製造業における品質の現状
「メイドインジャパン」といえば、全世界的に高品質の代名詞として知られてきました。
しかし近年、そうした日本製品の品質に変化が訪れているようです。
いったい、日本のものづくりの現場に何が起こっているのでしょうか。
日本製品の質が低下していると感じているエンジニアは約半数
日経BP社の製造業向け雑誌『日経ものづくり』は、リーマンショックの影響もまだ冷めきれなかった2009年11月~12月に、「日本製品の品質」を調べるため、エンジニアを主として対象にした調査を実施し、1361の有効回答を得ました。
その結果、日本製品の質が「非常に低下していると感じる」と「どちらかというと低下していると感じる」の「低下派」の合計は47.8%と約半数にも上りました。
「低下している」と感じている技術者にその原因をどう分析するか聞いたところ、1位が「コスト削減のために開発費の抑制や生産設備の更新延期などが実施されている」が58%、2位「開発/設計のための人員が削減された」が46.8%となりました(回答は複数回答)。
ほかにも「熟練作業者が減って作業者のスキルが低下している」「設計者のスキルが全体的に低下している」「開発期間が短縮されて十分な検討時間がなくなっている」「製造の人員が削減された」「生産拠点が海外に移転し、現地の作業者の教育が難しい」といった、現代の製造業ならではの回答が並んでいます。
約6年前の調査ですが、大手メーカーのリコールが相次ぐ現在も状況は同じ、もしくは深刻化しているかもしれません。
製品の質は、従業員の雇用と密接に結びつく
なぜこうした事態が起きているかというと、やはりアンケートの回答上位にあるコストダウンの影響でしょう。
「人員削減」「熟練技術者の減少」などの雇用環境の変化や、組み立て加工業を始めとする海外への生産拠点の移転もコストダウンの一環です。
日本製品の高クオリティは、従業員の雇用と強く結びついてきた面があります。
かつて、戦後の日本企業は、従業員と会社が家族のように一体になり、終身雇用を前提としてものづくりにあたってきました。
その結果、会社への忠誠心や製品への誇りが高まり、QC活動のようなボトムアップからの現場改善に支えられ、品質を維持してきたのです。
しかし、国内景気の長引く低迷や新興国メーカーの追い上げなど、競争が世界規模で激化する中で、これまでのように大多数の従業員を正社員として好待遇を与え、家族のように一体となってやっていくのは難しくなってきました。
派遣労働者、パート、業務委託などの非正規雇用者や外国人などを雇って人件費の削減を図った結果、安全性においても品質に関しても、認識や知識を十分に持っていない人たちが現場の大多数を占めるようになり、作業者の環境が変わってきているのです。
組み立て加工業のように、複数の生産拠点にまたがって製造を行っている場合など、この傾向はさらに顕著になるでしょう。
加えて、これまでものづくりの現場を支えてきた団塊の世代が定年を迎えていることで、こうした傾向はさらに強まると考えられます。
働き方が多様化する中でも、現場重視は変えるべきではない
働き方が多様化するなかでは、昔のような会社への忠誠心や製品への誇りを従業員に要求するのは難しくなります。
また、「生産拠点が海外に移転し、現地の作業者の教育が難しい」という回答に見られるように、もともと働き方の価値観が異なる海外の従業員に、日本式の労働習慣と品質維持を教えるのは容易なことではありません。
しかし、製品の質がしっかりしている企業はやはり現場を重視し、コストがかかっても人材育成や技能の伝承に、時間とお金をかけています。
足元は多少コストが余計にかかっても、従業員のモチベーションやレベルを上げることで、作業を楽にするためのいろいろな提案が出てきたり、生産ラインのレイアウトの改善が実施されたりした結果、生産量が増えて生産性が上がるからです。
トータルに見れば、人材育成にかけた分のコストはペイしているといえます。
失われた技術は二度と取り戻せない
製造業は、「失われた技術は二度と取り戻せない」ということを肝に銘じておかなくてはいけません。
バブル崩壊後の失われた20年の中で、「構造改革」や「コスト削減」の名のもとにこれまで日本製品のクオリティを担ってきた技術者を冷遇した結果、優秀な技術者が伸び盛りの新興国企業に流出し、日本企業を追い上げる結果となりました。
終身雇用の崩壊で将来に不安を感じた、または開発の抑制で思うような研究ができなくなった技術者が、高額の報酬で他国に引き抜かれていきました。
こうした技術系人材の流出も、日本製品の質が低下している理由のひとつと考えられます。
製品のクオリティの維持には、現場の力が欠かせません。
マネジメントの現場を見る力、現場の課題を見抜く力と、現場のリーダーシップの双方があるからこそ、製品のクオリティを高めていくことができるのです。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング