自動車関連の製造業でのQCDの品質工学の考え方

自動車関連の製造業でのQCDの品質工学の考え方

品質工学とは、元青山学院教授で工学者の田口 玄一氏が提唱した技術開発・新製品開発を効率的に行う開発技法です。

考案者の名をとって海外では「タグチ・メソッド(TM)」と呼ばれており、この呼び名の方が一般的になっています。

田口氏は、品質工学の導入によって「米国自動車工業会を蘇らせた男」と称されるほどの尊敬を集め、その功績は高く評価されています。

 

米国自動車産業に貢献し、米国経済・社会の発展に寄与した人に贈られる「米国自動車殿堂」に、本田宗一郎(ホンダの創業者)、豊田英二(トヨタ中興の祖)に次ぐ日本人3人目として選ばれています。

品質とは、品物が出荷後に社会に与える損失

「品質工学」は、QCDにおける「品質管理」と混同しがちですが、似て非なるものです。

品質工学を一言で説明すると、「不具合を発生しないように事前に手を打っておくための評価技術」ということになります。

評価技術とは、開発した技術を用いて製造した製品を市場に出してよいかどうか判断するための技法です。

 

品質工学は、主に3つの分野で構成されます。

 

1.オフライン品質工学

研究・開発段階における品質工学です。開発費用と開発期間の短縮、品質改善を目的としています。

2.オンライン品質工学

製造段階における品質工学です。目的はコスト削減と品質改善です。

3.MTシステム

パターン認識を必要とする段階で活用される品質工学です。目的は検査の精度向上や工程の省力化です。

 

田口氏は、「品質とは、品物が出荷後に社会に与える損失である」と定義しました。

たとえば、新しい自動車技術を開発したとして、それが市場に投入されたあとに不具合が見つかりリコール対象となれば、ディーラーへの連絡から新品交換までにかかる費用などが「損失」となります。

田口氏は、この損失を具体的に「損失関数」という形にして表し、金額で表わされる損失とコストの合計を最小とすることができる製造工程を作り上げれば、開発が効率的になるとする考え方を示しました。

 

これが「オンライン品質工学」と呼ばれるものです。

一方、オフライン品質工学では、パラメータ設計により、品質とコストの両面から最適な設計定数を割り出し、開発期間の短縮とコスト削減を図ります。

また、MTシステムでは、パターン認識により通常と異なる製品を検出/排除することでクレーム等の品質問題の削減に有効に活用されています。

トヨタでも品質工学の導入は2006年から

自動車メーカーのなかでも、QC(品質管理活動)の代名詞的存在ともいえるトヨタ自動車。

SQC(統計的品質管理)の導入は戦後間もない1949年に行われましたら、品質工学の導入はなんと2006年からと実に半世紀以上も遅れて導入されています。

現在、自動車メーカーはトヨタのほか、日産自動車、マツダ、いすず、三菱自動車、ダイハツ、三菱ふそうなどが、品質工学を取り入れています。

 

品質工学が積極的に取り入れられるようになった背景には、従来の設計→試作→評価→改良というプロセスだと、製品の品質を維持するために品質試験を手厚く行う必要があり、品質試験と品質対策に、多くの工数と費用が費やされることがわかったからです。

設計段階での手戻りが多発して設計が変更されると、工数が増える上に見逃された不具合が市場に出てしまう可能性が高まります。

その点、品質工学を導入して将来発生するかもしれないトラブルを判断し、製品を投入する前に不具合があるかどうかわかっていれば、その後の処理もぐんと楽になりますし、製品の開発も効率的になります。

品質工学の中心的技法、ロバスト設計

品質工学の中心的技法となるのが、ロバスト設計と呼ばれるものです。

製品の使用条件、環境、経年劣化、素材、材料、部品のばらつきといった、製造の上でのノイズをあらかじめ考慮しておき、このノイズに最大限強くなるように設計パラメータ値を配慮して設計する方法です。

品質工学では、ロバスト設計でのノイズは3種類に分類されます。

 

外乱

システム外部から加わる環境変化など

内乱

システム内部で発生するトラブル、劣化など

品物間ばらつき

使用部品や材料のばらつき

 

従来のQCではノイズの原因を特定し、それを抑制することで品質のばらつきを抑えますが、ロバスト設計では、設計パラメータの変更でノイズの影響を小さくするという手段をとります。

QCから品質工学へ

日本企業は戦後まもないころから、製品の品質をあげるために積極的にQC活動に取り組んできました。従業員の雇用は終身雇用の正社員が前提で、社員を家族のように手厚く扱う代わりに、社員は会社に忠誠をつくすという日本式の雇用慣習があったからこそ、ボトムアップが重要となるQC活動が達成できたともいえます。

バブル期以降、日本の雇用環境は激変し、正社員は期間限定の派遣労働者や契約社員などに置き換えられています。

また、自動車メーカーであれば、海外でのノックダウン生産が拡大しており、部品の現地調達率も高まっています。

 

雇用の多様性が広がるなか、末端で働く人まで品質に対する意識を統一させるQCよりも、開発段階で未然に不具合を防ぐ品質工学の考え方のほうが、より製品開発・製造が効率的になると考えられます。

 

出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング


20年以上のサポート経験から培ったスキル・ノウハウを基に、富士通マーケティングの先進の製造業サポート推進チームが、日本の製造業の動向や現状の課題を紹介していきます。 基本のQCDや環境、安全など、毎週、旬なトピックスを展開します。