製造業でのQCDの生産性指標とは
企業の浮沈は、顧客が要求する水準でのQCD(品質 〔Quality〕、コスト 〔Cost〕、納期 〔Delivery〕)が実現できるかにかかっているといっても過言ではありません。
自動車業界の場合の顧客とは、完成車メーカーなら消費者、部品のサプライヤーであれば何次請けかによって違いはありますが、最終的には完成車メーカーということになるでしょう。
製造業でプロジェクトを管理する場合の観点となるのはQCDであり、コストに直結していく工数がQCDを実現するためのカギであるという説明は別の項でしました。
今回は、製造業の指標のひとつである「生産性」とQCDの関係について自動車業界を例として説明します。
「生産性(Productivity)」とは、投入量と産出量の比率
公益財団法人日本生産性本部によると、「生産性(Productivity)」とは、投入量と産出量の比率のことをいいます。
投入量の指標となるものには、労働、資本、土地、原料、燃料、機械設備など、産出量の指標となるものには、生産量、生産額、売上高、付加価値、国内総生産(GDP)などがあります。
投入した量に対して産出した量が多ければ多いほど生産性が高いことになり、製造業としてはひとつの理想的な状態といえるでしょう。
通常、生産性というと労働を投入量として産出量との比率を算出した「労働生産性(Labour Productivity)」を指すことがほとんどです。
これは、労働者1人1時間あたりの生産性のことをいいます。
ほかに、資本を投入量とする「資本生産性(Capital Productivity)」や労働や資本を含むすべての生産要素を投入量とした場合の「全要素生産性(Total Factor Productivity)」などがあります。
日本の生産性運動は1955年から
第2次世界大戦後、欧米諸国のあいだで生活の質の向上を目的に、生産性運動が起こりました。
生産性を上げることでコストを下げて企業の利益を最大限に引き出し、株主や従業員といったステークホルダーに還元させ、国民の生活水準と所得の増大を目指していくというムーブメントです。
じつに、株主重視型の欧米らしい考え方といえます。
一方日本では、1955年に日本生産性本部が発足。
当時の生産性運動は「資源、労働、 設備を有効かつ科学的に活用して生産コストを引き下げ、それにより市場の拡大、雇用の増大、実質賃金 ならびに生活水準の向上を図り、労使および一般消費者の共同の利益を増進させる」ことを目的としており「生産性運動に関する3原則」が制定されました。
その3原則とは、
1.雇用の維持・拡大
2.労使の協力と協議
3.成果の公正配分
です。欧米の活動と根本的な部分は同じですが、雇用の維持や労使の協議など従業員に最大限配慮をしているあたり、自動車産業を筆頭に終身雇用を前提として社員を家族のように扱ってきた日本らしい考え方だといえます。
QCDは製造業企業の製造現場での競争力を測るものさし
企業の競争力を測るものさしとして、4Pとよばれる「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「プロモーション(Promotion)」の4点がありますが、これらは主にマーケティング側から見た指標です。
一方で、QCD(品質 〔Quality〕、コスト 〔Cost〕、納期 〔Delivery〕)は、最終的な顧客である消費者には見えませんが、製造業企業の製造現場での競争力を測るものさしだといえます。
この製造現場での競争力たるQCDを高めていくには、工場での生産性の向上がカギになります。
そのために、設備のレイアウト、従業員の組織づくり、作業配分の方法、工程管理から、生産の状況によって異なる原材料費、運搬費といった変動費、従業員の給与などの人件費、管理費等といった固定費まで、すべてを見直していく必要があります。
ただ、QCDはもぐらたたきのようにひとつずつの要素だけを達成していけばいいというものではありません。例えば、品質を実現するために工数を増やした場合、コストと納期が圧迫されます。
納期やコストを優先して工数を設定すると、品質がおろそかになるかもしれません。
こうした要素間でのトレードオフが起こらないようにしていくのが理想的な状態です。
品質改善(Q)とコスト改善(C)と開発期間(D)の削減をばらばらに考えると、それだけコストがかかって生産性が落ちます。
そこで取り入れていきたいのが、タグチメソッドとも呼ばれる品質工学の考え方です。
損失とコストの合計を最小として、開発の生産性を上げる
品質工学とは、元青山学院教授で工学者の田口 玄一氏が提唱した技術開発・新製品開発を効率的に行う開発技法です。
品質工学の導入によって「米国自動車工業会を蘇らせた男」と称されるほどの尊敬を集めており、自動車業界の発展はその存在抜きには語れないほどです。
品質工学では、モノづくりにかかる全体のコストを「社会的損失」と定義し、投資コスト(固定費や変動費)と損失コスト(故障や劣化で品質がばらつくことによって生ずるコストやクレーム発生の弊害など)の和で表します。
損失とコストの合計を最小とすることができる製造工程を作り上げれば、開発が効率的になるとする考え方です。
開発の生産性を高めて、余った技術者を新しい技術開発に向ける仕組みを作り上げることが、経営者の本質なのです。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング