研究開発現場マネジメントの羅針盤「現場の能力を向上させる責任は現場にあ...

研究開発現場マネジメントの羅針盤「現場の能力を向上させる責任は現場にある」

前回は、現場を高負荷状態にしてはいけないという主張をしました。もちろん、私自身コンサルティングの場でもそのような進言をしています。

実際に「現場の業務量を適正に保とう。忙しすぎないようにしよう」と提案すると、「それでは現場を甘やかすことになるのでは……」という反論・懸念に出会うことがあります。

今回はこのようなケースについて、誤解のないように少し補足をしたいと思います。

もちろん、私の主張の趣旨は現場を甘やかすために、業務量の適正化を図ろうとすることではありません。過保護にするところに本意はありません。

現場のゆとりを成長につなげる

現場を忙しくしすぎないようにする目的は、現場の成長を促すためです。

「現場の過剰な仕事量(高負荷)は、QCD面の問題を起こしたり、メンタルヘルス不調のリスクを高めるからよくない」ということだけではなく、「現場が成長・工夫の意欲を失うような”忙しすぎる”状況は、人・組織の成長につながらない、ひいては組織の長期的な競争力を失うことにつながる”ゆるやかな自滅行為”だからよくない」ということが趣旨です。

 

精神論ではなく現実論として、現場の成長を図るためには、成長のための余裕(時間的にも精神的にも)が必要です。

冷静に考えてみればわかります。

現場(の実務担当者)しか現業の仕事の品質をつくり込むこと、および現業の改善を図ることはできません。

マネジャーは、現場がその2つの責任を果たせなくなるぐらいまでの過負荷にしてはいけないのです。

 

それでも「現場にゆとりを持たせると、遊んでしまうのではないか」と心配になる人もいると思います。その懸念はわからないでもありません。

でも、その答えは簡単です。

マネジャーは指導者として「時間的ゆとりを、人・組織の成長(業務改善)に使うこと」を啓発するのです。

現場の能力の向上余地、改善余地があることを信じて、その向上を啓発することがマネジャーの仕事に他なりません。

マネジャーは逃げずに対話を

ここで、次の疑問が湧いた人もいるのではないでしょうか。

啓発するというが、実際どうやってやるんだ?――たしかに、人を指導・啓発した経験がほとんどない人にとっては、啓発の必要性を理解できたとしても、どうやればいいのか戸惑うかと思います。

 

しかし、逃げてはいけません。

啓発することがマネジャーの重要な仕事なのです。

趣旨をきちんと語り、対話・議論を重ねる中で、相手にその意義を感じてもらうこと、重要性を悟らせることが、マネジャーの重要な役割であることを自覚すべきです。

 

そして、その根底には、相手に対する基本的な信頼感・期待感を抱くことです。

「話せばきっとわかってもらえる。きっといつの日かこの趣旨は伝わる」と信じて、対話に臨むことです。

短絡的に「文句言わずにやるんだよ!」というような指示命令だけで人を動かそうとしたのでは啓発になりませんし、おそらく相手は変わりません。

「そんなことを言わなくてもわかるはずだ」と(希望的に)思い込んで説明責任を放棄する、あるいは対話(議論)を避けるのもよくありません。

現場の能力を高めるためのマネジメント

前回の内容と併せて、少しまとめをします。現場マネジメントで実践すべきことは、次の3つです。

1つめは現場を現業で忙殺させないように、仕事の入口での総量管理を行うことです。

現場の対応能力に見合う仕事量を保つことです。

「忙しいから品質が確保できない、改善ができない」という状態にしないことです。現場に変な言い訳の理由をつくってはいけません。

 

2つめは現場実態を踏まえたQCD管理です。

しかし、まあこれはマネジャーが過度に叱咤激励をしなくても、後工程(お客さま含む)がビジネス上のまっとうなプレッシャーをかけてくれるものです。

マネジャーは状況を把握し、タイムリーな意思決定や介入を行うことです。

 

そして、3つめは(これがいちばん重要なのですが)現場の能力の向上を高めることです。

現場の能力を高める責任は現場にあります。

現場の能力が高まるように、現場の知恵を引き出す、困らせる、考えさせることが、マネジメントの重要な役割です。

組織は継続的に成果を出していくべきものなので、それができるように中長期的に能力を向上させていく責任が現場にあるのです。

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株式会社日本能率協会コンサルティング R&D組織革新センター チーフ・コンサルタント。R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。