握られているのと握るのとでは雲泥の差

握られているのと握るのとでは雲泥の差

1.人時生産性150%へUP

中小製造企業はとにかく付加価値額人時生産性を高めたいのです。投入できる工数には制約があります。それでも付加価値額を積み上げて豊かに成長発展しなければなりません。

従業員とその家族の人生を豊かにしたい、地元の成長発展に貢献したい、雇用を確保、提供し続けたい……。そのためには、そもそもご自身の報酬も豊かにできなければなりません。そうした経営者の願望を実現させるのが人時生産性です。

目安があります。

中小製造企業 3,000~4,000円/人時 

大手製造企業 6,000~7,000円/人時
(出典:中小企業白書2018年版)

注目したいのはその絶対額ではなく差です。(付加価値額の定義は様々です。各種データの絶対比較は難しいです。)まずは150%を目指します。大手との差を埋めたいのです。

付加価値額の積み上げとは利益アップ、給料アップを実現することに他なりません。多くの中小製造企業経営者が望んでいることです。

会社毎に現時点の人時生産性水準は異なるでしょう。既に大手のモードであるなら、超大手のモードを目指します。低水準の人時生産性に甘んじてきたのなら、まずは大手のモードです。

人時生産性の差は年間規模にそのまま反映されます。2020年版中小企業白書によると、従業員1人当たり年間付加価値額(労働生産性)は大企業製造業で827万円、中規模企業製造業で450万円、小規模企業製造業で248万円(中央値)です。

中小には「伸び代」があります。そう考えるのです。大手だから……、中小だから……と言い訳を考えても、経営者にとってお得なことは何もありません。

 

2.削減の時代から積み上げの時代

時代の流れが大きく変わりました。削減の時代から積み上げの時代です。従来の下請けモデルだけでは厳しくなってきました。顧客要求へ素直に従っていても、行き着くところは価格競争となります。親会社も生き残りに必死です。致し方がありません。

今もこれからもコスト削減の重要性に変わりはありません。しかし、それだけで中小製造企業の命脈を保つのは難しくなってきました。

下請けモデルならなおさらです。既存事業と既存顧客の深掘りだけでは行き詰まります。

そこで、自らの手で付加価値額を積み上げることに挑戦です。貴社にとっての「生殺与奪の権を他人に握らせない」事業を確立します。でも、どうやって?

 

3.付加価値の創出に向けた2つの観点

付加価値の創出に向けた2つの観点があります(出典:2020年度版中小企業白書)
1)新たな事業領域への進出
2)新たな事業分野への進出

1)新たな事業領域への進出
価値を創造する工程の連なりがバリューチェーンです。具体的には、企画、開発・設計、製造、組立て、販売、サービスなどの連なりです。多くの大手は一気通貫バリューチェーンを持っています。

一方、中小製造企業の守備範囲は多様です。企画から最終製品まで手がけているけれども、販売は代理店など外部にお願いしている場合があります。ファブレス企業は企画から開発・設計までです。射出成形、塗装、表面処理、切削加工、熱処理等々、特定の工程だけを提供する場合もあります。

バリューチェーン上で新たな価値創出の工程に挑戦するのが「1)新たな事業領域への進出」です。製造したものを届けて終わりだった状況からメンテナンスを加えることや客先設計段階から参画させてもらい最適な形状を提案すること(デザインイン)などが具体策です。

2)新たな事業分野への進出
従来の主要顧客は自動車分野であったかが、ここで培った加工技術を半導体分野で活かそうと考え、半導体装置業界の企業へアプローチを掛けるのは「2)新たな事業分野への進出」です。製品や工程を活かして新たな業界や分野へ展開します。

弊社がご支援をしている企業様の中にも下記に挑戦しようとしている事例があります。
・金属部品加工業で土木分野から航空産業へ。
・電子機器製造業で一般産業分野から医療分野へ。
・金属表面処理加工業でデザインインを加える。
等々。

また、伊藤が中小製造現場の管理者を担っていたとき新たなメンテナンス事業を拡張しようとお客様へ働き掛けた経験があります。必要に迫られての取り組みでした。

経済が右肩上がりで成長しているなら、既存事業拡大に専念していれば問題はありません。それに連れて企業も右肩上がりで成長できます。パイ全体が拡張しているからです。コスト削減を中心にした効率向上で儲かります。

しかし、今はパイの拡張が望めないどころか、人口減少、少子化でパイ自体が縮小しているのです。限られたパイの奪い合いをすると行き着くところは……。現場も疲弊します。

そうであるなら、新たな付加価値額を積み上げることに挑戦です。同じ苦労をするなら将来へ向けて希望が持てるテーマの方がイイのではないでしょうか?経営者の意思決定次第です。

 

4.新たな事業領域や新たな事業分野へ進出した事例

中小企業白書2020年版にも事例が掲載されています。

●50人規模の自動車用LEDヘッドランプメーカー
大手自動車部品の下請メーカーであったが、値下げ要求が厳しくなり、大手との決別を決意、自動車メーカー、ディーラー、自動車整備工場向けに自社ブランドの自動車用ランプを開発した。自社ブランド品の反響は大きく、現在では整備工場だけで3,000件にも上る顧客を有する。

下請脱却時に売上高は”半分”にまで落ち込んだが、現在は脱却前と同程度に回復した。直販なので利益率は高まった。

●50名規模の設計から製造までを一貫して手がける産業機器メーカー
リーマンショック後に、主力のFA(ファクトリー・オートメーション)事業の売上が激減したため、新しい事業の柱を立てる必要に迫られた。

研究開発部門を立ち上げ、電子デバイスの耐久試験装置の開発に成功した。同試験装置で国内シェア9割、世界シェア9割を獲得するまでに成長した。自動車分野で培った評価試験技術を活かした。

●90名規模のインテリア製品や業務用資材の加工・輸入販売企業
70年前に木製ねじ製造で創業、カーテンフックやキーホルダーリングなどの線材加工も手がけたが、事業が伸び悩み2000年代初めには従業員6名まで減少した。

現社長が第二創業としてDIYに興味を持つ人の裾野を広げることを目指した。WEBサイトでの販売、自社ブランドの立ち上げ、自社製品カフェなどの新たな流通チャネル設置、大手家電量販店とのコラボに取り組んだ。その結果、一町工場から、ユニークな内装材を扱う企業へと成長した。

●20人規模の運輸業企業
大手物流会社の下請業者として、BtoBの配送サービスを展開し、順調に業績を拡大していた。しかし、2001年、売上高8割を依存する取引先企業の配送業務内製化で収益の柱を失い、倒産寸前に追い込まれる。

そこで、トラックに特化した時間単位制のレンタカーサービスとプロドライバーによる運転サービスを独自に組み合わせた。独自サービスの企画・開発である。自社ブランド構築と新サービスに適したシステム構築への投資を実行、現在、下請業務はほぼなくなった。

●30人規模の設備工事企業
地元の公共施設や福祉施設、商業施設などの空調・換気設備や衛生設備の設計・施行を一貫して行っていたが、地方では人口減少で市場が縮小、大都市圏へ進出した。しかし、自社のみで請け負える工事の規模には限界があった。

そこで、同業他社の買収を積極的行い、中小企業の連合体として、付加価値増大を実現している。単体での売上高は16億円に対してグループ全体では35億円に上る。

経営者が先頭に立って新たな事業流域や新たな事業分野へ進出し独自のイノベーションを起こしています。現状の延長線上に生き残りの道は描きにくいのです。挑戦がなければ成長発展はありません。

イノベーションに企業の規模は関係ありません。そもそも、規模が小さいほどチームの柔軟性、機動性、小回り性は高まります。その意味では、中小は大手より変わることに有利なはずです。経営者の決断次第です。

 

5.新たな事業領域や新たな事業分野へ進出した効果

新たな事業領域や新たな事業分野へ挑戦した効果を、東京商工リサーチの「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」で確認できます。

1)新たな事業領域への挑戦
●販売単価と販売数量への影響 (n=706)
・新たな事業領域へ進出したが、販売単価も販売数量も影響はなかった 28.8%
・新たな事業領域へ進出したら、販売単価の上昇につながり、販売数量の増加にもつながった 39.8%

●労働生産性の変化
・新たな事業領域へ進出した:労働生産性110.4万円増 (n=370)
・新たな事業領域へ進出せず検討もしていない:労働生産性100.4万円増 (n=1,145)
(労働生産性の変化とは2018年時点と2013年時点の労働生産性の差のこと)

2)新たな事業分野への挑戦
●販売単価と販売数量への影響 (n=600)
・新たな事業分野へ進出したが、販売単価も販売数量も影響はなかった 35.7%
・新たな事業分野へ進出したら、販売単価の上昇につながり、販売数量の増加にもつながった 36.0%

●労働生産性の変化
・新たな事業領域へ進出した:労働生産性114.2万円増 (n=320)
・新たな事業領域へ進出せず検討もしていない:労働生産性99.4万円増 (n=1,003)
(労働生産性の変化とは2018年時点と2013年時点の労働生産性の差のこと)

新たな事業領域や新たな事業分野へ挑戦して付加価値額を積み上げます。これが中小製造企業、成長発展の道、生き残り策です。

 

6.「生殺与奪の権を他人に握らせない」事業を確立

貴社にとっての「生殺与奪の権を他人に握らせない」事業を確立する観点は2つです。

1)新たな事業領域への進出
バリューチェーン上で新たな価値創出の工程に挑戦する。

2)新たな事業分野への進出
製品や工程を新たな業界や分野へ展開する。

共通しているのはコア技術の強化・専門化です。ここに焦点を当てます。いろいろなことへ闇雲に手を広げても、少数精鋭の中小製造現場では失敗するからです。

規模感と資本力にブイブイ言わせて多様な取り組みが可能な大手と同じ戦略ではせっかくの挑戦が頓挫します。

技術を専門化して、商品、製品、サービスの対象を広げます。逆は避けなければなりません。商品、製品、サービスを既存分野に絞った上での技術分野拡張はリスクが伴います。

新たなコア技術開発が必要になるからです。それに既存分野での価格競争が激化したら目も当てられません。

少数精鋭の中小製造企業は「コア技術の強化・専門化」戦略です。新たな事業領域や新たな事業分野へ進出するにもやり方があります。貴社の強みを活かして、「生殺与奪の権を他人に握らせない」事業を確立したいのです。

確立までの道のりは険しいかもしれません。しかし、自社で事業をコントロールできるのです。「握られている」のと「握っている」のとでは雲泥の差です。

多くの企業様がロードマップを作成し5年先、10年先を見通しながらイノベーションへ挑戦しています。手順を踏めば、独自の付加価値額積み上げを見つけられるのです。

次、成功するのは貴社の番です!

一緒に挑戦しましょう。

挑戦する経営者を応援しています。

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)