米・ベライゾンのデジタルトランスフォーメーション戦略@DX Initi...

米・ベライゾンのデジタルトランスフォーメーション戦略@DX Initiative

4月12日、デジタルトランスフォーメーションイニシアティブ(DX Initiative)「~デジタルトランスフォーメーションが実現するビジネス革新とソーシャルインパクト~」(主催・運営 IT Forum&Roundtable事務局)が、東京都千代田区のイイノホール&カンファレンスセンターで開催された。講師に米・ベライゾン・エンタープライズソリューション部門プレジデントのジョージ・フィッシャー氏を招き、同社が進めるデジタル戦略を解説。さらに、総務省谷脇康彦情報通信国際戦略局長らを迎えてパネルディスカッションが行われ、社会問題の解決のためのデータ活用をテーマに議論が行われた。

売上高1320億ドル。米国最大の携帯電話キャリアを傘下に持つ通信事業者

 米・ベライゾンは、2015年度売上高1320億ドル、世界で16万2700人の従業員を抱える世界トップクラスの通信事業者。傘下には1億1300万件以上の契約数を持つアメリカ最大の携帯電話キャリアであるベライゾン・ワイヤレスを抱え、固定通信事業でも統合された通信、情報、エンタ-テイメントのサービスを提供し、さらに革新的でシームレスなビジネスソリュ-ションを世界に向けて提供している。
 今回のイベントでは米・ベライゾン・エンタープライズソリューション部門プレジデントのジョージ・フィッシャー氏を招き、「A Journey in Transformation」をテーマに、ベライゾン社のエンタープライズ・ソリューション部門の取り組みとマーケットトレンドについて解説してもらった。

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ジョージ・フィッシャー エンタープライズソリューション部門プレジデント

エンタープライズソリューション市場の5つのトレンド

ベライゾン社は現在、「ネットワーク仮想化」「高度データ通信システム」「マネージドサービス」を成長分野に掲げ、エンタープライズ・ソリューション部門が大きく成長している。フィッシャー氏は「ネットワークの世界は目まぐるしく変化しています。そんななか、人的資源とグローバルネットワークの重要性を注視しています。我々は差別化のためのデジタルソリューションの提供を目指しています。」と話した。
続けて、エンタープライズ・ソリューション市場の5つのトレンド傾向について説明し、「ITサービスは消費ベースモデルへと移行。リソース不足により、コア事業とそれ以外の事業とのせめぎあいが加速」「常に接続している状態が生活および業務の基本に」「企業のサプライチェーンはグローバルかつ相互に接続されている」「数百万のユーザーから、数十億の接続デバイスへと拡大」「電子商取引の大幅な増加により、セキュリティに対する脅威が増大」という傾向を明らかにした。
さらに、「2019年までに、全世界でIPネットワークに接続されるデバイス数は人口の3倍以上へ」「2018年までに、アジア太平洋地域のビジネスIPトラヒックは世界最大となる最大9.5エクサバイト/月に」「2019年までに、アジア太平洋地域におけるIPトラヒックは54.4エクサバイト/月に到達」という数値を示し、デジタル化の波が大きくなっていくことを示唆した。

先進技術がビジネスを破壊する時代。自社に対する脅威を予測

こうした状況下で、「先進的技術によりもたらされる想定外の脅威がビジネスを破壊するかもしれない。これら脅威をどのように予測すればよいでしょうか」とフィッシャー氏は投げかけた。予測する考え方としてフィッシャー氏が提案したのは「ライフサイクルとテクノロジーのS字曲線内での位置により、事業のプロダクトやサービスがどれだけ創造的破壊がされやすい状態が明確にすること」だった。
通信事業者としてのベライゾンは現在、ミレニアル世代に訴求するコンテンツを提供するデジタル動画サービス事業等を展開し、コネクティビティ分野には数10億ドルを投資している。「今、大事なことはオープンコミュニケーション。それを確実に伝えることができれば、ワクワクしてもらえます。ベライゾンは自信を持ってソリューションをご提供します」とフィッシャー氏は話し、プレゼンテーションを締めた。

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ベライゾンのデジタルトランスフォーメーションのイメージ

データをどのように社会の課題解決に活用するか?

続いて行われたディスカッションではフィッシャー氏と並んで、総務省谷脇康彦情報通信国際戦略局長、江崎浩東京大学大学院情報理工学系研究科教授、オラン木内里美ファウンダー代表が登壇し、「データをどのように社会の課題解決に活用するのか」をテーマに議論が繰り広げられた。
先のフィッシャー氏のプレゼンテーションを受けて、谷脇氏は「ビッグデータはいろいろなカテゴリーのものがありますが、ポイントは大きく5つに分かれます。オープンデータと、暗黙値をいかに恒常化していくこと、ストリーミングデータを使った効率化、パーソナルデータ、それからOTとITの一体化です」と述べた。
江崎氏は「デジタルファーストでシステムを作っているため、早いスピードでデジタルイノベーションが起こっています。グローバルにデジタルインフォーメンションを流通させる基盤がないとグローバルインフォメーションは生まれないと私は考えます。セキュリティの問題は諸刃の剣。トランスペアレントなネットワークが重要です。デジタル時代の新しいリテラシーも必要になってきます」と指摘した。
木内氏は「iPhoneが誕生して今年は10年目に入りました。いまや誰もが常時インターネットに繋がっている状態です。ビジネスも変革しないわけがないですよね」と市場の状況を説明した。

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データ活用社会に向けた熱い議論が行われた

日本政府全体の施策と連携する「IoT総合戦略」

 谷脇氏は今年1月に総務省が策定し、政府全体の施策と連携する「IoT総合戦略」の考え方についても説明を行った。これの基本的な考え方は「第四次産業革命の実現による30兆円の付加価値の創出があらゆる社会経済活動を再設計し、社会の抱える課題解決を図るSociety5.0を目指す」というもの。
谷脇氏は「IoTが社会インフラになり、オープン性を確保しながら、モジュール化し、共通化できるところは共通の議論としていきたいと考えています。柔軟な多様性を担保するためにクラウドの活用があり、データを連携させるプラットフォームと、APIのエコノミーシステムをいかに作っていくことが議論の中心になっていきます」と説明した。なお、今年6月、7月をメドにさらなる具体案が策定される計画で進められている。

提言 民間主導のデジタルイノベーション、IoTセキュリティ

 今後の方向性を見据えた提言も聞かれた。木内氏は「マイルドチェンジを前提に、デジタルイノベーションは民間企業から引っ張っていくべきでしょう」と述べ、江崎氏は「IoTはセキュリティを無視しています。これがIoTの最大のリスクだと私は考えます。通信キャリアがセキュリティを担ってきましたが、人材育成問題を含めてこれからはどのようにIoTバブル企業に移行していくことがミッションになるかと思います」と意見を述べた。デジタルトランスフォーメーションによるビジネス現場の変革の議論は今後も注目である。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。