製造業におけるコスト削減の現状
製造業において、利益を伸ばすには、2つの方法があります。
1つは売り上げを伸ばすこと、もう1つは製造にかかるコストを削減することです。
日本企業では生産設備が有効に活用されず、収益を生みだしていない
日本企業は、長引く景気低迷の中で、コストダウンに取り組んできました。
既に限界という声も聞こえています。
製造業は、設備投資による生産性の向上や、研究開発による技術水準の向上で、収益性を高めていく必要があります。
しかし、内閣府の「平成25年度年次経済財政報告」によると、日本企業の生産設備ROA(総資産利益率:株主資本と負債の合計である総資産に対する利益の比率)は、ドイツ、フランスに比べると大企業、中小企業ともに、低い水準にとどまっています。
これは、企業の有形固定資産である生産設備が有効に活用されず、収益を生み出していないということです。
その理由の一つに、設備投資の抑制による機械の使用年数の長期化が挙げられます。
長引く不景気のなかで「コスト削減」を図った結果、最新の機械を導入するための設備投資が行われず、生産効率を落としているのです。
1990年時点から各国の機械の使用年数上昇幅を比較すると、日本企業はアメリカやドイツに比べて急速に上昇しており、生産設備の老朽化が進んでいることがわかります。
また、新たな収益を生む源泉を育てるための研究開発費が収益に与える効果(研究開発効率)も日本企業はアメリカ、ドイツに比べて低くなっています。
こうした結果、以前紹介したように、企業の収益性を測る指標の一つであるROAをアメリカ、ドイツの企業と比較した場合、日本企業は彼らの約半分~3分の1にとどまっており日本企業の収益性は、国際的に比較して驚くほど低くなっています。
とくに、事業規模の小さい中小企業ほど開きは大きくなっています。
同報告書では、製造業の売上高に占める売上原価の比率を同じようにアメリカ、ドイツと比較した場合、売り上げに占める原料・部品の費用や労務費、輸送コストなどからなる売上原価の割合が高く、日本企業では、原価が利益を圧迫している構造になっていることもわかっています。
原価(製造原価)は、材料費、労務費、経費の3つから構成されています。
原価を低減することでコストダウンを図るためには、それぞれについてどのような比率でどのような金額になっているかを監視していく必要があります。
しかし、上記の調査を見ていると、これまで「コストダウン」の名のもとに、本来なら利益を伸ばすために必要な投資まで削られている現状が見えてくるのではないでしょうか。
誤ったコストダウンをしないために
コストダウンを実施するために陥りやすい罠は、所管部門の観点からだけ見た部分最適的なコストダウンになりやすいという点です。
組み立て加工業などの製造業にとって現場はもっとも重視すべきですが、企業の利益率向上のためのコストダウンを考える際は、現場にのみ責任を押し付けるのではなく、企業全体を通じた全体最適を考えなくてはいけません。
イスラエル人の物理学者ゴールドラット博士が唱えた経営管理理論であるTOC(Theory Of Constraints:制約条件理論)では、実践アプローチの最初の手段として「スループット会計」が挙げられています。
スループット会計の「スループット」とは、企業の売上額から当該企業が外部から購入した分の費用を引いたものを表わします。
流通業では「売上総利益(粗利)」を指すが、製造業では「売上総利益」ではなく会計用語の「付加価値」に近い考え方です。
ただし、スループットでは、外部から購入した事務用品や広告宣伝費、交際費などを作業費の一環として処理します。
スループットの考え方を用いたマネジメントの基本は、利益を生み出すために作業経費を上回るスループットを上げ続けることです。
こうすると、スループットは結局利益なのだから、利益管理をすればよいという意見が出てくるかもしれません。
しかし、財務部門から出てきた利益の数字だけを管理していると、日々の数字だけを見て業績を判断する「肌感覚」に陥りやすいものです。
スループットと作業経費のバランスを見ることで、こうした感覚的な論評や議論を排除することにつながっていくのが目的の一つです。
スループットを増やすために
スループットは売上高と外部購入費の差額なので、スループットを増やすには、売り上げを上げるか、外注経費を減らすかという選択になります。
生産部門(工場)の役割としては、主に後者のほうになります。
外注費の削減には、外部調達費を安くするか、内製化を進めるかという2つが選択肢になります。
コスト削減を進める中で、調達部門の効率化を進めていなかったという場合は、まず前者に手を付ければよいですが、コスト削減効果としては後者のほうが大きくなります。
ただ、スループットを増やすために人件費や作業経費を増やしては意味がないので、同時に生産管理を強化し、効率化を進める必要があります。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング