研究開発現場マネジメントの羅針盤「組織変更だけでなく、その構造的弱点を...

研究開発現場マネジメントの羅針盤「組織変更だけでなく、その構造的弱点を補う施策を講じること」

組織構造を変えるときこそ、コミュニケーションが重要

今回は、研究開発組織のマネジメントにおける”組織変更”について書いてみます。

組織構造についてよく聞かれる質問のひとつに「製品別組織がいいのか、機能別組織がよいのか」があります。

さらに言えば(少しディメンジョンが違ってきますが)マトリックス組織、ネットワーク組織、プロジェクト色の強い組織のほうがいいのかなどなど、組織の望ましい構造は何かというのは、昔から経営者・マネジャーが悩みことのひとつです。

 

 (切れ味の悪い書き方で恐縮ですが)組織形態には、それぞれメリット・デメリットがあり、唯一絶対的にこれがいいというものはありません。

内部・外部の状況を鑑みて、そのときその組織に適した構造をとることが経営者や上位マネジャーの仕事です。

 

ときどき組織構造を変えることで、良いことも悪いこともあります。

程度の差はあれ、組織を変えることで、新たに生じるデメリットはあるものです。悩ましいところは確かにあります。

しかし、組織を変えるとは、変えるデメリットを認識したうえで、リスクがあっても変えるメリットをとる意思決定にほかなりません。

 

みなさんの組織構造の過去を振り返ってみても、組織はいったりきたり振れながら変遷してきているのではないでしょうか。

振り子を振っているというようにも捉えられますし、らせん状に成長を繰り返しているというようにも見えます。

結局のところ、組織はゆらぎながら、維持・成長するものだと思います。

 

組織を変える権限のある人は、変えるべきだと直感したら、思い切って舵を切ることが役割です。

権限のある人の役割です。ずっと、これまでのままでいいわけではありません。

まさに、舵切りであり、舵取りなのです。

 

一方、組織構造の変化の影響をモロに受ける現場の人にも心得ておくべきことがあります。

「ウチの会社は、しょっちゅう組織が変わって困るんだよね。今回も、また数年前の形に戻ることになって、この数年は何だった?と思うんだよね」というような嘆きを現場で聞くことがあります。

確かに上の人が大した考えもなく、「ほかにやることがないから、組織でもいじるか」という安直な考えで組織変更をする場合には、そのような文句も妥当性があるでしょう。

 

しかし、文句を言っているだけでは、なかなか建設的な行動にはなりにくいものです。

現場の人間は、「組織構造に一点の問題もない絶対的に良いものはない。

それぞれ、メリット・デメリットがある」ということを認識し、組織変更で生じるメリットを最大限に活かし、組織変更で生じるデメリットを何らかの方法でカバーしていこうとする意識を持って仕事をするべきなのです。

 

組織で仕事をするというのは、チームワークで成果を出すということです。

フォーメーションの変更に早く順応し、新たなチームワークを発揮することを意識すべきなのです。その意味で、マネジャーには大切な役割があります。

それは、組織変更にあたり、新しい組織構造に変えるねらいや新たな期待行動を丁寧に説明することです。

 

新しい組織図を発表するだけで、ねらいが明確に伝わり、皆の行動がすぐに変わるというのは幻想です。

そんなことはありません。組織構造を変えるときこそ、コミュニケーションの良い機会と認識すべきなのです。

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組織構造を変更するときは、併せてその構造的弱点を補う施策を講じるべき

上でも述べましたが、組織形態には、それぞれメリット・デメリットがあり、唯一絶対的にこれがいいというものはありません。

メリットは、組織変更をすることで、おのずと享受できるものです(できるはずです)。

今、”おのずと”と書きましたが、この”おのずと”というのは、組織構成員の多くが組織変更のねらいや意味合いを理解し、その組織構造で期待される役割を果たすことで、もたらされるということです。

 

皆が組織変更の意味するところを理解していない場合には、”おのずと享受できる”ことにはなりません。

しかし、組織構成員が組織変更の意味がわからないという状態は、かなりひどいマネジメントであって、それほど多くみられるわけではないので、ここでは問題にしないことにします(多くないと信じたいという希望も込めて)。

 

組織変更時にマネジメントが意識するべきことは、新たな組織構造に伴って構造的に発生するデメリットに対して、何らかの補完施策を講じることです。

たとえば、組織を技術分野別に括った場合、顧客との距離が遠くなってしまうなどのデメリットが生じがちです。

そこで、マネジメントがなすべきことは、そのデメリットを小さくする施策(たとえば、エンジニアに顧客訪問をすることを促すなど)を講じることです。

 

組織変更は万能ではありません。

いや、組織構造変更の意思決定だけでは、必ずデメリットが悪い形で問題として露呈してしまうことを恐れるのが、ある意味健全なマネジャーと言えます。

マネジャーは、組織構造を変更したときには、併せてその構造的弱点を補う施策を講じるべきなのです。

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組織構造の弱点を補うメッセージが必要

もう一点、組織構造とマネジャーのなすべきことについて、「少し、おかしいな」と思っていることを書きます。

たとえば、下図のような組織構造のコーポレートラボがあるとします。

事業部から委託費をもらって研究を行う構造です。

 

このような構図にあるコーポレートラボのマネジャーが、「仕事をもらうために御用聞きになっちゃうんだよね〜」とか「事業部から下請け的な仕事を押し付けられるんですよ、しかたがない……」などと、嘆いていることを耳にすることがあります。

しかし、それはおかしなことです。何を被害者みたいなことを言っているでしょうか。

マネジャーの仕事は、このような構図にあるときに、「事業部が次に欲しくなる技術を考えて、提案しよう! そのためには、われわれラボが、顧客のことをもっとよく見よう! 新たな技術があれば解決できる顧客の悩みを見つけよう!」と、メンバーを鼓舞・指導していくことです。

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逆もしかりです。

下図のような組織構造のコーポレートラボは、事業部からの”紐付き”の研究費のしばりがなく、コーポレートから交付金的(?)に研究予算がもらえます。

こういう自由な研究所のマネジャーの中には、「研究所は”象牙の塔”。どうしても浮き世離れの研究なるんだよね〜」とか「研究のための研究、学会発表を目的する研究になりがちなんだよね〜」などと、緊張感のないことを言っている人がいたりします。

 

何を評論家のようなことを言っているのでしょうか。

マネジャーの仕事は、このようなときに、「誰も気づいていないような新たな事業の種となるような研究に取り組んで、いつの日か、あらたな事業部を立ち上げよう! われわれは、未来の社会を創造していくんだ!」と、メンバーの使命感を奮い立たせていくことにほかなりません。

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組織構造から発生しがちな状況に甘んじていては、マネジャーの存在意義がありません。

陥りがちな問題状況にならないように、現場に対してメッセージしていく、介入していくことこそが、生身の人間としてのマネジャーの仕事なのです。


株式会社日本能率協会コンサルティング R&D組織革新センター チーフ・コンサルタント。R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。