旭化成 ロボ電 配線の常識変えるケーブル 伸びて縮んで曲がって強い
ロボットの性能をさらに高度化し安全性も向上させようとしたら、今よりもっと多くのセンサ・アクチュエータを取り付け、感覚を研ぎ澄ませなければならない。しかし、そのためのハードルは高く、そのひとつが「ケーブル配線」の問題だ。センサとアクチュエータの数が増えればそれだけ配線も増える。現在でも多くの機器が取り付けられ、配線が複雑化している。これ以上、追加するには配線を見直さなければならず、その解決策として期待されているのが、旭化成が開発した伸びるロボットケーブル「ロボ電」だ。
ロボット表面にピタッと密着
従来のロボットケーブルは硬めで耐久性に優れるが柔軟性に欠けるため、動きの激しい屈曲部や可動部ではケーブルを長めに取ってたわみを作り、ダメージを最小化するのが一般的だった。しかしこれだとケーブルが本体からはみ出し、機能的にも見た目にもスッキリとしない。
それに対しロボ電は、これまでのロボットケーブルの通信性能を持たせたまま、伸縮性を追加。芯となる弾性体に導体線を巻きつけて伸縮性を持たせ、引っ張ると1.4倍まで伸び、柔軟性に優れている。ロボットの表面に密着させて皮膚のように這わせるような配線ができ、激しい動きも伸縮で吸収。その効果は、従来のロボットケーブルに対して断線寿命が10倍から100倍。配線が省スペース化でき、センサ追加による機能拡大や、デザイン性の向上にも適している。ロボット本体の内部配線に加え、外部機器の取り付け用の配線としても採用され、特に先進的な研究開発などで多くの実績がある。
また、近年のロボットの普及拡大に対し、その高い伸縮性が安全性を高め、リスクアセスメントに有効だとして評価も高まっている。
ロボットケーブルの配線では、長さに余裕を持たせ、たわみを作ることが当たり前とされてきた。これまでの産業用ロボットの作業環境は、安全策で囲まれ、人やモノが入らない閉鎖された空間だったため、たわみは危険要素にならなかった。しかし最近、人と一緒に作業を行う協働ロボットが急拡大し、本体から飛び出ているケーブルに人やモノが引っかかって事故になる危険性が指摘されている。
協働ロボットは、人やモノが行き交う作業環境に設置されるため、想定外のトラブルが起こりやすい。そのためロボット本体には衝突感知センサや触れたらすぐ停止する機構、柔らかい外皮、挟み込み防止など安全機能が施されている。システム構築においても事故の可能性がある要素を極力排除する必要があり、これまでのようなたわみを作る配線のやり方は、協働ロボットの作業環境では適切ではない。その解決策としてロボ電に期待する声も出てきている。
同社の繊維事業本部 ロボ電事業推進室 巽俊二室長=写真=は「これまではロボットメーカーが断線や配線が絡まないようにうまく設計し、上手にロボットを使ってきた。しかしこれから新しい協働ロボットの時代に入り、ロボットを使ったことのない企業も多くロボットを使うようになる。その時のリスク軽減に本体に密着した外皮配線が役立つと考えている」と話す。
ロボ電はロボットケーブル以外にも、イヤホンなどモバイル機器や、ヘッドマウントディスプレイ、手袋や衣類などに組み込んだウェアラブルデバイスなどでも広がっている。その用途は拡大中だ。巽室長は「有線からワイヤレスへの動きが進んでいるが、それぞれに一長一短がある。ロボ電は大電流が流せ、高速伝送でき、伸縮する。どちらも満足できないところ、その間を埋めることができる。今後ビジネスを拡大して量産化し、使いやすい価格で提供できるようにしたい。特に協働ロボット分野などに働きかけを強化していきたい」と話している。