研究開発現場マネジメントの羅針盤「現場をバカにしないこと」

研究開発現場マネジメントの羅針盤「現場をバカにしないこと」

中身のないメッセージは見抜かれる

前々回前回と、メッセージングの重要性について語ってきました。

その根本は、人間として人間に向きあうというところにあります。

「きちんと話せば、相手はきっと理解してくれる」と信じて向き合うという姿勢です。

 

ところが、一部の上位マネジメントの人の中には、(本人にはそのつもりがないにしても、結果的に)現場をバカにしたり、子供扱いしたりしているケースがあります。

「こんなことを現場に説明しても、どうせ関心・興味ないだろう、どうせ理解できないだろう…」などと、現場の意識・能力を低くみている(見下している)のです。

背景説明なんかしなくても「これ、やれ!」と命令すれば言うこと聞くだろうという傲慢さが透けてみえてしまいます。

 

「説明なんかしなくても、何か文句があったら言ってくる人は言ってくるだろう。だから放置しておけばいい。まあ、たとえ、文句を言ってきても、『経営陣で決めたんだから…』と突っぱねればいいだろう」というような横着な姿勢は、(なぜか)伝わるものです(そのぐらいのことを察する能力が人間には備わっているのだと考えたほうが自然です)。

また、皆が集まる場で「時間がないので、説明を割愛しますが……」というような“言い訳”や「社内向けの説明資料づくりは重要だと思いませんので……」というような“言いぐさ”は、「私は、これについて、あなたへの説明に時間を費やすほどの重要性を感じていません」というメッセージとして、聞き手に伝わるものです。

そういう現場をバカにした態度はよくありません。

 

秘密裏にすすめていることを除いては、戦略(技術戦略や商品戦略)をきちんと伝えることが重要です。

戦略の中身を語ることなく、危機感を煽るだけだったり、「やらなければいけない」「やるしかないだろ」と迫るだけだったり、「○○年度までに○○円の売上になるようなものをつくれ」と目標を掲げるだけでは、かえって逆効果です。

今、上位マネジメントにいる人も、自分が若かった頃を思い起こしてください。そういうような意味・意義が腑に落ちないメッセージは虚しかったはずです。

スクリーンショット 2016-12-12 15.45.50

プレゼンテーションだけでなく質疑応答での回答も含めて、メッセージとして伝わる

この20年でプレゼンテーション資料を投影しながらメッセージを語るスタイルをとる人が増えてきました。

わかりやすい図表を使うことでメッセージの理解は促進されるはずです。ところが、プレゼンテーションの“わかりやすさ”までを気にしていないメッセージの語り手も少なからずいます。

グラフや図表の選択のセンスの問題もありますが、もっと基本的なレベルの問題を抱えていることもあるようです。

 

たとえば、遠くからは判読できないような小さなサイズの文字の資料を投影して、「これ、見えないと思いますけど……」という説明をするシーンをみかけます。

本人が見えにくいと思っているなら、文字を大きくすべきでしょう。

直す気がなかったということを吐露しているだけです。伝える気がないのだなと思われてもしかたがありません。

 

別の例としては、投影資料がイントラネットなどで共有されていないケースもあります。

ノートパソコンを開いて手元で詳しく見たい、後でじっくり読み返したいという、メッセージの受取り手として良い姿勢を持つ人のやる気を削いでいます。

メッセージの語り手側に、そのような親切心があるのか否かは、見逃していいような些細なことではなく、”神は細部に宿る”というか、一事が万事というか、小さくてもすごく大事なことだと思います。

 

さらに言えば、メッセージはプレゼンテーション資料を用意して話をする部分だけでなく、質疑応答の部分も含めてメッセージです。メッセージの聞き手(受取り手)が理解できなかったことや疑問に思ったことを聞くことが質疑なのですが、その回答の巧拙でメッセージの価値は大きく違ってきます。

質問に対してきちんと答える、(少なくとも)きちんと答えようとしていることが、聞き手に伝われば、「本気でそれをやろうとしているのだな」というように感じてもらえるものです。

逆に、質問に対して、笑ってごまかしたり、肩すかしのような返し方をしたり、トンチンカンな回答をしたりすると、最初のメッセージに対しても懐疑的になってしまうものです。

 

ときどき「本当は答えがあるのだけれども、ここで言うと誤解されるかもしれないから言わない」という“逃げ口上”をする人がいます。

これなどは「ああ、逃げているな」ということは、聞き手からははっきりとわかります。

真摯に答えようとしていないことで、本来伝えたいメッセージが伝わらないという逆効果になってしまうのです。

 

繰り返しますが、経営の中で指導的立場にいる人(経営者、部門長、部長……)は、現場をバカにしたり、子供扱いしたりしてはいけません。

そういう現場をバカにした態度はよくありません。自らに対する謙虚さと、現場に対する畏れを失ってはいけないとつくづく思います。


株式会社日本能率協会コンサルティング R&D組織革新センター チーフ・コンサルタント。R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。