製薬会社におけるQCDの優先順位とバランス

製薬会社におけるQCDの優先順位とバランス

製造業全般においてQCDを重視することは、一般的な常識として定着しています。

ただし、さまざまな業種・販売戦略・社風によってどの項目を重視するか、優先順位を決めて運用していくかはさまざまです。

ここでは、製薬会社全般における一般的な優先バランスについて考察を交えて論じます。

 

これは製薬業界に関わらず、製造業全般にもつながることと捉えています。

QCDに関しては、ビジネスの分野全体でいろいろな論議がなされているので、考え方の一つとして捉えてください。

1. 品質を重視することの重要性

製薬会社は薬品の品質重視は当たり前のことです。

安全で安心できるお薬を、医療機関や消費者の元へ届ける使命の元に仕事を行っています。

クオリティの向上のために、さまざまな監視装置を導入することや、新しい機能を備えた工場の増設、研究機関の整備などの設備投資を進めても、薬品のニーズは限られています。

 

そのため、販売する商品に対し設備投資をした価格を転嫁せざるを得なくなってしまいます。

良い薬であれば、薬価も高くなってしまうという図式は明らかです。

しかし専売品ではありませんので、他社が企業努力によってあらゆる成功があったときに、販売競争に負けてしまうことが容易に考えられます。

 

品質が良くとも、薬効が認められないものや、あらゆる理由が先行してしまい服用しにくい薬品、ニーズがあるときに入手困難な商品であれば意味はありません。

これらのデメリットなどを解消していくことは大切な要素となります。

その他にも、衛生環境が整った設備を整備することや、製造に関わる従業員の衛生観念の向上、ヒヤリハット情報の共有や改善運動などは、企業全体として取り組んでいく必要があります。

 

もちろん、単調な作業の中にも変化をもたらしていくことも求められます。

2. コストを重視のメリット

低コストで提供できる医薬品のメリットは、製造段階での経費削減にもつながりますし、薬価に転嫁させる経費も少なくなり、安価で提供できるようになります。

ただし、医薬品の製造は、国に承認を得た製造プロセスを経て生産することが義務付けられています。

安易に低コストを目指すべく添加物を入れることや、プロセスを変更する、割愛するといったことは法律上行えません。

 

製薬会社では、特許が切れた薬をジェネリック医薬品として製造を行うこともありますし、同等の効能が期待できかつコストを重視した薬を開発するために研究を重ねているところもあります。

今後もジェネリック薬のシェアが高まることが予想されますので、安価な薬の供給はこれからも求められるようになるでしょう。

しかし、日本人には「安かろう悪かろう」といった価値観を持つ方も多く、企業努力によって安価な薬が提供できるようになったとしても、購入層が薄くなってしまったという結果を招くことも考えられます。

 

ジェネリック医薬品に関しては、業界団体の働きかけによって私たちの生活に浸透しつつありますが、まだまだ低価格の医薬品を手軽に購入できる時代には程遠いと考えることができます。

3. 納期重視も大切

やはり、消費者側のニーズを重視することは大切で、企業が「Delivery(配送・納期)」を重視することも必要不可欠です。

配送専用倉庫を持つことや独自の輸送ルートを確保することのほか、受注センターなどのシステムを確立させて的確に発送できるような工夫を行うことが求められています。

ただし、過剰在庫を置くことは品質劣化を招く要因となりますし、迅速な配送が叶ったとしても、輸送中の破損や汚損、品質劣化が目立つような雑なものになっては元も子もありません。

 

逆に薬品の品質を落とさないよう、輸送に必要以上のコストをかけることがあっても意味をなしえません。

また、薬品においてはある程度供給のバランスを保つことも大切であり、過剰生産も難しい問題として捉えられますし、ニーズに対し100%またはそれ以上の供給体制を図っていくと、不正利用などにつながることも予想されます。

そのため企業に対して、「Delivery」の段階で、ある程度の供給バランスが保てるよう調整を行うことが求められます。

4. バランスがとても大切である

製薬会社におけるQCD意識の向上に関して、どれか一つが抜きんでてもデメリットが先行してしまうという結果に陥ります。

均衡を保つことを基本とし、企業戦略としてどのような項目を重視するかを見極めていくことが求められるでしょう。

また、販売商品によってQCDの重視項目を変えていく必要が生じることも考えられます。

 

新薬開発や既存医薬品に対する研究、消費者レベルでのニーズや販売成果、業績などを総合的に鑑みて、さまざまな戦略を投じることや、均衡策を講じていく必要があるでしょう。

薬品は品質・コスト・納期、どれも逃すことはできない商品です。

その中で、難しい問題となりうることですが、私たちの健康や安全を守る大切なものです。

 

より多くの改善策が実現できるよう企業レベルでの日々の努力が求められます。

改善を行いながら企業内の業務提携や、新しい分野の業務開拓、企業内の生産性の向上が望まれます。

出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング


20年以上のサポート経験から培ったスキル・ノウハウを基に、富士通マーケティングの先進の製造業サポート推進チームが、日本の製造業の動向や現状の課題を紹介していきます。 基本のQCDや環境、安全など、毎週、旬なトピックスを展開します。