自動車関連の製造業の現場から考えるQCD

自動車関連の製造業の現場から考えるQCD

QCDとは、「品質(Quality)」「価格(Cost)」「納期(Delivery/Time)」の頭文字で、製造業での経営の根幹ともなるものです。

「QCD」を適切に管理することで、生産目標を達成できるのです。

今回は、国内製造業の主力である自動車関連産業の現場から見たQCDの在り方について考えていきます。

QCD不全がサプライチェーン全体の停滞を招く

自動車産業には、完成車メーカーだけでなく、部品を供給するメーカーも数多く関係しており、その中でもさらに一次サプライヤー、二次サプライヤー……とさまざまにひしめいています。

そのため、一カ所での納期遅れやコスト、品質管理の不全などが、サプライチェーン全体に大きく響いてきます。

自動車業界でQCDが重視されるようになったのは、1970年代以降です。

 

高度経済成長期~バブル期にかけて、自動車を筆頭にモノがどんどん売れた時代。

企業は生産しても生産しても在庫が追い付かないという嬉しい悲鳴を上げていました。

品質の良いものを適切なコストで製造するだけでなく、適切な在庫を適切に納めるため、流通業にも革新が求められ、QCDのうち「納期(Delivery/Time)」の改革も進んでいきました。

しがらみや前例とは無縁、ゴーン社長の日産改革

自動車業界でのQCD改革の例の一つとして、日産自動車があります。

日産自動車は日本を代表する自動車メーカーのひとつですが、バブル期以降に続いた慢性的な販売不振により、2兆円あまりの有利子債務を抱え倒産寸前の経営状態となり、1999年3月にフランスの自動車メーカー・ルノーの傘下に入ることになりました。

当時の日本人社長は解任され、親会社となったルノーからは、同社副社長のカルロス・ゴーン氏が新たな最高経営責任者(CEO)として送り込まれました。

 

ゴーン氏はレバノン系のブラジル人。

日本企業にありがちなしがらみや前例とは無縁の存在ですから、どんどんとその手腕を発揮し、社内改革を進めていきました。

その代表的なものが「日産・リバイバル・プラン(NRP)」と呼ばれる経営改革です。

 

その結果、日産はなんと1年で黒字化に成功したのです。

NRPの策定当時、ゴーン氏は日産立て直しのキーとなる製造現場や系列企業などに、早朝から夜中まで直接足を運び、現場を見て回りました。

ゴーン氏は、改革のキーワードに「現場は利益を生む源泉である」と掲げています。

日産改革、ゴーン氏が指摘する5つの問題点

ゴーン氏は、NRPによる改革前の日産の問題点を以下のように指摘しています。

 

1.収益を生まない仕事が多数行われていた。

2.顧客志向が不足する一方で、過度に同業他社の動向にとらわれていた。この結果、内向きの責任回避の行動が起きた。新車開発にも長い時間をかけたわりに、特徴のないダサい車ばかりになっていた。

3.企業が倒産するという危機感が不足しており、期限と目標を完全に達成するというコミットメントにかけていた。

4.部門や職制、地域や、系列、階層を超えて社内一丸となって経営改革に臨むための組織作りが出来ていなかった。

5.中期経営計画や企業ビジョンと日々の事業活動の関連付けができていなかった。

 

3.の目標達成に対するコミットメントは、まさにQCDの「納期(Delivery/Time)」にあたるものですが、ゴーン社長自身、「1年で経営改革が達成できなかったら、自身と役員は引き上げる」とコミットメントし、実際に達成しています。

ルノーの中期経営計画でのQCD強化に、日産の協力欠かせず

日産の親会社となったルノーも、提携後まもない2002年に掲げた中長期での経営計画「利益ある成長戦略 (A strategy of profitable growth)」のなかで、QCDの強化を掲げています。

とくにこのQCDと国際展開の拡大については、日産との提携・協力が重要な役割を期待されていました。

具体的には以下のような取り組みです。

 

1.日産と共同で、品質向上に取り組むタスク・フォースを立ち上げる。セグメントB、C、D/E の開発で共同プラットフォームを設立。2010年までに両社で共有するエンジンの基本タイプ数を8、トランスミッションを7に削減する。

2.日産との共同購買、共同プラットフォームの開発、エンジン・トランスミッションの統合で、購買と生産の効率性を高める。共同購買率は70%までに引き上げる。

3.2003年末までに、車両1台当たりの生産時間を12時間に短縮する。

4.ルノー・日産インフォメーションサービスを2002年に立ち上げ、システム基本モデル構築、アプリケーションシステム、 システムインフラ等7つの分野でのシナジー創出を目指す。

製造ノウハウを通じ、他社にもコンサルティング

こうしたルノーとの提携や経営改革によって、日産の製造ノウハウを凝縮した生産方式「NPW (Nissan Production Way)」は、製造業の経営改革手法のひとつとして、他業種企業の業務革新を支援するコンサルティングサービスを行うまでになっています。

日産の例を通じて、自動車関連の製造業の現場にとってのQCDの重要性が改めて認識できるのではないでしょうか。

 

出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング


20年以上のサポート経験から培ったスキル・ノウハウを基に、富士通マーケティングの先進の製造業サポート推進チームが、日本の製造業の動向や現状の課題を紹介していきます。 基本のQCDや環境、安全など、毎週、旬なトピックスを展開します。