日本の得意分野の品質管理
「メイドインジャパン」といえば、世界中で高品質製品の代名詞になっています。
品質の保証は、日本企業の得意とするところと考えられてきました。
今回は、組立加工業ほか製造業の「メイドインジャパン」の品質管理の歴史やその背景について見ていきます。
日本の品質管理は「デミング賞」から始まった
一般的に品質管理といえば、品質マネジメントの国際規格であるISO9001があります。
しかし、日本ではこの規格が制定される前から、「デミング賞」と呼ばれる品質管理の表彰制度がありました。
戦後の焼け野原の中で、日本の製造業が輸出を増大し経済の復興をとげるためには、品質への信頼性を上げる必要がありました。
当時、「メイドインジャパン」といえば高品質の代名詞ではなかったのです。
「値段は安いけど、品質はそこそこ」ちょうどいまの新興国の製品のような扱いでした。
1945年に品質管理普及のための日本規格協会が設立され、翌46年には日本科学技術連盟が設立されました。
そして、50年にはアメリカから、品質管理の第一人者たるW・エドワード・デミング博士が招かれ、日本企業に対して統計的品質管理の指導を行いました。
翌51年に、同博士が寄付した講演録の印税を契機として、「デミング賞」が創設されました。
「デミング賞」には、デミング賞大賞(旧:日本品質管理賞)、デミング賞本賞、デミング賞(旧:デミング賞実施賞)があり、デミング賞には実施賞、中小企業賞、事業部賞、事業所表彰などがあります。
51年のデミング賞大賞は、東京理科大教授の増山元三郎氏が受賞しています。
このほか、トヨタ自動車などの日本を代表するものづくり企業のほか、インドのタタ・スチール、マヒンドラ アンド マヒンドラ、タイのタイ・アクリリック・ファイバー、台湾の台湾フィリップスなどの海外企業も、大賞を受賞してきました。
その後、日本のデミング賞を参考に、アメリカではマルコム・ボルドリッツ賞が、欧州ではヨーロッパ賞が創設されました。
品質マネジメントの国際規格ISO9001は、デミング賞の創設から30年以上経った1987年に開発されました。
デミング賞が自社内の問題意識から導入されているという特長がある一方で、ISO9001は、顧客・取引先など外部の要請に基づいた取り組みであるという特長があります。
こうして日本は、品質管理の分野では、歴史的にも欧米に先駆けているといえます。
日本製品の高クオリティは、経営体制と密接につながってきた
日本の品質管理の発展は、経営手法と密接につながってきました。
例えば、製品の品質維持の向上を特定の専門家がおこなうだけではなく、実際に製品を作っている人も参加する「QCサークル活動」、いわゆる小集団活動です。
QCはボトムアップが基本ですから、企業の末端で働く人にまで品質管理という理念を根付かせていかなくてはいけません。
そのための指導には、非常に長い時間と根気が必要です。
また、製品や企業ブランドに対する誇りや忠誠心も必要です。
日本企業は戦後、終身雇用制のなかで、社員と会社がひとつの家族のようになり、一蓮托生でその歩みを進めてきました。
そうした状況では、就労時間外にQCサークル活動のための時間をとって皆でアイディアを出し合うというようなイベントも、比較的受け入れやすかったといえます。
時間外のQC活動では、割増手当は出ませんが、皆で集まって話し合っているとアイディアはわいてくるし、アイディアが改善につながって成果が出てくると、なんだかやりがいも出てきて楽しくなります。
そうして、日本企業の独特な体質の中で、日本の品質管理活動は育まれていきました。
多様化するビジネス環境でどうやって品質を維持していくか
QC活動に象徴されるように、日本の品質管理とは「全社員が協力をして良い製品を作り出すこと」ですから、単に品質管理課、品質保証課、検査課など、直接検査を担当する部署だけが責任を負えばいい問題ではありません。
上は社長から下は現場の作業員まで一人一人が製品の品質に責任を負わなくてはいけません。
しかし、バブル期以降、経済状況が変化し産業のグローバル化が進む中で、日本企業の経営体制も変化を迎えています。
正社員での終身雇用が前提で、従業員は家族のように扱うのが日本企業のやり方でしたが、派遣労働者や外国人実習生など、短期間で入れ替えを行う労働者が増加しています。
また、生産コストを削減するため、組立加工業を始め多くの製造業が、製造拠点を中国やアジアに移転しました。
雇用情勢が変わる中で、以前のようなボトムアップからの品質管理活動を望むのは非常に難しくなっています。
品質管理の基本の言葉として「品質管理は人質管理」ともいいます。
品質を作り出しているのは現場で働いている人々ですから、多様な働き方が広がる中で、従業員の教育・意識向上をいかにして維持していくかが、今後の日本製品の品質維持に欠かせない課題となってくるのは間違いないでしょう。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング