自動車関連の製造業でのQCDの変移
QCDは「品質 (Quality)、コスト (Cost)、納期 (Delivery/Time)」の頭文字であり、製造業にとって柱ともいうべき要素となっています。
製造業では、品質管理部門・生産技術部門・製造部門を置き、各部門はQCDの達成に向けた責任を果たしています。
今回は、このQCDについて、特に自動車関連の製造業との関わりについて見ていきましょう。
生産技術の考え方は19世紀のアメリカで生まれた
QCDの基礎となる科学的な生産管理の手法は、19世紀のアメリカでフレデリック・W・テイラーによって提唱されました。
製品ごとの原価を決定するという、現在の工程設計による標準工数の設定に似た手法です。
この手法は、今日までほぼすべての製造業で取り入れられています。
20世紀に入り、アメリカの自動車メーカー・フォードは、自動車の組み立て生産にベルトコンベアを使ったライン生産方式を取り入れました。
フォード生産システムとも呼ばれるこの手法の登場で、熟練工の技術に頼らずとも大量生産が可能になり、一つ一つの作業を効率化することで生産性は飛躍的にアップしました。
日本に生産技術の考え方が持ち込まれたのは、明治時代です。
明治維新とともに始まった富国強兵・殖産興業政策のもとで、先日世界遺産にも認定された富岡製糸場などの近代的な国営工場が設立されました。
しかしこれらの運営は「お雇い外国人」として政府に雇われた欧米人が行っており、日本人の技術者に生産技術が移転されるまでには時間がかかりました。
明治の実業家、渋沢栄一は日本の製造業の発展のために、イギリスに留学していた山辺丈夫に対し、工場経営について学ぶよう命じました。
山辺はイギリス・マンチェスターの紡績工場で1年間の経験を積んだあと帰国し、大阪で紡績工場を立ち上げました。
山辺やほかの留学経験者が持ち帰った知識をもとに、「生産」「技術」「作業」「検査」「経営」「工数」といった言葉が生み出され、ようやく日本人が日本語で生産技術の考え方を理解する時代となりました。
その後、戦時中は船舶製造業界の隆盛のもとでフォード式の生産システムが取り入れられるようになり、戦後の高度経済成長期に続いていきます。
品質管理の日本への導入は1950年代から
一方、生産管理のもうひとつの柱であるQC(品質管理)の考え方は、18世紀にアメリカで生まれました。
大量生産された部品や製品のうち、一定の基準に達していないものを不良品として扱い、廃棄するというものです。
その後、アメリカのウォルター・シューハートがこの考え方を体系的にまとめ、「QC」として提唱し始めます。
日本には、1950年にアメリカから、品質管理の第一人者たるW・エドワード・デミング博士が招かれ、統計的品質管理の指導を行い、品質マネジメントの重要性を説きます。
それまでの日本製品といえば、「値段は安いけど、品質はそこそこ」ちょうどいまの新興国の製品のような扱いで、高品質とは程遠いものでした。
翌51年に、同博士が寄付した講演録の印税を契機として、「デミング賞」が創設されます。
この賞は現在まで続いており、デミング賞大賞(旧:日本品質管理賞)、デミング賞本賞、デミング賞(旧:デミング賞実施賞)が設けられています。
さらに、デミング賞には実施賞、中小企業賞、事業部賞、事業所表彰にわかれており、日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車も受賞しています。
最近では日本企業だけでなく、インドのタタ・スチール、マヒンドラ アンド マヒンドラ、タイのタイ・アクリリック・ファイバー、台湾の台湾フィリップスなどの海外企業も受賞しています。
企業の在り方が変わる中での品質管理
日本企業は戦後、終身雇用制のなかで、社員と会社がひとつの家族のようになり、一蓮托生でその歩みを進めてきました。
そうしたなかで、実際に製品を作っている人も品質管理・生産管理に参加する「QCサークル活動」などの活動が生まれました。
全員が一丸となって、「良い製品を生み出す」というひとつの目標に向かうこうした活動は、従業員は家族のように扱う日本式の企業経営があってこそのものでした。
しかし、バブル期以降、企業の在り方は変わってきています。
正社員での終身雇用が前提だったものが、派遣労働者や契約社員など短期間で入れ替わる労働者が増加しています。
QCはボトムアップが基本ですから、末端で働く人までその考え方が根付いていなくてはいけません。
また、そのためには長い時間と根気が必要になります。
しかし、現在の多様化する雇用環境では、会社への忠誠心を生むのは容易ではありません。
海外生産の増加でどうやってQCDを達成するか
また、昨今の製造業が直面する課題として、海外生産拠点への移転があります。
日本の自動車メーカーの海外生産は70年代末から徐々に本格化し、完成車メーカーの移転に伴って、部品メーカーも海外生産が増加しました。
日系完成車メーカーでの部品現地調達率は、2000年代には40%超~80%に達しているとされており、取引先である地場サプライヤーや現地工場で働く従業員に対しても、品質管理や生産管理の考え方を根付かせていかなくてはいけません。
労働習慣や文化の異なる人々にどうやって理解してもらうか。
さらに、どのように品質を高めていくのか。
日本の製造業でのQCDは、現在まさに岐路に立っています。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング