生き残る現場

生き残る現場

改善活動は活発ですか?

1.工場長の仕事

 「現場の勉強会を続けるのって難しいですね。」

40人規模の製造現場、工場長の言葉です。

そこは自主的な改善活動があまりやられていない職場でした。

多くの中小製造現場がそうであるように、生産活動で手が一杯、それ以外の活動はできないと考えていたのです。

現場の作業者が一堂に集まり意見交換をする場は社外クレームが発生し、再発防止を目的として開催されるミーティングくらい。

納期遵守の考え方は定着しているものの仕事のやり方が属人的であり、いわゆる仕事が人についている状態です。

したがってチームで仕事をする意識が希薄な現場でした。

 

そうした状況から、抜け出し、生産性を高めて日々の出来高の上乗せをしたいと経営者は考えていました。

そこで、まずは工場長の仕事のやり方を変えることから始めたのです。

現場を取りまとめる意識を十分に持った工場長ですが、管理業務を得意とはしていませんでした。

困りごとが発生したら、自ら現場へ入り、作業者と一緒に汗をかきながらその場を乗り切る・・・・・・。

現場と工場長とのつながりは強くなるものの、こうした仕事のやり方を続けていると、作業者の工場長への依存度は高くなり、言われないと動かない職場になってしまいます。

工場長が工場長の業務を実践できるようにして、現場の自立を促す狙いもありました。

 

今、新たな仕事のやり方を模索しながら、少しずつ管理業務を構築しているところです。工場長へお伝えしていることは以下です。

工場長の仕事は現場の実務をうまくやることではなく、人を生かすこと。

 

技能を磨いてきたベテランが工場長という役割を担うとき、頭でわかっていてもなかなかできないことはこれです。

したがって繰り返し、繰り返し、説明し、まずは考え方を変えてもらうことからでした。

工場長自身の頑張りもあり、最近は人を動かす観点が仕事ぶりに反映され、また、工場長の変化に現場も呼応して、各工程のリーダーたちも相互に協力し合うようになったのです。

そこで、次のステップへ進むため、新たな取り組みに着手したのですが、しばらくしてから出てきたのが最初のコメントです。

2.作業者同士が意見交換する場

中小の工場長がやらなければならない業務に「実績に責任を持つ」があります。

経営者が望むのは利益の最大化です。

足元では日々の生産活動をしっかりやる必要がある一方、「生産活動の質を高める」自主的な改善活動も欠かせません。

したがって、実績に責任を持つ立場の工場長としては、日々の生産活動の質を「組織的」に高めることも仕事にする必要があります。

 

日々の生産活動だけに焦点が当たっていると、現場の思考回路は「納期遵守」のみに占められます。

納期遵守は商売の基本中の基本ですが、仕事の判断基準としてそうした観点しか持っていない職場は自ら問題点を解決しようという雰囲気に欠けます。

納期さえ守れば問題はないだろうという思い込みに陥るからです。生産性やリードタイムという生産の質を高める指標を知らないとそうなります。

 

判断基準を持たない現場は「井の中の蛙」状態です。

工場長は生産の質を高める目的で自主的な改善活動を機能させなければなりません。

実績を問われるようになると、工場長はチーム力の向上に焦点を当てたくなるはずです。

 

ただ、これまで自主的な活動の経験に乏しい職場ですから、いきなり改善活動を展開しましょうと激を飛ばしてもうまくいくわけでもありません。

そこで、作業者同士が意見交換する場を設けることから始めました。

勉強会はそうした場のひとつです。

しかし、ここで問題に直面しています。

 

工場長自身が現場に声を掛け、開催を促そうにも、その行為自体が継続できない。

ついつい日常業務に追われ、改善活動(勉強会)をやるきっかけを失っていました。

 

勉強会開催のきっかけをはっきりさせていないことが原因のひとつです。

その工場長が考えていた開催のきっかけは、設備停止が多くなってきたら・・・・・・でした。

それであるなら、「多い」を具体的な数字に変換しましょうと伝えました。その数字を超えたら勉強会を開催します。

客観的なルールを現場に持ち込めばいいのです。

3.生き残る現場

現場の勉強会のみならず、新たな取り組みは継続しがたいものです。

だから、やらなければならないと“客観的”に感じさせる仕組みも欠かせません。

自主的な改善活動を継続させるコツは現場業務の一部に組み込み、定量的な判断基準を現場へ示めすことです。

定量的な判断基準に基づき「自動的」に開催するのです。

開催自体を工場長が悩む必要はありません。

ルールに判断させ、それにしたがって勉強会を現場に開催させます。

 

そこで、今、工場長は設備停止の状況を調査し、上限数を決めようとしています。

その上限数を超えて停止したら、自動的に勉強会を開催する流れをつくるためです。

継続的な改善活動への一歩目となります。

 

生産活動に加えて、成長する現場に欠かせないのは自主的な改善活動です。

納期遵守の観点しか持たない現場は生産性やリードタイムで自分たちの仕事ぶりを客観視する術を持ちません。

問題はないと思い込むわけですが、こうした現状維持の発想は衰退につながります。

 

そもそも、技術で戦っている製造業で現状維持という発想はありません。

相対的に取り残されることを意味するからです。

 

改善活動を通じて生産の質を高め続ける意識を持ちたいのです。

作業者が一堂に会して意見交換をする場や勉強会から始めます。

定量的な判断基準を現場に渡し継続させるのです。

継続的な改善活動がゆくゆくお金を生み出す改善活動へつながります。

生産活動と改善活動、両立させ続ける現場が生き残るのです。

 

成長する現場は継続的な改善活動を業務に組み込み、仕事ぶりを客観視する。

現状維持にとどまり、今の仕事のやり方でいいと思い込んでいる現場は改善活動を不要と考える。

改善活動を継続させるしくみをつくりませんか?

 

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製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)