製薬会社でプロセス改善を行うためのステップ
2014年夏、厚生労働省が大手製薬会社のノバルティスファーマに対し、重大な副作用の報告を怠っていたとして、業務改善命令を下しました。
副作用報告義務違反による製薬会社への行政処分は初めての事例として、注目を集めました。
患者さんに安心して医薬品を使用してもらうために安全性を追求すべき製薬会社にとって、副作用の情報は最優先事項です。
国民の健康被害を防ぐ企業からの副作用等の報告制度
薬事法では、製薬企業に対して以下のように報告を義務付けています。
『第七十七条の四の二 医薬品、医薬部外品、化粧品若しくは医療機器の製造販売業者又は外国特例承認取得者は、その製造販売をし、又は承認を受けた医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害又は死亡の発生、当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生その他の医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省令で定めるものを知ったときは、その旨を厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に報告しなければならない。』
この薬事法77条の4の2は、「企業からの副作用等の報告制度」とも呼ばれており、その趣旨は製薬会社に自社製品の品質、有効性、安全性に関する情報を収集することを求め、国民の健康被害を防ぐことにあります。
副作用報告違反は、一社にとどまらない製薬業界全体の問題か
一方で、ノバルティスファーマは平成14年から、自社のさまざまな医薬品による患者の副作用情報を安全性の評価を検討せずに放置し、その数が1万件に達していたことも判明しています。
2015年の9月には、厚生労働省が大手製薬会社のファイザーに対して、業務改善命令を出す方針を打ち出しています。
こちらも重大な副作用の報告を怠っていたためで、ファイザーは210件以上の報告を遅滞し、中には6年半にわたって未報告だったケースもあったといいます。
このように、副作用報告違反は、一社にとどまらない製薬業界全体の問題という可能性が高まっています。
業務プロセス改善のために電子化を推進せよ
こうした不祥事を防ぐための業務プロセス改善のためのステップのひとつに、業務の電子化があります。
多くの製薬会社では、業務でパソコンやデジタルデータを使用していても、書類の原本は紙ということが多くなっています。
これは一般的に、紙の方がデータなどの改ざんが難しいと考えられているためですが、実際には紙ベースの書類であっても、データの改ざん事件は起きています。
また、新薬の開発には、原材料の探索から動物を使った実験、治験と呼ばれる臨床実験を経て、有効性を実証できれば新薬の承認申請を行います。
申請してから承認されるまで2〜4年かかることもざらで、その後の市場投入、市販後調査まで含めると、15年〜20年がかりとなることも珍しくありません。
こうした長期間にわたって、新薬開発に関わる部署やすべての人々が適切に紙のデータを保管し、取り扱うための文書管理基準を一定に保つことはほぼ不可能に近いといえるでしょう。
そうした中で、先に挙げたノバルティスファーマやファイザーのような事例も発生したと考えられます。
人間は悪意がなくてもミスをするものだという前提で、システムの構築をしていく必要があります。
厚生労働省は、電子データ利用の指針をすでに公表
厚生労働省は2005年に「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等に関する電磁的記録・電子署名利用のための指針」(ER/ES指針)を公表しており、この指針に沿っていれば電子記録・電子署名を原本としてよいことになっています。
一方で、薬事法では、製薬業界が使用するコンピュータシステムについて、正しく開発され運用されていることを証明するための厳格なコンピュータ管理、すなわち「Computerized System Validation」(CSV)が求められています。
製薬業界では、コンピュータシステムが医薬品の品質に影響を与える可能性が大きいことから、CSVは薬事法の管理下に置かれています。
ただ、このCSVの運用は簡単ではありません。
CSVは品質基準および規制に適合させるための取り組みであることから、製薬会社の社内では品質評価部門が請け負うケースが多くみられます。
しかし、残念ながら品質評価部門にはITに精通している人材が欠落していることもしばしばあります。
その反対に、IT部門は薬事法やバリデーションなど医薬品規制に関する知識に通じた人材が少ないのが実情です。
そのため製薬会社が電子化・システム化を進めるにあたって、医薬品規制とITの両方に通じ、CSVを推進できる人材の育成が急務になっています。
まとめ
以上、製薬会社における昨今の業務リスクや、業務プロセスを改善するための取り組みなどについてみてきました。
研究開発開始から市場投入、市販後の調査まで15年〜20年がかりとなることも珍しくない新薬開発の現場において、業務の透明性や統一性を図るためにも、業務プロセスの改善は欠かせない取り組みといえます。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング