改善マンの目から「人材育成」を解析する|元トヨタマンの目
トヨタの進化を築城に例えると次のようになる。
豊田佐吉翁
地盤固め(人偏のついた自働化の着想と実現)
豊田喜一郎氏
石垣づくり(ジャスト・イン・タイムの着想)
大野耐一氏
天守閣建築(ジャスト・イン・タイムの実現)
この3人の天才により、「トヨタ城」はまがりなりにも築城され、体制・方向性を目の当たりにさせた。
後に続く者は、その城の現物を見ることができる。そうすると当然、いろいろな問題点が目に飛び込んでくる。
それを1つ1つ解決させながら今日のトヨタを築き上げてきた。
私がトヨタに入社したのは昭和53年だ。
トヨタ生産方式は終戦後の昭和20年代の前半からスタートしているのでちょうど30年目ぐらいにトヨタ生産方式に出会ったことになる。
それから26年間、電子かんばん化などトヨタ生産方式の進化過程をつぶさに体言できた。
私が入社するとすぐに上司の係長から
「新入社員の問題解決テーマ発表というのが半年後にあって重役の前で発表しなければならない。職場先輩のM君から指導を受けてしっかりやりなさい」
まだ仕事も何も分かってないのに大変なプレッシャーだった。
しかし職場先輩に仕事を教えてもらいながら、テーマについても指導を受けた。そして半年後の発表の前、一週間ぐらいは毎日深夜まで発表資料の作成を行なった。
なにせ重役への発表だ。係長、課長と決裁を受けるたびにモデルチェンジをさせられる。
当時はワープロもなく全部手書きだ。本当に泣きそうになるぐらいしんどかった。
そこで泣きながら洗礼を受けた問題解決についてのトヨタの考え方をそっとお教えしよう。
①問題発見(Check)
②目標設定(Check)
③要因解析(Check)
④対策立案(Action・Plan)
⑤対策実施(Do)
⑥効果の確認(Check)
⑦再発防止(Check)
①問題の再発見(Check)
②目標設定(Check)
③要因解析(Check)
④対策立案(Action・Plan)
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1つの問題が完全に解決するまで、何回も何回もこの「管理のサークル」を回し続けるのだ。
このようなことを教えてもらわないトヨタ以外の人も仕事を進めるということは、結局「管理のサークル」を回していることに他ならないということが分かるのではないか。
トヨタのすごいのは、それを改善手法の目で解析し、上記のように文章化により見える化を実現させてしまったことだ。
これを新入社員からすぐに叩き込み。
10年間、OJTで訓練して、係長昇格試験といった意味で「中堅社員特別研修」で総仕上げする。その研修の先生は古参係長か新任課長クラスだ。
トヨタマンがトヨタマンに教育し拡大再生産を行っている。
先にも述べたが、トヨタは3人の天才によりお城が造られた。
それゆえに、その後に続く者はいきなり「問題発見(Check)」から入ることができる。
結局トヨタが「人」に期待するのは「問題解決」なのだ。
トヨタの神様は次のようにおっしゃる。
「トヨタはすでに地盤も石垣も天守閣も現状で考えられる限り最高のものにしあげてある。
しかし時代の変化とともに、必ずそれにそぐわない部分が出てくる。
そこを問題点としてとらえて、それを解決し時代の流れに合わせていくことは『人』の力に頼るしかない。
現状は全て標準化して壁に掛けておいたから、それと実態が違っているものを見つけ出せば、問題点の発見は簡単だろう。
これなら凡人のお前たちにもできるだろう」
ひるがえって、一般の会社を見てみよう。経営者はゆるい地盤にコンクリート製の平屋を建てて、それが城だと錯覚している。
まだ経営者が主導して体制づくりを行なわなければならないのに、明確な指示のないまま「とにかく人材育成が最重点課題だ」ということになる。
なんでもかんでも人に頼られたら人がたまったものではない。結局、人はどうやっていいか分からず苦しむし、まったく会社がよい方向に向かわない。
まず経営者は自分の会社はトヨタ城に比較してどのようなレベルにあるかを知ってほしい。
そして地盤固めから必要だったら、部下に「人材育成」について次のように具体的に指示しなけらばならない。
「君は地盤固めの方法を勉強してきて、実際に行なってくれ」
「君は石垣づくりの方法を勉強してきて、実際に行なってくれ」
「君は天守閣の建築方法を勉強してきてくれ、しかしそれはすぐには実行できない。なるべく早く君の力を発揮できるように、現在準備しているから、それまでにしっかり習得しておいてくれ」
「君は問題解決手法について勉強してきてくれ。
トヨタさんではこれ一本でやれているようだが、ウチはまだ体制づくりが先だ。
しかしその体制づくりの過程でもこの手法は使えるので、その辺を全員が理解した上ですぐに始めていこう」
「Plan」「Do」「Check」「Action」だけなら飯の足しにもならない言葉を、深く深く分析して、実態に合わせて使える道具にまでしたトヨタ自動車の改善魂を知ってほしい。
改善は新規発想はもちろん評価されるが、横展(マネ)でも同じ評価がされる。
要は「実際に行動し原価を下げた奴がエライ」と言う尺度だ。へんなプライドはかなぐり捨てて徹底的にトヨタをマネしよう。