画・マーケティングを手掛けるパナソニック アプライアンスアジアパシフィック社をマレーシアに設立。
新興国により近いところで、現地ニーズを汲んだ製品の開発を目指しています。
デジタル化・IT化
第二の波は、デジタル化・IT化です。
デジタル化は、情報通信業界やエレクトロニクス業界以外にも、多くの影響を及ぼしています。
製造業も同様です。
例えば自動車。
かつて自動車に使われるエレクトロニクス技術といえばカーオーディオくらいで、技術力を競うのはもっぱら「走る・停まる・曲がる」などの自動車の基本性能に関わる制御の部分でした。
しかし、昨今では自動車の電子制御システムが発展し、省エネ、安全運転などさまざまな機能で電子化が進んでいます。
また、米グーグルのようなIT企業が、自動運転車を研究するまでになっています。
家電や精密機器も同様です。
かつては、カメラ、電話、録音レコーダー、テレビ、ビデオなど別々の機器が担っていた機能が、いまやスマートフォンやタブレットという手のひらに収まるほどの小型の機械に集約されつつあります。
さらに、「IoT(モノのインターネット)」という考え方が提唱され、家じゅうの家電をインターネットにつなぎ、一元管理する動きも出ています。
これからのものづくりは「ハードウェア」のみの重視ではなく、「ハードウェア+ソフトウェア」を共に考えていく時代です。
そのなかでデジタル化・IT化は避けては通れない時代の流れになっています。
製造プロセスの変化
デジタル化の波は、製造プロセス側にも押し寄せています。
製造プロセスがアナログからデジタルに変化し、コンピューターによる設計や高性能な製造装置が普及し始めています。
例えば、「3次元プリンタ」(アディティブ・マニュファクチャリング技術)。
3次元データを入力すると精度の高い立体的な製品が出来上がるこの技術は、高度な加工技術が不要であるため、ものづくりのプロセスに大きな革命をもたらすのではと期待されています。
一方で、技術革新による弊害もあります。
こうした装置を駆使することで、熟練した技術がなくても、一定水準の製品を作ることが可能になりました。
そうなると、限られたニッチマーケット向けの高価格帯商品は別として、マーケットのボリュームゾーンとなる普及品については、付加価値をつけることが難しくなります。
日本のものづくりにとっては、痛しかゆしといったところでしょう。
製造業の生き残り戦略、ますます厳しく
以上、日本の製造業をとりまく環境変化の波について説明しました。
こうした変化をもとに、日本の主幹産業たる製造業は「コアビジネスの取捨選択」「さらなるコスト削減」「生産性・効率性の向上」など、生き残りをかけた厳しい戦略立案を求められていくことは想像に難くないでしょう。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング