製造業における納期厳守の現状
製造業の基本ともいえる品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)の頭文字をつなげた「QCD」。
今回は、この3つ目の柱である納期(Delivery/Time)の問題を見ていきます。
製造業では、「納期は命よりも重い」という言葉もあるほどです。
特に、日系メーカの部品類は、在庫を極力持たない生産管理がなされていることから、納期厳守は生産管理のかなめともいえるほどです。
組み立て加工業であれば、1つの生産ラインが複数の工場にまたがっていることもあり、1つの工程での納期の遅れが、後々命取りになる可能性もあります。
製造工程が複雑化する中で、納期管理はさらにシビアに
以前からある納期短縮のための手法のひとつとして、フロントローディング(frontloading)手法があります。
製品開発のライフサイクルにて、これまで後工程で行っていた強度解析や干渉チェック、生産技術などの作業を前倒しにして設計段階で進めることで、問題点の早期発見につながり、生産のリードタイム縮小が期待出来ます。
フロントローディングは、1980年代から日本の自動車企業の開発生産性が、欧米企業よりも優位にあった理由のひとつとされています。
開発現場と生産現場が綿密にコミュニケーションを図ることで、スケジュールの遅れやトラブルの発生を防いでいたのです。
ただ、昨今では製造業の生産拠点が海外に移転し、さらにEMS(電子機器の組み立て請負工場)へ生産の一部を委託するなど、製造工程が複雑化する中で、納期管理はさらにシビアに、難しさを増しています。
海外の工場に生産を委託し、納期を厳守させるためのポイントは、細かく進ちょく管理をすることです。
中国などでの生産が決まると、すべて丸投げしてしまうメーカーもありますが、これは危険です。
後々、納期や品質の上でトラブルが発生する可能性があります。
工場を置く国や都市ごとに異なる状況やリスクをきめ細かく把握して状況の変化に即応すること、これが大切になります。
中国の春節など、生産スケジュールが遅れがちになる個別事情なども把握しなくてはいけません。
EMSに対しては、生産ラインのボトルネックを把握するのも重要です。
スケジュール遅延につながりそうな工程は、あらかじめ洗い出しておきたいものです。
納期に間に合わなかった場合は論理的な交渉を
もし納期が遅延した場合、サプライヤーとのあいだにシビアな交渉がもたれることが予想されます。
特に海外企業を相手にする場合、発注側はとにかく感情的になったり、交渉相手に怒鳴ったり、脅迫めいたことを言ってはいけません。
日本ではメーカーとサプライヤーは「お客様と下請け」の関係ですが、海外では「CustomerとSupplier」であり、あくまで対等な関係です。
感情的にならず、是非エンドユーザの事情やビジネスチャンスなどを含めた論理的な説明・説得を交えて、交渉を進めましょう。
多少高コストでも納期をきちんと守る日本企業の姿勢が再評価
最近では、多少高コストでも納期をきちんと守る日本企業の姿勢が、海外でも再評価されるようになっています。
例えば、造船分野。
2015年1月の船舶受注量では、日本が韓国と中国を抜いて、2008年以来6年ぶりに1位に返り咲きました。
さらに、国内造船大手の今治造船が超大型ドックの新設を発表しました。
実に16年ぶりのことです。
今治造船は、台湾の海運会社から、世界最大級となる約2万個積みの超大型コンテナ船を11隻も受注しました。
この全長約400メートル、幅約59メートルという超大型コンテナ船を建造するために、ドッグの新設が必要になったのです。
1980年代までは、日本は世界の造船業界をリードしてきました。
しかし、中国・韓国企業が低コストで猛追をかけた結果、世界一の地位を明け渡すことになってしまいました。
しかし、最近の円安や企業間の統廃合でコスト競争力を高めたことに加え、品質が高く、納期をしっかり守るといった本来のよさを背景に、日本の造船業は復活のきざしを見せはじめています。
期日を守ることがブランド力向上につながる
2011年の東日本大震災の際は、被災地に拠点を構えていた多くの工場も被災し、生産停止や遅延を余儀なくされました。
そうした中、仙台市のあるITベンチャーは、多大な被害を受けながらも、社員の車に商品を積み込み新潟の物流拠点まで運ぶことで、物流を確保し、顧客への納期に間に合わせたといいます。
同社の経営者は、納期を厳守した理由として、小規模の新興企業のためブランドの確立ができていないと述べ、「天災とはいえ、業務が停止してしまうようだと、外部の企業が取引にリスクを感じてしまう」「信用を維持し、向上させるためには、まずは約束を守ることが大事」と話しています。
期日を守るという基本的なことが、ブランド力の向上につながると考えているのです。
以上、品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)のひとつである納期管理の重要性についてお伝えしました。
「期日を守る」というのはシンプルなことですが、製造業のかなめでもあり、企業のブランド力の向上には、かかせないものです。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング